惚れ直した気分だ
風がうねりをあげて渦巻き、周囲の物体を引き寄せながら竜巻へと変化していく。竜とはよく言ったもので、吹き上がる風は、まさに天に昇る竜のように見えた。
「……くっ」
恐ろしい攻撃、なんとか踏ん張ってはいるが……これ以上は……。絶体絶命という言葉がしっくるくる状況ではあるが、だからこそ見えてくる活路もある。
戦いとは攻めるべき時と引くべき時の見極めが重要。いまは、そう、攻める時だ!
「ははは、これで終わりですよ! カイトさん! よく頑張ったと、褒めてあげましょう……しか~し! 私に勝つには、まだまだ……」
「それは……どうかな?」
「……へ?」
「目には目を……お前が竜巻でくるなら、こっちも竜巻で勝負だ!」
強い意志を込めて放った言葉。それに呼応するように魔力が風へと変わり、この場に二つ目の竜巻を発生させた。
ぶつかり合う風の竜たちを見て、アリスは驚愕したような表情で叫ぶ。
「なんですとっ!? こ、ここで、私と同じ技を……この短期間に習得したって言うんですか!? し、しかも、これは……逆回転!?」
「……そう、だが……このぶつかり合いは、互角じゃない。俺とお前の間には、大きな差がある!」
「差? ッ!? しまっ、ま、魔力が!?」
「派手なパフォーマンスを多用しすぎたな……喰らえ!」
「あぁぁぁ!? そ、そんな……私の『アリスちゃんデリシャススピンスペシャル』が……」
竜巻同士のぶつかり合いは俺に軍配が上がり、アリス……の『魔導ゴマ』が大きく吹き飛んでリングアウトした。
「よし、勝った!」
「ぐ、ぐぬぬ……まさか、初心者のカイトさんに、こうもアッサリ土をつけられるとは……正直言って、超悔しいです」
「あはは、俺もやられてばかりじゃないってことさ……それはそうと……滅茶苦茶面白いなこの魔導ゴマ!」
「でしょう! これも、アリスちゃんの自信作ですからね!」
そう、現在俺とアリスはVRゲームのあとに訪れたアトラクションで、アリスが考案した魔導ゴマで遊んでいた。
名前から分かる通り、日本のこま回しが元になっているが、中身はかなり違う。
まず、紐を巻いたりせずフリスビーを投げるみたいな感じで投擲すると、コマ内部の魔力が自動的に放出され勢いよく回転してくれる。
さらに、付属の魔水晶と握りながら頭に思い浮かべることで、完璧にではないがある程度コマの動きをコントロールすることができる。
コマ自身にも魔水晶が使われており、中に蓄えられた魔力を自動変換して、炎の体当たりや、先程の竜巻みたいな……必殺技を繰り出してくれる。
「特に、コマに内蔵できる魔力が一定だから、俺とアリスみたいに極端な魔力差があっても、互角の条件で戦えるってのがいいな」
「ええ、その辺はかなり考えてますよ。超反応とかできないように、あえてコマが指示を受けて動く速度も落としてますからね」
「これも、発売したらすごく流行りそうだな」
「あはは、でも、これも結構材料が高価で、発売はまだ先になりそうです。それでも、VRよりはよっぽど早く完成するでしょうけどね」
いや、しかし、正直俺はアリスプロデュースの祭りを舐めていた。最初のVRもそうだが、次に訪れたこの魔導ゴマも本当に楽しく、夢中になってしまった。
次はどんなアトラクションだろうか? 楽しみでしかたない。
「……じゃあ、次は少し趣向を変えて、体感アトラクションにでも行ってみましょう!」
「体感アトラクション?」
「ええ、アトラクション名はズバリ『体験してみよう。爵位級高位魔族の身体能力』です! これも、私の考案した新技術が盛り沢山ですよ」
「……正直、滅茶苦茶楽しみだ」
ここまでのアトラクションで、俺の期待値は凄まじいほどに上がっている。ワクワクする気持ちを抑えきれないまま、俺はアリスと共に早足で次のアトラクションへ向かった。
そこはかなり大きな屋外型のアトラクションみたいで、小さいながら岩山のようなものや、短距離走用のトラックみたいなものもあった。
そこについてすぐ、俺はアリスに連れられて10メートルぐらいの岩山の前に案内され、小さなボールを手渡された。
「じゃ、カイトさん。あの岩山に向かって、そのボールを投げてみてください」
「え? う、うん。分かった」
いまいる位置から岩山まではそれなりの距離がある。俺の肩では届きそうにないな……。
そんなことを考えつつ、振りかぶってボールを投げると……俺の手を離れたボールは、閃光のような速度で岩山にぶつかり、それを粉々に粉砕した。
「……え? い、いま、なにが? お、俺普通に投げただけなのに……」
「ふふふ、それが爵位級高位魔族のパワーです!」
「な、なにがどうなってるんだ?」
「えっとですね。実は仕掛けはボールです。そのボールは、投げると急激に加速してなにかにぶつかると強力な衝撃波を発生させます。もちろん安全面の対処はバッチリで、生物には当らないようになってます」
な、なるほど、俺が凄まじいボールを投げたのではなく、ボールのほうが加速したのか……なるほど、これはよく考えられてるし、面白い。
「カイトさん! 次はコレです!」
「でかっ!?」
アリスが取り出したのは、4メートル四方はありそうな鋼鉄のブロックだった。コレをどうしろと言うんだろうか?
「ささ、カイトさん。思いっきり殴ってみてください」
「い、いやいや、そんなことしたら俺の手が……」
「大丈夫です。私を信じて、ほら!」
「……うっ、わ、分かった」
なにかこの鋼鉄のブロックにも仕掛けがあるってことだろう。そう考えた俺は、アリスを信じて、言われた通り思いっきり鉄のブロックを殴る。
すると、ゼリーを殴った程度の弱い抵抗を感じたあと、俺の拳は鉄のブロックを粉々に砕いた。
「……お、おぉぉ!」
「この鋼鉄のブロックは、生物に接触すると、極端に柔らかくなるんです。そして、一定時間で再生します。どうですか? 爵位級のパンチ力を体感した気分は?」
「……す、すごい」
これはなんというか、言いようのない気持ちよさがある。まるで自分が強く……超人にでもなったかのような感覚が味わえる。
なるほど、こういう感じか……このアトラクション内であれば、お世辞にも優れているとは言えない身体能力の俺も、擬似的に爵位級魔族の力を体験することができると……。
すごい、またテンションが上がってきた。男の子なら誰もが一度は夢見たであろうスーパーパワー。疑似体験とはいえ、滅茶苦茶楽しい。
「他にも、周囲の景色が流れることで、超速と体験できるものとか……演出用魔法具で、大魔法を放ったりもできますよ」
「……体験してみたい。特に魔法」
「ふふふ、では、順番に回っていきましょう!」
拝啓、母さん、父さん――なんというか、ここ数時間で俺の中でアリスの株が爆上げ状態である。着ぐるみだとか、変なものしか作らないかと思っていたが、こんなに楽しいアトラクションを作りあげてしまうとは……なんというか――惚れ直した気分だ。
~今日のハイライト(嘘)~
???「……ラインを越えろ」
シリアス先輩「……え?」
???「ファールラインを越えろ! 剣は翼だ!」
シリアス先輩「……だから、古いネタは止めろと!!」
シリアス先輩「なるほど、和気あいあいとしていて楽しい雰囲気だね……で? シリアスを疑似体験できるアトラクションは?」
???「ないです」
シリアス先輩「なんで!? 目玉アトラクションじゃん! 私、行くのに!!」
???「というか、疑似でいいんですね……どんどん志低くなってません? シリアス先輩」
シリアス先輩「……そ、そそ、そんなことは……」




