やり直しとか駄目かな?
ツヴァイさんから伝わってきた予想外の感情に困惑していると、ツヴァイさんは気を取り直すように軽く顔を振り俺の前まで歩いてきた。
もう魔力を抑えているのか、俺の目の前に立ったツヴァイさんの感情は読み取れなくなっていた。
「……申し訳ありません、ミヤマ様。お見苦しいところをお見せしました」
「あ、いえ、それは大丈夫なんですが……」
う~ん、こうして目の前にすると、やはり先程伝わってきた感情は気のせいじゃないかとすら思えてくる。鋭い切れ目のツヴァイさんは、相も変わらず俺を睨みつけるようにしている。
クールで丁重な喋り方も雰囲気の鋭さに拍車をかけているが、先程までのような恐ろしさは感じ無かった。
「……あの、ツヴァイさん。突然ですけど、お願いがあります」
「はい? なんでしょうか?」
「……ぶしつけですけど、ちょっと、魔力を抑えるのをやめてもらっていいですか?」
「……分かりました」
突然のお願いにもかかわらずツヴァイさんはすぐに従ってくれ、抑えていた魔力を解放してくれた。そして、俺の感応魔法によって読み取った感情は……押し潰されるかと思うほど大きな好意だった。
や、やっぱり、好意的な感情しか伝わってこない……嫌われてるどころか、ビックリするぐらい好かれているように感じる。
……目は、相変わらず睨みつけてきてるんだけど……あれ?
なんだろう? 本当に分からなくなってきた。ツヴァイさんは俺に好意的な感情を抱いていると認識すると、いままでの考えに矛盾が出てくる。
俺はてっきり、ツヴァイさんが付いてきたのは、どこの馬の骨ともしれない俺が家族にちょっかいを出さないように監視するためだと思っていたが……その仮説は、現在のツヴァイさんの感情を知って崩れ去った。
「……その、えっと、ツヴァイさん」
「はい?」
「……なんで、その、俺たちに付いてこようと思ったんですか?」
思い切って尋ねてみると、ツヴァイさんは少し左右に視線を動かし、ラズさんたちが離れているのを確認してから小声で告げてくる。
「……差し出がましい真似だとは思いますが、ミヤマ様の顔色が悪いようでしたので……必要な時にお傍に居れば、サポートも可能かと思い、同行しました」
「……」
えっと、つまり、こういうこと? 俺はツヴァイさんが怖くて、冷や汗を流していたんだけど、それを見たツヴァイさんは俺の体調が悪いのだと思い込んだ。
そして、そのままラズさんたちを祭りを回っていて、途中で体調が悪化するといけないと思い、すぐに助けられるようにわざわざ同行してくれたと……えっと、つまり、ツヴァイさんが言ってた『心配なこと』ってのは、俺の体調だったというわけで……。
どうしよう、善意100%なんだけど……排除されるだとか、怖いだとか考えてたのを思い出すと、罪悪感が凄まじいんだけど!?
「……ミヤマ様? 大丈夫ですか? やはり顔色が優れないように見えます。ラズリアたちには、私から話を通しますので、お休みになられてはいかがでしょうか?」
「……」
相変わらず目は俺を睨みつけている。でも口から出る言葉と伝わってくる感情は、純粋に俺を心配してくれている。
「……その……えっと……ツヴァイさん」
「はい?」
「ごめんなさい!」
「……は?」
罪悪感に押し潰されそうだった俺は、大きな声で謝罪して頭を下げる。しかし、ツヴァイさんにしてみれば俺の行動はまったくの予想外であり、唖然とした様子で首を傾げていた。
そして、そんなツヴァイさんに俺は全てを白状した。ツヴァイさんを怖い人だと誤解していたこと、嫌われているのだと思っていたこと、そして俺を排除するために付いてきたのだと邪推したこと……その全てを包み隠さず伝えることにした。
それなりに時間をかけて全てを話し終え、恐る恐るツヴァイさんの顔を見る。怒られても仕方ないと思っていたが、ツヴァイさんの表情は変わっていない。
こ、これはどうなんだろう? あまり気にしてないってことなのかな? だとしたら……。
「……なるほど、話は分かりま――ッ!?」
と思ったら『膝から崩れ落ちた』!?
「つ、ツヴァイさん!? だ、大丈夫ですか?」
「ツヴァイ! 気をしっかり持ってください!」
崩れ落ちたツヴァイさんに俺が慌てて声をかけるのと同時に、異常を察知したアインさんがツヴァイさんの肩を抱えるように持って支える。
ツヴァイさんは表情こそほとんど変化していないものの、顔色が真っ青と言っていいような感じになっており、声を震わせながらアインさんを見た。
「……あ、アイン。わ、私は、もう、駄目かもしれません……し、知らずとはいえ、か、カイト様を怖がらせてしまいました……か、カイト様に嫌われて……」
「嫌ってません! 嫌ってませんから!!」
「あ、ぁぁ……か、カイト様……も、申し訳ありません。違うのです私は決してカイト様を怖がらせようとしたわけではなくむしろ仲良くできればと考えていましたし自分では友好的だったつもりでしたが配慮が足りませんでした弁明をさせていただけるならカイト様のことを睨みつけていたわけではなく緊張して表情が崩れてしまうのを防止しようとした結果表情が固まってしまいました言いわけであるのは理解していますがしかし私も決して意図したことではなく」
「ま、待ってください! き、聞きとれないです!? というかどうやっていま喋って……」
「落ち着きなさい、ツヴァイ。貴女は魔導人形ですからそんな喋り方も出来ますが、カイト様には聞き取れません」
まるで機械音声の如く、息継ぎを一切せずに高速で喋るツヴァイさんの言葉は半分以上聞きとれなかったが、謝罪と弁明をしているのだけは伝わってきた。
どうもツヴァイさんは、俺に怖がられていたというのが相当ショックらしい。な、なんとか、元気付けないと……。
「つ、ツヴァイさん。元はと言えば俺が誤解していたのが悪いんです! 俺は決してツヴァイさんを嫌ったりしません! むしろもっと仲良くなりたいと思っています」
「は? え?」
「お互いすれ違いはありましたけど、それはいま解消されました。これからいくらでも親睦を深めて行けると思います。なので、ツヴァイさん」
「は、はい!」
「俺にもう一度、貴女のことを深く知るチャンスを下さい。もっと貴女のことが知りたいし、貴方の心に近付きたいんです。だから、ね? これからも仲良くしてくれませんか?」
「は、はぃ……カイト様が、お望みなら……」
よ、よしなんとか軌道修正……あれ? まて……落ち着け? いま俺、なにを言った? 待って! ちょっと待って!? なんか口説いたような感じになってない?
あと俺、いつの間に『ツヴァイさんの手を両手で包み込むように握った』? ……あれ?
拝啓、母さん、父さん――どうも俺はテンパるととんでもなく恥ずかしい台詞を口走ってしまうらしい。冷静になって考えると、顔から火が出そうなんだけど……あの、これ――やり直しとか駄目かな?
某皇帝陛下も危険視する口説きモード(テンパった)の快人君
二巻発売記念プレゼントキャンペーンの抽選結果を発表しました。そして当選者の方にはメッセージをお送りしたのですが……。
申し訳ありません、当選者の『まるむし』さん、お気に入りユーザー以外からメッセージを受け付けない設定になってるみたいなので、変更するか私をお気に入りユーザーに登録して頂けると助かります。




