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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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一周年記念番外編「始まりの来訪者中編①・幻王誕生」



 魔界の一角、強大な力を持つ魔族達が家族として生活している巨大な……もはや城と呼べるレベルの家。その屋根の上に座り、顔の見えない黒いローブを身に付けた少女……シャルティアは、ボンヤリと夜空を眺めながら考えごとをしていた。

 彼女がこの世界に来て、クロムエイナの家族となってから……数百年が経った。その間に家族が増えたり、神界に攻め込んだりといろいろなことがあった。
 ここでの生活が不満なわけではない。始まりはどうであれ、いまは家族達に対しても一定の親愛は抱いているし、クロムエイナには感謝もしている。
 しかし、それでも……シャルティアの心は、酷く空虚だった。

 理由は簡単……シャルティアは、その名の通り自分自身をただの欠片としか認識していない。自分はかつてアリシアという少女が抱いた幻想、親友の願いを叶えたいという思いの欠片であり、己にはそれしかないと認識していた。
 親友の願いを叶えて死ぬ……シャルティアの砕けた心にとって、それだけが唯一絶対のものだった。

 ここでの生活に不満があるわけではない……しかし、目的の邪魔になると感じたら切り捨てることに躊躇はない。
 家族たちに一定の親愛は抱いている……だが、必要であればその命を断つことを躊躇はしないだろう。
 クロムエイナには感謝もしている……けれど、他の家族たちのように盲信しているわけではない。せいぜい、手助けが出来ることがあるならしてあげようと、その程度だ。

 シャルティアは己の目的を遂行することしか考えていない……それしか、砕けた心で縋れるものがない。早く親友の願いを叶えて死にたい。常にそう思ってはいるが、皮肉なことにソレは数百年経っても進展していなかった。
 彼女は元は人間だったという認識が強く、人間以外を恋愛の対象として見れなかった……いや、正しくは、人間以外を恋愛対象として見ることは、無意識のうちに『妥協』のように感じてしまっていた。しかし、皮肉なことに本人はソレに気付いておらず、自分の理想に叶う相手が現れないことに苛立っていた。

 苛立ちと焦りを鎮めるように星空を眺める……しばらくそうしていると、ふと声が聞こえてきた。

「シャルティア、こんなところで、なにしてんだ?」
「……メギドさん。いや、ちょっとした考えごとですね」

 人型に姿を変えたメギドが屋根の上に現れると、シャルティアは軽い溜息を吐きながらローブの中で視線を動かす。

「……メギドさんは、いまの魔界をどう思います?」
「あん? どういうことだ?」
「弱肉強食、醜くても強い者が私腹を満たし、清くとも弱い者は隠れて怯えるか傘下にくだるしかない。毎日のようにあちこちで小競り合いが起きて、多くの命が消えていく……私は、どうしてもいまの魔界が好きになれないんですよね」
「……ふむ」

 淡々とした口調で話しながら、シャルティアはどこからともなくふたつの杯を取り出し、片方をメギドに放り投げる。
 メギドがそれを受け取って自分の隣に座るのを確認したあとで、酒瓶を取り出して酒を注ぎながら口を開く。

「メギドさんはどうです? 戦い好きの貴方にとっては、いまの魔界は素敵な場所ですか?」
「いや、俺もいまの魔界は嫌いだな……」
「おや? 意外な返答ですね。てっきり『闘争こそ俺の本能』とか言うのかと……」

 杯に注がれた酒を飲みながら話すメギドの言葉に、シャルティアは少し意外そうに返す。

「確かにテメェの言う通り、俺は戦いが好きだ。強ぇヤツも好きだ。強さってのは、別に戦闘力だけじゃねぇよな? だが、いまの魔界で生きていくのに必要な強さは一種類……戦闘力だけだ。つまらねぇ、とは思うさ」
「なるほど……じゃあ、メギドさんは魔界に秩序が必要だと思いますか?」
「思うな……しかし難しいだろう。ここまで長く積み重ねてきたものは、そうそう変わらねぇ……クロムエイナが魔界を統べるって言うなら別だろうが、そうはならねぇだろ?」
「クロさんは優しい上に甘っちょろいですからね。力で魔界を支配するなんてことは、まずやりそうにないですね」

 魔界において最強の力を持つのは、間違いなくクロムエイナだ。しかし、彼女は良くも悪くも優しすぎる。いまの魔界のあり方も、ひとつの形だと受け入れて見守っている節もあり、自らソレを変えようと動くことはないだろう。
 だから、クロムエイナ以外がソレを行う必要があった。

 メギドはシャルティアとそれなり長い付き合いであり、日頃よく喧嘩していることもあって、彼女の性格はある程度把握している。
 ふざけたり茶化したりする様子もなく、淡々と話すシャルティアから決意を感じたメギドは……グッと酒を飲みほしてから呟いた。

「……シャルティア、お前……やるつもりなのか?」
「ええ、正直、いまの魔界のあり方は私の目的にすごく邪魔なんです。いろいろな方法をシミュレートしてみまして、結構形になってきたので……そろそろ動くつもりですよ」
「……分からねぇな」
「うん? なにがです?」
「テメェのことだ、どんな方法かはしらねぇが上手くやるんだろう……けど、じゃあ、一体なにをそんなに『焦って』いやがる?」
「……」

 なんとなくではあるが、彼女から焦りを感じ取ったメギドが尋ねると、シャルティアは沈黙する。
 メギドもそれ以上はなにも言わず、ふたりの間にしばし静かな空気が流れたあと……シャルティアが口を開いた。

「……野生の勘って侮れないものですね。ねぇ、メギドさん。ひとつ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「私が……死ぬために頑張ってる。早く目的を達成して死にたいと思ってるとしたら……どう思います?」
「あん? 別に死にたきゃ死ねばいいだろ。ソレがテメェにとって満足いく結末だってんなら、かまやしねぇさ。その時は、テメェの墓に酒でも持っていってやるよ」
「……ゴリラさん」
「おいっ!」

 アッサリと「お前の好きにすればいい」と告げるメギドの言葉に、シャルティアは思わず笑みを浮かべる。そして顔を隔していたフードを外し、杯に酒を注いで一気に飲んだ。
 そんなシャルティアを見て、メギドも軽く口元に笑みを浮かべたあと……『この世界でも三人しか知らない本当の姿へ戻った』。

「うぉっ! なんすかそれ!?」
「別に俺から聞いたわけじゃねぇが、テメェの秘密をひとつ知った代金だ。言いふらすんじゃねぇぞ? 俺はこの姿が大嫌いなんでな」
「……ゴリラが美女に変身するとか、どこの三流ファンタジーっすか……なんともまぁ、世の中は不思議に満ち溢れてますね」

 メギドの本当の姿には、流石のシャルティアも驚愕したのか、驚いたような表情に変わる。それでも、煽るような物言いをするのは、彼女らしさと言ったところだろう。
 メギドはシャルティアの反応に呆れたような表情を浮かべつつ、自分の杯に酒を入れて、シャルティアと軽く乾杯をする。

「もう一度言うが、誰にも言うんじゃねぇぞ」
「はいはい、じゃあ、お互い今日のことは秘密ってことで……」
「あぁ……まぁ、どうするつもりかしらねぇが、精々後悔しねぇようにな」
「……了解です」

 どこか穏やかな、気心知れた間柄だからこその空気。ソレを感じながら、二人は酒を飲む。

「……もし、この世界が平和に……誰もが笑いあって、手を取り合えるような世界になったとしたら、メギドさんはどうします?」
「そうだな……配下でも作って、鍛えてやるのもいいかも知れねぇな」
「ぶっ、ゴリラが教官とか……あはは、これでもかってほど似合わないっすね~」
「テメェ……いちいち小馬鹿にしねぇと喋れねェのか!!」
「それともアレっすか? ゴリラ先生っすか、あははは、頭悪そう……あっ、失礼、実際悪かったですね!」
「上等だテメェ、今日こそぶっ潰してやる!」

 笑い転げるシャルティアに切れたメギドが喰ってかかる。この日も、両者の会話が喧嘩という形に発展し……騒ぎを聞いて駆け付けたクロムエイナに、ふたり揃ってこっぴどく叱られた。
 ある意味、いつも通りのふたりと言えるのかもしれない。




(……正直、貴方が羨ましいですよ。私には、駄目です。世界が平和になって……親友の願いを叶えた未来を思い浮かべても……どうしても、皆の笑い合っている自分の姿が想像できない。とびきりの奇跡でも起きない限り……いえ、変な期待をするのは止めましょう。私が本当に心の底から、幸せだと笑える日は……もう来ないんでしょうから……)



???「おっと、皆様言わなくても分かります。シリアス続きで砂糖が足りなくて困ってますよね。ですが、安心してください。中編はあと1話か2話で終わり、後編に入るととびっきりの奇跡ことカイトさんが登場します! 早く来てカイトさん!」

???「あっ、それと余談ですが明日11月10日に、四コマ漫画の第四弾が公開されます! 皆のアイドル、アリスちゃんの出番は……もうチョイ先なんですが、楽しんで頂けたら嬉しいですよ」
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