一周年記念番外編「月夜のダンスをもう一度」
アルベルト公爵家。いまや国王に匹敵するほどの発言力を持つとされるその屋敷の主……リリア・アルベルトは執務室で難しい表情を浮かべていた。
彼女が見詰める先には、一通の招待状が置かれていた。
「……どうしましょうか……悩みますね」
「お嬢様、その台詞……もう三十回目ですよ。いい加減覚悟を決めてください」
リリアの専属メイドであるルナマリアが呆れたような表情で話しかけるが、リリアはなにかを悩むような表情のまま招待状から目を離さない。
それを見て、ルナマリアは大きなため息をついてから口を開く。
「たかが『夜会にミヤマ様を誘う』だけでしょ? さっさと決心すればいいじゃないですか……」
「い、いえ、ですが……カイトさんはこういった貴族の催しはあまり好んでいませんし、そもそもカイトさんはかなりの有名人ですから騒ぎになってしまいますし……あと、恥ずかしいですし……」
「最後のが本音でしょう……」
現在リリアが悩んでいるのは、本当に単純な内容だった。彼女が快人と結ばれる大きなきっかけになったパーティ……そこで快人と踊り、心から楽しかったのでまた踊りたいと考えているだけだった。
快人が恋人であるリリアの誘いを断るとは思えない、時間は確実に作ってくれるだろう。貴族であるリリアにとってダンスの含まれるパーティへ参加することは難しくなく、場所も簡単に用意できる。
そこに至るまでに必要な条件だけを並べてみれば、それは全て簡単に達成できた。しかし、ひとつだけ……リリアが極度の恥ずかしがり屋であるという点が、致命的なまでに足を引っ張っていた。
以前快人と踊った時とは違い、現在のリリアは快人の恋人……恋人同士のダンス、それを大勢の人達に見られる場所で……と考えると、どうにも恥ずかしくてなかなか快人を誘えないでいた。
「……お嬢様、よくそんな様で『ミヤマ様と婚約』なんてできましたね」
「あ、あれは……カイトさんがリードしてくれたので……その……」
「はぁ、お嬢様は本当に……毎回毎回、舞踏会や夜会の招待状が来るたびに悩むぐらいなら、いいかげん覚悟を決めてくださいよ」
「うぐっ……わ、分かっています。で、でも、その前にカイトさんの都合とかもあるでしょうし、予定をしっかりと把握して、万全の準備を整えたうえで……」
頬を赤く染め、ツンツンと指を突き合わせながら呟くリリアを見て、ルナマリアは再び大きな溜息をついた。
「ああ、また今回も誘えなさそうだ」と、そう思いながら……。
夜会から帰る馬車の中で、私はガックリと肩を落としました。
また、カイトさんを誘えなかった。うぅぅ、なんでこう、私は意気地がないんでしょうか……自分で自分が嫌になります。
結局、今日の夜会も誰とも踊らずに帰ることになってしまいました。
幸いというか、なんというか……クロノア様の本祝福を受けた私は、貴族間において非常に高い立場を得ており、ダンスに誘われても「今日は踊る気はない」ですみます。
最近では、私はダンスが嫌いなのだと思われているのか、会話だけしてダンスに誘わないという方も増えてきました。
まぁ、それに関しては……私もカイトさん意外と踊りたいとも思わないので、問題はないのですが……問題は、そのカイトさんとすら一度も踊れてない点でしょうね。
何度も誘おうとして尻込み……本当に情けない話です。ルナもかなり呆れていました。
それに、いつまでもこのままというわけにもいきません。婚約も済ませ、私とカイトさんは近い内に結婚します。
夫婦になるというのに、いつまでもこんな細かなことに恥ずかしがっているようではカイトさんにも失望されてしまうかもしれません。
……次……次こそは、ちゃんとカイトさんを誘いましょう。
何度目になるか分からない決意を固めると、ちょうどそのタイミングで馬車は屋敷の前に辿り着きました。
門を入ってすぐのところで馬車から降り、私は月明かりに照らされる庭を歩いて屋敷に向かいます。
普段は屋敷のすぐ前まで馬車で移動していますが、月明かりに照らされる庭を眺めるのが好きなので、夜会から帰って来た時だけはこうして門から歩くことにしています。
静かで、それでいて幻想的な……夜空に煌く星を眺めながら夜風に当たると、不思議と心が落ち着いていくように感じます。
そのままゆっくりと景色を楽しみながら歩いていると、庭の中心、噴水のある辺りに人影が……。
「……え? か、カイトさん?」
「こんばんは、リリアさん」
「あ、は、はい。こんばんは……」
なぜ、カイトさんがここに? いえ、それ以上に……なぜ『礼服』を着ているのでしょうか?
思わぬタイミングで正装したカイトさんと出会い驚愕している私を見て、カイトさんは柔らかく微笑んでから口を開きました。
「いえ、月がすごく綺麗で……前にリリアさんと踊った夜会のことを思い出しまして……なんとなく、リリアさんに会いたくなってね」
「……カイトさん」
優しく微笑むカイトさんを見て……ようやく私は、ルナが裏で手を引いたことに気付きました。いつまでたっても勇気の出せない私を見かねて、でしょうね。
……本当に、普段は憎まれ口ばかり叩くくせに、なんだかんだでいつも私の味方でいてくれる。つくづく面倒な性格をしていますね。私の大好きな親友は……。
カイトさんはそれ以上なにもいわず、ただ微笑みを浮かべたまま私を見詰めています。待ってくれているのでしょう。私が勇気を出すのを……。
親友がここまで背中を押してくれて、愛しい人がそれに応えてくれようとしている。ならば、いまさら恥ずかしいなどとは言えませんね。
「……カイトさん、こんな素敵な夜に貴方とこうして会えたのは、本当に喜ばしいことです。この喜びを幸せな思い出として残したいと、そう思うんです」
「……」
「だから、その……どうか私と……踊ってくれませんか?」
「はい。喜んで」
そう言ってカイトさんは恭しく頭を下げ、スッと私に近付いて手を取ってくれました。
そして、カイトさんが軽く視線を動かすと、少し離れた場所に様々な楽器を持った幻王様の分体が現れ、美しい旋律を奏ではじめます。
……まったく、幻王様を楽団扱いとは……この人は本当に……なんだか、ちっぽけなことで悩んでいた自分が、恥ずかしくなってきました。
「では、踊りましょうか?」
「はい。よろしくお願いします、カイトさん」
優しい月明かりの元、私達のダンスが始まります。決して派手では無く、特別上手いとも言えないダンスかもしれません。
しかし、そう、胸に湧き上がる幸せな気持ちは……とても大きいものでした。
カイトさんと心が通じ合っているような、いまこの瞬間だけは世界に私をカイトさんだけしか存在しないような……そんな時間。
心行くまで踊れば、かなりの時間が経っていることでしょう。ですが、きっと、私……いえ、私たちにとっては、とても短い時間だったと感じると思います。
そのあとは、どうしましょうか? カイトさんと夕食を食べて、眠りにつくまで語り合って……いえ、その前に、いつかのダンスの終わりと同じことをしてみましょうか?
あとで身悶えしてしまうかもしれませんが、いまは溢れんばかりの幸福が私を後押ししてくれます。
そして、呆気にとられたような表情に変わるカイトさんに向かって、お願いしてみましょう。今度一緒に夜会に参加してくれないかと……きっと貴方は、優しく微笑みながら頷いてくれると思います。
一緒に夜会に参加したなら、そこで普段よく話す貴族に貴方のことを紹介しましょう……自慢の婚約者だと……。
未来が際限なく思い浮かぶ、そしてそれは現実になると確信を持って口にできる……ああ、なるほど……これが、きっと『心から幸せ』だという感情なのでしょうね。
ありがとうございます、カイトさん。こんな私を選んでくれて……きっと、後悔はさせません。いま私が感じている気持ちを貴方にも感じてもらえるよう、いままで以上に頑張ることにします。
だから、これから先もこうして……貴方の傍に居させてください……愛しています。
シリアス先輩「昨日、いつも通りあとがき行ったんです。あとがき。そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで、ロクにコメントできないんです。で、よく見たらなんか垂れ幕さがってて、あとがき50文字増量とか、書いてあるんです。もうね、アホかと。馬鹿かと。お前らな、50文字ごときで普段来てないあとがきに来てんじゃねーよ、ボケが。50文字だよ、50文字。なんか別世界の奴とかもいるし、世界越えてあとがきか。おめでてーな。『よーし、母、我が子の為に普段の十倍コメントしてあげましょう』、とか言ってるの。もう見てらんない。お前らな、50文字本編でコメントさせてやるから、さっさと帰れと。あとがきってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。くそ着ぐるみ女といつ喧嘩が始まってもおかしくない。刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。本編キャラは、すっこんでろ。で、やっとコメントできたかと思ったら、隣の奴が、イチャラブ風でお願いします、とか言ってるんです。そこでまたブチ切れですよ。あのな、イチャラブ風なんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。得意げな顔してなにが、イチャラブ風で、だ。お前は本当にあとがきでイチャラブをしたいのかと問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。お前、イチャラブって言いたいだけちゃうんかと。あとがき常連の私から言わせてもらえれば、いま、あとがき常連の間での最新流行はやっぱり、シリアス風、これだね。本編シリアス、あとがきシリアス、あわせてダブルシリアス。これが通の嗜み。本編のシリアスにあとがきのシリアスが合わさって、これ最強。しかしこれをやると、作者が全力でコメディ寄りに改変してくるという危険も伴う、諸刃の剣。素人にはオススメできない。まぁ、お前らド素人は、せいぜい本編でいきがってろってこった。べ、別に羨ましくなんてねぇからな!!」




