俺の人権どこいった?
仮想世界で行うレースゲームは、本当に面白かった。仮想世界だからこそできる海の中を走るコースや、空の上に作られたコースなどもあって、時間を忘れて熱中した。
アリスとの勝敗は1勝4敗、負け越しだが、最後のレースで一勝をもぎ取ることができたので、結果的には大満足だ。
そして、そろそろいい時間なので一般に開放するとアリスが告げ、俺たちは仮想世界から元の世界へと戻ってきた。
「……いや、でも、本当に楽しかった。完成したらまた遊んでみたいな」
「気に入ってもらえたようで、なによりですよ。まぁ、まだまだコスト面とか技術面とかクリアしなくちゃいけない課題が多いので、完成は当分先……十年以上はかかるでしょうけどね。でも、カイトさんにはまたテストプレイをしてもらいますよ」
「それは、ありがたいな。正直、楽しみでしかたない」
「あはは、まだまだ他にもアトラクションはありますので、そっちも期待してくださいね」
やはりアレだけのゲームを完成させるのは、本当に難しいみたいだ。魔法具の第一人者であるクロと、様々な知識を持つアリスが協力しても完成に十年以上かかるとは……。
しかし、実際プレイしてみた感じだと、もうほとんど完成と言っていいような出来だった気もするが……なにかまだ重大な問題があるんだろうか?
そんなことを考えていると、俺の疑問を察したアリスが苦笑を浮かべながら口を開いた。
「……さっきも言いましたけど、構想自体はかなり前からあったんです。ちなみに、コンセプトは……『アイシスさんの願いを叶える』です」
「……え?」
「現実世界で、アイシスさんの死の魔力を抑えるのは……アイシスさんという存在の根底でもある以上、これといった方法がなかったんですよ。そこれ考えたのが、精神分体です。精神分体は本体に比べれば、かなり魔力も落ちます。それなら外部術式で補助すれば、大規模結界の中でなら死の魔力を抑えられるのではと、まぁ、そんな風に考えたんですよ」
「……」
「ですが、やはり精神分体かつ大規模結界……ようするに仮想世界の中と限定しても、アイシスさんという存在に影響を与えないままで、死の魔力を抑え込むのは難しかったんです。コスト面や技術面の問題もあって、試してみるのも難しかったですからね」
なんと、あの仮想世界を作ろうと考えたのは、アイシスさんのためだったということらしい。アイシスさんの夢、それは間違いなく「力が弱くとも自分を受け入れてくれる相手と出会いたい」というものだろう。
アリスの口振りから察するに、相当昔から考えていたみたいだ。
「まぁ、完成の目途も経ってなかったですし、上手くいくとも限りません。なので、変に期待させてしまわないよう、他の面々には内緒にしていました。まぁ、元々はクロさんがひとりで考えていて、この世界にない技術の知識を持っている私に協力を願ってきた感じですね」
「それで、アリスも協力したのか」
「ええ、クロさんには恩がありましたし……アイシスさんに関しても、まぁ、ほんのスズメの涙ほどは同情してました。いや、私は本当にどうでもよかったんですけどね。クロさんがあまりに頼むのでね」
「……素直じゃないな」
「……こほん。ともかく、そういう目的で企画したんですけど、まったく上手くいかない上、実験用道具ひとつ作るのすら大変で……結局半分凍結してた企画ですよ」
そこで一度話を止め、アリスは俺の方を向いて明るい笑顔を浮かべてから、再び口を開いた。
「……結局、カイトさんが現れたことで、アイシスさんは救われました。それどころか、カイトさんのおかげで、シャローヴァナル様の協力を得ることができて、一気に企画が進行しましたね。カイトさん、マジ『特異点』」
「あ、あはは、まぁ、役に立てたなら……うん? ちょっと待て、いまお前、なんて言った? 俺のお陰でシロさんの協力を得れた?」
「え? えぇ……いままでクロさんが頼んでも『興味がない』の一点張りだったシャローヴァナル様が、今回はカイトさんとのデートを条件にとはいえ、惜しみなく協力を……」
「……俺とのデートが条件?」
「……言ってませんでしたっけ?」
ちょっと待って、なんかいま聞き捨てならない単語が聞こえた。確かに七日目をシロさんと回ることは約束した。なんか俺の方から誘うように誘導された感じではあったが、それは問題ない。
「なぁ、アリス。まさかだよ。まさかとは思うんだけど……シロさんが協力するための条件に、俺の知らないところで交渉してたとか、そんなことないよね?」
「……い、いや、協力取り付けたのはクロさんなので……なんでも『クロばっかりずるいです』とエンドレスリピートされて仕方なくとか……」
「……あぁ、なるほど……」
確かに、あのエンドレスリピートはキツイ。クロが押し切られてしまったのも仕方ないとは思う。だが、それでも、一言だけ言っておきたい。
「……ちなみに、アリス……人権って言葉知ってる?」
「……いや、私異世界出身なので、日本国憲法はちょっと……知りませんね」
「視線逸らすな、こっち向け。お前絶対知ってるだろ」
拝啓、母さん、父さん――なんというか、まぁ、シロさんとデートすること自体が嫌なわけではない。それに、クロやアリスに協力できたのなら、むしろ良かったとも思える。なので、そのことに関してクロやアリスを責める気はないが……ただ、ひとつだけ、確認しておきたい――俺の人権どこいった?
シリアス先輩「お前の人権ねぇから! ザマァ見ろ快人!!」
???「まぁ、カイトさんに無い以上、シリアス先輩にも無いですけどね。人権も、シリアス権も……」
シリアス先輩「ふざけるなお前たち! 快人をなんだと思ってるんだ!! もっと尊重してやれよ!!」
???「まぁ、カイトさんに人権があったとしても……シリアス先輩にはないですけどね」
シリアス先輩「……」
~実際のやり取り~
クロ「いい、シロ? カイトくんの七日目の予定を空けることにはOKだしたけど、デートするかどうかは、ちゃんとカイトくんに確認するんだよ! 無理やりとか許さないからね!!」
シロ「……貴女は、勝手に予定を入れたのでは?」
クロ「……ボクはいいの……恋人だから」
シロ「……むぅ」
エデン「……なるほど、では、私も我が子に……」
クロ「お前は絶対駄目!」
エデン「……不敬」




