憧れの空間へと飛び込んだ
イメージはゲームセンターという話だったが、中央塔のある中央広場はそれほどごちゃごちゃしている感じではなく、むしろオーソドックスな祭りの出店が並んでいるように見えた。
軽く視線を動かしながら足を進めていると、アリスが俺を見上げながら明るい笑顔で口を開いた。
「カイトさん、私は隠し事はしまくりますが、出し惜しみはしないタイプです! ここはいきなり目玉アトラクションに行こうじゃありませんか!」
「え? いや、あんまりグロいやつは……」
「そっちの目玉じゃねぇっすからね!? というか、目玉がメインのアトラクションってなんですか!?」
ああ、打てば響くこの感じ、流石アリスである。こういう他愛のない冗談を言い合える空気が、すごく好きだ。
「ははは、冗談……それで、目玉アトラクションってのはどんなやつなんだ?」
「ふふふ、聞いて驚いてください。なんと、アリスちゃんがクロさんと共同で開発した新技術を使ったアトラクションです!」
「……むむ、たしかにそれは凄そうな気が……」
「ええ、ぶっちゃけ時間が経てば経つほど混むでしょうし、早目に行っておきたいんですよね。まぁ、もちろん私は顔パスなんですが、有象無象がチョロチョロしてるよりは、カイトさんとふたりきりのほうが楽しそうです」
そう告げながら手を引くアリスに苦笑しつつ、案内されるままに移動する。
しばらく歩くと、そこには劇場ぐらいだろうか? 大きめの建物があった。だが、別に外観が奇抜だったりするわけでもなく、巨大な遊具らしきものも見えない。
……新技術。それも冥王であるクロと幻王であるアリスが共同開発したとなれば、革新的なものだとは思うけど、外からでは想像できない。
「ささ、入ってみましょう」
「う、うん……というか、誰もいないな」
「そこはほら、権力でごにょごにょしまして……私たちが遊び終えるまでは立ち入り禁止にしときました」
なんか凄く悪い顔してた気がするが、まぁ、アリスだし……気にしないことにしよう。
そしてアリスと共に建物の中に入ってみると、目に飛び込んできたのは驚きの光景だった。
「……って、着ぐるみだらけじゃねぇか!! なにこれ? ホラーハウス?」
「おっと、カイトさん、見くびらないでください。見た目は着ぐるみですが、最新鋭の技術と魔法術式をふんだんに使った最高の一品ですよ。サイズも豊富です」
「……」
「カイトさんには、特別に『ベヒモスの着ぐるみ』を用意しました。さぁ、さっそく装着――みぎゃ!?」
「するかっ!」
なにしてんだコイツ!? 馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、まさかここまで趣味全開のふざけたアトラクションを作るとは思わなかった。
着ぐるみ着て遊ぶエリアって、誰を対象にしてるんだ……子供か? 子供用のアトラクションなのか?
「いたた……待ってください、カイトさん。まだ一番重要な機能を説明してません。これを聞けば、カイトさんの掌がクルっと回転しますよ!」
「……胡散臭い」
「ひどっ!? と、とにかく聞いてください。見た目は着ぐるみですけど、それはある特殊な機能を内蔵した最新型の魔法具なんすよ」
呆れ果てていた俺に対して、アリスがどこか必死な様子でアピールしてくる。俺にはただの着ぐるみにしか見えないが……まぁ、クロの協力しているんだし、なにか凄い機能があるってのはあながち嘘とも思えない。
しかし、まぁ、まともなものとは……。
「なんとそれを装着することで、『自動的に精神分体を生成』して『あらかじめ作っておいた仮想世界に入り込んで遊ぶことができるんです』よ!!」
「……え?」
どうせくだらない機能だろうと思っていた俺は、アリスが告げた言葉に完全に硬直する。
え? ちょっと待って? どういうこと? 精神分体ってのは、思念体とかそういうをイメージするとして、仮想世界に入り込んで遊べる?
そ、それって、アレじゃないのか……ゲーム好きの多くが夢見る未来のひとつである……。
「そう、このアトラクションは、カイトさんの世界で言うところの『ダイブ型VRゲーム』なんです!!」
「……なんっ……だって……」
「ふふふ、驚いて声も出ないようですね。そう、この着ぐるみを着ることで、仮想世界に行くことができるのです! しかも、その着ぐるみには体の保護機能や、長時間ダイブしていた時に自動的に精神分体を戻すなど、サポート面でも充実した機能を持っています!」
「……ま、マジで?」
「マジです」
あ、憧れのゲームの世界に入り込むVRだと……すげえ、ちょっと本気で凄い。こんなの作ろうと思うなんて・……アリス、未来に生きてるな……。
話を聞く前はほとんどゼロだった興味が、いまの少しの説明だけで上限を軽く突破した。いまはもう、早くプレイしたくてたまらない。
「……まぁ、というわけで着てみてください。着ると自動的にダイブします。その先の説明は、仮想世界で遊びながらしましょう」
「わ、分かった。わ、悪いアリス。はやとちりして馬鹿にしてしまった。お前は、本当に凄いやつだ」
「ふふふ、もっと褒めてくれていいんですよ!」
「……ちなみに、なんで着ぐるみ型?」
「カッコいいじゃないですか!」
「……え?」
「え?」
ま、まぁ、アリスの妙な趣味はともかくとして、これはテンションが上がってきた。
仮想世界か……ど、どんな感じなんだろう? やっぱりMMOみたいなファンタジー系かな? いや、近未来ってのもありだ。
心からワクワクしながらアリスに渡されたベヒモスの着ぐるみを着る。まず胴体部分を着て、最後に頭部分をかぶせると……俺の意識は眠るように薄れていき、仮想世界へと旅立った。
拝啓、母さん、父さん――ちょっと今回ばかりは、アリスのことを心の底から尊敬した。まさか夢のVRを作り上げてしまうとは……マジックボックスとか異空間に関わる魔法が存在するんだし、たしかに不可能じゃないかもしれない。ともかく、俺は非常に高いテンションのまま――憧れの空間へと飛び込んだ。
●●●「……私でも作れました。快人さんは私を頼ってくれません。私を頼れば万事うまくいきますのに……」
▲▲▲「……なぜ我が子は母に相談してくれないのでしょうか? 愛しいわが子の為なら、いくらでもそんな空間は作りだしてあげますのに……」
●●●、▲▲▲「「……うん?」」
●●●「……ここは私の世界です。勝手なまねは許しません。必要であれば私が動きます。引っこんでいてください」
▲▲▲「母が子を助けるのに、世界などというものは関係ありませんよ。貴女こそ余計な手出しはやめて貰いましょうか」
●●●、▲▲▲「「……あ”?」」




