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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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一周年記念番外編「始まりの来訪者前編②・出会い」



 言葉を発することもなく黒色と白色の二本のナイフを構え、静かに構える少女。ローブに隠れた表情は読み取れないが、少女は内心かなり焦っていた。

(信じられない……こいつら、とんでもなく強い。このレベルが『この世界の平均』だとしたら……しんどいなぁ)

 彼女の目の前に存在する魔族達は、この魔界においても頂点に近いほど強大な力を有しているが、異世界から渡ってきた少女はそのことを知らない。
 もしかしたらこの世界には、これほどの実力者がゴロゴロしているのかと戦慄しつつも、動揺を表には出さず少女は地を蹴った。

「はっ! 向かって来るってことは、戦闘開始ってことだよなぁぁぁ!」

 一直線に向かってくる少女を見て、メギドは獰猛な笑みを浮かべ、巨腕を振って迎え撃つ。巨大な体躯をほこるメギドの拳を、跳躍して回避しつつ、少女はメギドの腕を駆け上がる。

(どう見てもパワー押しの近接タイプ。振りは大きいし、動きは遅い……でも、防御力は相当ありそうだね。あの筋肉に打撃はいまいち、なら!)

 メギドの力を分析しながらも体の動きは止めず、少女はナイフを逆手に持ち、腕を駆け上がる勢いのまま、メギドの顔に向かって振り抜く。
 しかしその一撃は、突如出現しナイフを持つ腕を掴んだアインによって止められる。

(瞬間移動? いや、前兆は無かった……私に知覚できない速度で動いたとは考えにくい。私に攻撃をするんじゃなくて手を掴んだってことは、可能性が高いのは時間停止。時間を停止したまま私を攻撃することはできなくて、掴んで止めた……)

 アインに腕を掴まれた一瞬で思考を巡らせて能力を見抜きながら、少女は掴まれた腕を捻るように動かしてアインの拘束を外す。
 それと同時に素早く視線を動かし、他の者たちも確認していく。

(他は攻め込んできてない。立ち位置や視線の動き、魔力の練り方から考えて、あの白髪は魔法タイプ。木と一体化した奴は、中距離から全体、私より仲間に集中してるように見える。たぶん支援型。馬鹿でかいトカゲが攻めてこないのは……攻撃範囲が広すぎて味方を巻き込む可能性がるからかな?)

 思考しながらも少女の動きはまったく鈍らず、続けて放たれるメギドの拳をまるで流れる水のような動きで回避していく。
 少女の分析通り、このメンバーにおいて近接戦闘を担当するのはメギドとアインであり、他は少女がメギド達から離れた時を狙って攻撃を行う準備をしていた。
 そんな中、アインは再び時間を停止させ少女の背後に回ろうとして……動きを止めて時間停止を解除した。

「こ、これはっ……魔力の糸? い、いつの間に……」

 少女の周囲には膨大な数の魔力糸が出現しており、ソレがアインの行動を阻んだ。魔力糸はとても細く、込められた魔力も弱い。それこそただ触れるだけで糸は切れる程度……。
 しかし、この魔力糸はアインに対してのみ絶大な効果を発揮する。停止した時間において物体は決して破壊されず不変である。故に、この糸は時間停止中には決して切れず……アインの行動のみを阻む障害となる。
 アインが彼女に対して能力を使ったのはたった一度……少女はその一度でアイン能力だけでなく、その対策すらも見破ってしまっていた。

 アインも魔界において屈指の実力者であり、だからこそ直感で理解した。この少女は危険だと……戦いが長引けば長引くほど不利になると……。

「アイシス! 私達ごとで構いません! 撃ってください!」
「っ……わ……分かった」

 アインの言葉に従いアイシスが両手を広げると、それに呼応するかのように空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
 そしてその魔法陣から、あらゆるものを凍てつかせる蒼き絶対零度の閃光が放たれ……。

「舐めるなっ!」
「なっ……反射術式――くっ」

 少女が大きくナイフを振ると、閃光は鏡に反射されるかの如くアイシスに向かい、アイシスは慌ててそれを回避する。
 だがその直後、アイシスの魔法に対応するため背を向けた少女に向けて、メギドが拳を振るう。

「隙だらけだ!」
「……無いよそんなの」
「なにっ!? ちっ……」

 しかし少女の反応は早く、振り返らないままで白いナイフをメギドに向けて投擲、虚を突かれたメギドの動きが一瞬鈍った隙に回避行動をとる。
 設置された魔力糸を全て消滅させてからアインも戦線に加わるが、少女の回避は非常に的確でありなかなか捕らえることができない。
 ただ、少女の方も余裕があるかと言えばそうではなく、反撃に転ずる隙が見つからず防戦一方と言ってよかった。

 戦局が硬直する……その場に居た全員の頭にその考えがよぎった瞬間、行動を起こしたのは少女だった。いかんせん複数対ひとり、持久戦に持ち込まれてはたまらない。
 だからこそ少女はいままでと打って変わって、メギドとアインから離れて距離を取る。そこをアイシスとマグナウェルが狙ってくるのを分かっていながら……。

 メギドとアインから離れる少女に向け、アイシスは反射対策を施した魔法を、マグナウェルは広範囲のブレスを同時に放とうとして――少女を見失った。

『ぬっ!?』
「……消え……た?」

 一瞬驚いた表情を浮かべた二体だったが、そこは二体も圧倒的な強者……すぐに少女の姿を祭補足する。
 少女はいつのまにか、メギドに投げた白いナイフが落ちている場所まで移動しており、流れるような動きでそのナイフを拾い上げて構える。
 すると少女が手に持つ白いナイフが、甲高い音を響かせながら超速で振動し始める。

「……ピアーズ、デス!」
『ぐっおっ!?』
『マグナウェル!?』

 少女の手から投擲された白いナイフは、閃光の如きスピードでマグナウェルの前足を貫く。ナイフはマグナウェルの強固な鱗をものともせず粉砕したが、巨大な体躯をほこるマグナウェルにとってはかすり傷のようなもの……しかし、自身の鱗を容易く貫かれたことには少なからず衝撃を受けており、マグナウェルの思考に一瞬空白ができた。

 そして少女が再び姿を消したかと思うと、マグナウェルの体が上空へと跳ねあげられた。

『ごっ!?』
「……予想通り、腹下は柔らかめっと」
「んなっ!? あのヤロウ……また一瞬で移動を……」

 驚愕するメギド達を尻目に、少女は静かに上空に跳ねあげたマグナウェルに狙いを定める。

(正直、このデカトカゲが邪魔だね。受け流し出来ない超質量の攻撃……あの時間停止する女がサポートしたら厄介極まりない。あの図体じゃ飛べないとふんで跳ねあげたけど……さて、仕留められるかな?)

 なんとかマグナウェルをこの攻防で沈めたい少女だったが、その期待は天を覆うほど巨大な翼を広げたマグナウェルによって打ち砕かれた。

『やってくれたな!!』
「うぇぇ……その図体で飛べるとか、嫌になるねほんと――よっと」
「我々を相手にずいぶん余裕ですね」

 うんざりしたような表情で呟きながら、少女は接近してきたアインの攻撃を回避して距離を取る。
 それを追って拳を振るうアインは、魔力糸への警戒から時間停止を迂闊に使えないでいた。

「余裕ってわけじゃないけどさ……君たちって、あんま連携して戦ったこと無いでしょ? 連携が雑だね。同士撃ちを懸念していまいち踏み込めてない」
「だとしても、貴女が不利であることには変わりませんよ?」

 少女から返答が返ってきたことに少々驚きつつも、攻撃を続けながら言葉を発するアイン。桁外れの速度で放たれる拳を受け流しながら、少女は不敵な笑みを浮かべる。

「不利? あまり笑わせないでほしいね……例えばさ、いま、この瞬間、互いの人数やコンディションに差があったとしても、それはなんの意味もないんだよ?」
「ほぅ……」
「馬鹿でしょ? 『それを生かせて初めて有利だって言えるんだよ』。人数の利を生かせて無い時点で有利なんかじゃないんだよ。コンビネーションの練習でもしてから出直してくるんだね」
「なるほど、参考になりました。『貴女を倒したあと』今後の課題をさせていただきましょう」

 少女の言葉通り、アインたちはいままであまり連携して戦ったことは無い。それは、それぞれが圧倒的な力を持つが故……連携などせずとも勝ててしまうため、連携をする必要は無かった。
 しかし、この相手にはそうも言っていられない。アイン達を相手にしながら、軽口を叩く余裕すらある。アインはさらに集中し少女に向けて拳を放つが……三度少女の姿が消える。

「ッ!? また、瞬間移動!?」

 そう、アイン達にとって少女のこの能力が厄介だった。少女は攻撃を受け流す技術は素晴らしく、スピードもパワーもあるが、どれもデタラメなレベルではない。アイン達も十分に対応可能だ……しかし、この瞬間移動だけが読めなかった。
 時間を操る能力を持つアインがなにも感じ取っていない時点で時間を停止させているわけではない。しかし、だとすると、魔法陣も無く魔力に揺らぎすらない状態で消えるのはあまりにも不可解だった。

 しかし、現実に少女は姿を消しいつの間にか拾った白いナイフを持って今度はリリウッドに向かって一直線に駆ける。
 アインも即座に追おうとしたが、それより早く少女は自身の後方に魔力糸を張り巡らせる。

「……回復役を先に潰すのはセオリーだよね」
『そう、思い通りに行かせるつもりはありません!』

 アインは魔力糸に阻まれ、メギドとアイシスは距離が遠い。マグナウェルも素早いフォローには向かない。それでもリリウッドとて魔界屈指の強者。特に防御魔法に関しては、魔界でも最高峰である。
 接近してくる少女に対しリリウッドは自分を覆うように巨大な……アイン達でも破るのは困難な木の防壁を造り出す。こうして防御を固めてからカウンターで攻めるのがリリウッドの主戦法だった。

 しかし少女は出現した木の壁を見ても表情を変えることは無く、前方に向かって『黒いナイフ』を、後方に向かって白いナイフを投擲した。
 少女を追っていた他の4体は、その奇妙とも言える行動を真意を一瞬考え……そして、その中でメギドがいち早くそれに気付いた。

「やべぇ、リリウッド!? そいつの能力は瞬間移動じゃねぇ! 『強制転移』だ! そいつは『黒いナイフに触れているものを白いナイフの場所へ強制転移させられるんだ』!!」

 メギドがそう叫ぶのと、黒いナイフが刺さった木の壁が忽然と消え去ったのはほぼ同時だった。
 驚愕するリリウッドとの距離を素早く詰めた少女は、そのまま鋭い拳を打ち込む。

『ぐっ! うぁっ……』
「リリウッド!?」

 メキメキと軋むような音をたてリリウッドがくの字に曲がり吹き飛ぶ。アイシスが悲鳴のような声を上げ、ようやく魔力糸を除去したアインが時間を止め、少女の後方に移動。全力で少女に拳を放ち、それが当たる直前で時間停止を解除する。
 今度こそ完全に捕らえたと、そう確信して放った拳は……少女の体を横に吹き飛ばす。

 そしてアインは再び時間を止め、土煙を巻き上げている場所……リリウッドが吹き飛ばされた場所へ向かう。

「リリウッド、無事ですか!」
『ええ、大丈夫です』

 倒れていたリリウッドを助け起こし、土煙で視界が悪い中リリウッドを背中に庇うようにして構える。少女がどこから襲ってきても対応できるように……。

『アイン! 違います! ソレは私じゃありません!!』
「なっ――しまっ!?」
った!!」

 リリウッドの声を聞き、アインは一瞬で全てを理解した。己が殴り飛ばした少女が分体であること、あえて分体を攻撃させることで罠に誘い込んだこと……『最初から少女が真っ先に始末しようとしていたのが自分だったこと』……だが、もう全てが遅い。
 逃げ場無くすため張り巡らされた極細の魔力糸、背後から迫る凶刃……回避は不可能、時間停止も間に合わない。

 そして少女の凶刃がアインの首をとらえ――無かった。

「……え?」

 その声は必殺を確信していた少女の口から零れ落ちた。思惑通りに進んだ戦闘、一番厄介な能力を持つアインを仕留める最大のチャンス。
 しかし、少女の思惑通りに進んだのはそこまで……。

「……どういう事情か知らないけど……これ以上ボクの家族を傷つけるつもりなら、容赦はしないよ」

 そう、少女の誤算を嘲笑うかのように……魔界最強クロムエイナが……降臨した。



マグナウェルは『このころは』飛べました。いまは飛べません。
そして他の六王がアリスに圧倒されていますが、この時点ではアリスの方が強いです。既に数万年生きてますしね。

シリアス先輩「……あっ、えっと……ど、どうしよう」←(いままでの流れからして絶対ブレイクだと思ってたら予想外のシリアス継続+???に邪魔されていないのでどうしたらいいか分からない)
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