ランクアップした
ツヴァイさんとの間に合った誤解も無事解け……まぁ、若干問題ある解決方法だった気がしないでもないが、とりあえずツヴァイさんとの関係は改善された。
そのままラズさんたちを含め、一緒に夜祭りを回ったあと、ツヴァイさんは仕事があるということで帰っていった。
去り際に「是非私が預かってる街に遊びに来てください」と誘いを受けたので、六王祭が終わったあとにでも時間を見つけて遊びに行くつもりだ。
ツヴァイさんの管理している街というと、たぶん以前に少しだけ訪れたクロの城がある街のことだろう。あの時はオルゴール作りにいっぱいいっぱいで回る余裕は無かったので、ありがたい申し出だった。
そのあとはラズさんたちと1時間ほど夜祭りを回り、夕食の時間が近付いていたので俺もそこでラズさんたちと別れて中央塔に向かった。
中央塔へ比較的空いている道を選びながら歩きつつ、俺は今日のことを思い返していた。
今日は本当に色々な人と出会った。同じ祭りに参加してるんだし、ああして会うこともあるだろうけど……この広い会場であそこまでの遭遇率は、ちょっと驚きだ。
中でもツヴァイさんは衝撃的だった。実際は敵意を持っていたわけじゃないけど、ああ言う風に冷たい感じで対応されるのは少なかったから、かなり戸惑ってしまった。
そう考えると、俺は本当に周りの人に恵まれ……。
「……あれ?」
「チッ……カイトか……」
ツヴァイさんの態度に関しては俺の誤解、俺がどう感じているかツヴァイさんが分かって無かったことですれ違ってしまった。しかし、俺の知り合いにはもう一人辛辣な対応をしてくる方が居る。しかもこの方に関しては、全部分かった上で塩対応している感じだ。
「……なんでシアさんは、俺に会うたびに舌打ちするんですか?」
「……別に、お前がどうというわけじゃない。私は孤高の女神だからな、構われるのが嫌いなんだ」
人通りの少ない道で偶然出会ったシアさんは、相変わらず不機嫌そうな表情を浮かべて返答してくる。まぁ、シアさんに関しては、俺を嫌ってるとかじゃなくてこの対応がデフォってだけなんだけど……。
「シアさんって……ぼっちなんですか?」
「その言葉の意味は分からないが、馬鹿にされているということは分かった……殴るぞ」
「す、すみません。けど、こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「……そうだな」
まぁ、少なくとも名前を呼んでくれて、話しかければ話に付き合ってくれるわけだし、嫌われているというわけでは無いと思いたい。まぁ、初対面で嫌いだとか言われたけど……。
そんなことを考えていて、俺はふとあることを思い出した。そういえば、シアさんにはフィーア先生の件でお礼をしようと思ってたんだ。なかなか会う機会が無かったので、これはある意味いいタイミングと言える。
「そういえば、シアさん。お礼が遅くなってしまいましたけど、以前力を貸していただいてありがとうございます」
「ふんっ……別に、アレはお前があまりに情けないから気まぐれで力を貸してやっただけだ」
「それでも、本当に助かりました。せめてものお礼に、これを受け取ってください」
「……うん? なんだこれは?」
そっぽを向きながら悪態をつくシアさんに対し、俺は苦笑しながら以前シロさんに作ってもらった激辛の野菜……らしき形状のものを取り出す。
辛党のシアさんに対しては、最高のお礼……になると思うんだけど、どうなんだろう?
この野菜はシロさん曰く、シロさんの加護がある俺が食べても数日は味覚を失うレベルであり、普通の人間が食べたら死亡するレベルの辛さらしい。
シアさんは俺が取り出した野菜を見て、不思議そうな表情を浮かべながら受け取った。ちなみにこの野菜、匂いはまったく無く、触れても皮膚に影響があったりはしない。
そしてシアさんは何度か野菜と俺の顔を交互に見たあと、その野菜を一口かじり……カッと目を見開いた。
「なっ、なんだこれは!? す、すごい……こんな美味しい食べ物、初めて食べた!」
「……」
なお、繰り返しになるが普通の人間が食べると死ぬシロモノである。
「このかつて無いほどの辛味、それなのにクセが無く上品な味わい……至高だ。これこそ、私がずっと探し求めていた食材……」
「えっと……はい」
「カイト! これをいったいどこで手に入れた? 教えてくれ、頼む!」
「あっ、えっと、これは……」
もの凄い勢いで喰い気味に訪ねてくるシアさんに、この野菜はシロさんに造り出してもらったものということと、種を植えれば三日で育つことも説明する。
シロさんが造ったという部分には驚愕していたシアさんだが、種を受け取るころには珍しく嬉しそうな表情を浮かべていた。
「……流石はシャローヴァナル様、この味を簡単に量産できるとは……本当に素晴らしい」
「喜んでもらえたなら、良かったです」
「ああ、すまないカイト、感謝する。私の中でお前の評価が急上昇している」
「そ、そうですか……」
「自信を持て、お前はちゃんと『知的生命体』だ。私が保証する」
「そこに関して自信無かったことは、いまだかつて一度もありませんけど!?」
というか、ようやく知的生命体と認められるレベルって……今までどれだけ低い評価だったんだ俺……。
拝啓、母さん、父さん――相変わらず口が悪くて回りくどいシアさんではあったが、それでも今回のお礼は本当に喜んでもらえたみたいだ。シアさんからの評価も、うん、大変不本意ながらようやく知的生命体まで――ランクアップした。
ベビーカステラ先輩「いい話と悪い話がある」
シリアス先輩「悪い方から聞こう」
ベビーカステラ先輩「当初の予定では六王祭アリス編およびクロ編が終わってからの予定だったが、六王祭が長くなりすぎたため数話あとから『一周年記念番外編』を順に更新していくらしい……砂糖漬けだ」
シリアス先輩「……実家に帰りたい……いい方の話は?」
ベビーカステラ先輩「アリスの番外編はそこそこシリアスらしい」
シリアス先輩「……なんだかんだでアリスが一番シリアスしてくれてる気がする……同じ位ブレイクするけど……」




