過保護すぎるんじゃないだろうか?
どうしてこんな状況になったんだろうか? 俺はただ、偶然会ったラズさんと一緒に夜祭りを見て回ろうと思っただけなのに……。
ひたすらこちらを睨みつけてくるツヴァイさんに戦々恐々としながら冷や汗を流す。そしてしばらくしてツヴァイさんが俺から視線を外すと、ホッと胸を撫で下ろした。
時間にすればほんの数分だが、まるで何時間も睨みつけられていたかのような疲労感……やっぱり俺、なにかツヴァイさんを怒らせるようなことをしたのかな?
俺から視線を外したツヴァイさんは、アハトとエヴァの前へ移動して静かに口を開く。
「……アハト、エヴァル」
「「は、はい!」」
「以後、気をつけるように……身だしなみは大切ですからね」
「「はい!! ……え?」」
ツヴァイさんが告げた言葉に大きな声で返事をしたあと……何故か、アハトとエヴァは信じられないものを見たと言いたげな表情に変わっていた。
(……ふたりのことを真に思うのならば、ここは厳しく叱りつけなければなりません。が、しかし……ごめんなさい、アハト、エヴァル。私は……カイト様に『怖い女』だと思われたくないのです。指導は後日行いますので、いまは打算的な姉を許してください)
アハトたちとの話を終えたあと、またツヴァイさんが俺を睨みつけてきた。なんというか……俺はいま、蛇に睨まれた蛙の気持ちを痛いほど理解していた。
そんなある意味窮地とも言える状況の俺を助けるかのように、ラズさんがツヴァイさんの前にパタパタと羽を動かして移動してくる。
さ、さすがラズさん! 空気の読める妖精だ! どうか、この射殺すような視線を止めさせ……。
「……ツヴァイお姉ちゃんも、ラズたちと一緒にお祭りを回りませんか~?」
……前言撤回。助け舟かと思ったら追い打ちだった。いやいや、駄目でしょ、ラズさん!? 俺にも原因は分からないけど、いまもの凄く険悪な雰囲気になってるからね! お願い、空気読んで!?
い、いや、まて……大丈夫だ。ツヴァイさんは俺を嫌ってるみたいだし、それにもの凄く忙しい方だという話しだ。
ラズさんの誘いに首を縦に振るわけが……。
「……そうですね。少々『心配なこと』もありますし、同行しましょう」
「「「ッ!?」」」
「わ~い、ツヴァイお姉ちゃんも一緒です!」
アッサリと頷いたツヴァイさんを見て、アハトとエヴァ……そして俺の表情が絶望に染まる。
なんでだぁぁぁぁ!? なんで、了承するの!? 心配なことがある? ……それ絶対アレでしょ? ツヴァイさんは家族想いって聞いたし、俺がラズさんたちに変なことをしないか……み、見張るつもりなんだ。
ツヴァイさんはラズさんと話しながらも、半端ではない目力で俺を睨みつけて、視線を一切外さない。
(……やはり、カイト様の顔色が悪いですね。それに発汗も多い……やはり、体調が悪いのでしょうね。カイト様は聖者の如く清らかな心をお持ちの方ですから、ラズリアに誘われて断り切れなかったのでしょう。心配ですね……いざという時は、私がお助けしなければ!)
この射殺すような視線を身に受けながら、祭りを回らなければならないとは……本当に、どうしてこうなった? うぅ、後でリリアさんに胃薬分けてもらおう。
「つ、ツヴァイの姐御!? そ、その、姐御は忙しいんじゃ……」
「そ、そうですよ! ラズ姐には私とアハトでしっかり言い聞かせますから、無理はしなくても……」
「心配してくれて、ありがとうございます。確かに少々明日からのスケジュールを詰める必要はありますが……それよりも優先すべきことはあります」
「「そ、そうですか……」」
「恥ずかしい話ではありますが、私はアインほど器用ではありません。ひとつのことに集中すると、周りが見えなくなるという悪癖もありますからね。いまは仕事のことは忘れて、この件に専念することにします」
「「ア、ハイ」」
専念するってなんにだぁぁぁぁ!? 排除? まさか俺の排除なのか!? 仕事を忘れて、俺の監視に全力を注ぐつもりであらせられる……あわわ、なんで、こんなことに……。
「では、ミヤマ様。おそらく『短い期間になるでしょうが』……よろしくお願いします」
「……ひゃぃ」
短時間で片をつける気でいらっしゃる!? ま、間違いない。ツヴァイさんは、俺が僅かでもNG行動をとったら、即刻排除するつもりだ! 怖すぎる……完全に罰ゲームじゃないか……。
(カイト様に無理をさせるわけにはいきません。カイト様が辛そうだと判断したら、即座に中止にして病院にお連れしなければ……ふむ、やはり、カイト様の表情には不安が見てとれます。自身の体調を案じておられるのでしょうね。一度、私がフォローするので大丈夫だと伝えておきましょう)
ツヴァイさんは規則正しい足運びで、茫然とする俺の前まで移動して……ラズさんたちには聞こえない小さな声で告げた。
「……大丈夫です。私は、貴方様から片時も目を離すつもりはありません。私が後方に控えておりますので、安心して祭りをお楽しみください」
「……はい」
ひ、ひぃぃぃ!? く、釘を刺しに来たぁぁぁぁ!?
後方から俺の僅かな失態すら見逃さないように監視してるってことだよね? も、もう、本当に、何度目になるか分からないけど……どうしてこうなった?
拝啓、母さん、父さん――楽しく夜祭りを回るはずが、何故かワンミスで即ゲームオーバーの素行チェックになってしまった。大切な家族と付き合う友人を見極めるつもりなのかもしれない。つ、ツヴァイさん……いくら家族が大切だからって、さすがに――過保護すぎるんじゃないだろうか?
~妖精でも分かるツヴァイお姉ちゃんの意訳~
あこがれのカイト様が体調悪そうにしてる!? 私が助けなければ(使命感
Q、どうすればツヴァイお姉ちゃんの誤解が解けるの?
A、魔力抑えなければ、感応魔法で好意が伝わって万事解決
Q、他の手段は?
A、睨みつけるのを止めよう




