話していて癒されるタイプだ
ジークさんとゆっくり雑談をしたあと、俺はリリアさんたちの居る宿泊施設から中央塔へと向かって歩いていた。
祭りはすっかり夜の部に移行しているらしく、提灯のような光を放つ魔法具に照らされた道は、昼間よりもガヤガヤと騒がしいような気がした。
酒を飲んだり屋台で買い物をしたりしている人達を見ていると、買い食いがしたくなってくるものだ。夕食に影響がない程度に、串焼きあたりを買うことにしよう。
やはり祭りの醍醐味と言えば、個人的には食べ歩きが一番だ。屋台通りは騒がしく、少し離れれば静かな祭り独特の雰囲気の中で、出来たてを食べるのは本当に素晴らしい。
串焼きなんかを歩きながら食べるのもいいし、少し屋台通りから離れた場所で足を止め、焼きそばなどを食べるのも素晴らしい。
……う~ん。なにを買おうかな……ワイバーン肉の串焼きもいいし、イカ焼きっぽいものも捨てがたい。たこ焼きというのも実に王道だ……いや、あえて甘いもの、りんご飴という選択肢もありだ。
歩きながら視線を左右に動かし、どの屋台で買おうかと思案していると……突然後ろから大きな、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あー! 見つけたです! カイトクンさ~ん!」
「……ラズさん?」
「はい! こんばんはですよ、カイトクンさん」
背中の小さな羽を忙しなく動かし、満面の笑顔でこちらに向かって飛んできたのは、ラズさんだった。
ラズさんは俺の傍までくると、俺の周りをくるくると飛びながら嬉しそうな表情で話しかけてくる……可愛い。
「こんばんは、ラズさん。こんな時間に会うなんて奇遇ですね」
「はいです! ラズはカイトクンさんと会えて、と~っても嬉しいです!」
小さな体を精一杯動かしながら感情を表現するラズさんは、なんというか本当に可愛らしい。やっぱりこの方は癒しだ。
「……ラズさんも屋台を見に来たんですか?」
「はいです! ラズはお昼の間、クロム様のお手伝いでお野菜さんを運んだりしてたです! それが終わったので、アハトくんとエヴァさんと一緒にお祭りを見に来ました~。でもでも、ラズは途中でカイトクンさんの魔力をビビッと感じたです! それで、会いに来ちゃいました。えへへ」
なんだろうこの可愛い生き物は……。説明ひとつとっても、小さな体を動かしてジェスチャーを交えるので、非常に愛くるしい。
妖精って皆こんなに可愛いんだろうか? だとしたら、一度妖精族の住処にも遊びに行きたいものだ。
「カイトクンさん、カイトクンさん。いま、時間はあるですか? あるなら、ラズたちと一緒にお祭りを回りましょう!」
「……そうですね。あまり遅くまでは無理ですが、ラズさんたちさえ構わないのなら是非」
「ホントですか!? わ~い、カイトクンさんと一緒です!」
丁度俺も少し屋台を見ようと思っていたので、ラズさんの提案を了承する。そして、アハトたちが居る場所に向かって一緒に移動する。
ラズさんは本当に嬉しそうで、ニコニコと愛くるしい笑顔を浮かべながら俺のとなりを飛んで移動している。
「あっ、そういえば、ラズさん」
「なんですか?」
「実は昼間に、ノインさんから……えっと、ラズさんの能力について教えてもらいました。ラズさんって凄いんですね」
一応昼間にノインさんから話を聞いたことは伝えておくことにした。まぁ、ノインさんが話してくれたということは、別に聞いちゃ駄目というわけではないだろうけど……本人には伝えておくのが筋だろう。
「むむっ、そうなんですか……カイトクンさんは、ラズの能力を知ってしまったのですね」
「え、ええ……」
俺の言葉を聞いたラズさんは、なぜか神妙な顔つきで呟いた。思っていた反応と違う……あれ? もしかして、あまり知られたくない話題だったのかな? ラズさんは戦いが嫌いだって言ってたし……もしそうなら、謝罪を……。
「知られてしまってのなら、仕方ないです……そう! カイトクンさんも知っての通り! ラズは『お花さんを咲かせる』ことができるです!!」
「……え?」
「ラズは花の妖精ですからね。お花さんをいっぱい咲かせることができるです! お野菜さんはちょっと勝手が違いますけど……ラズの能力で、すくすく美味しく育つです!! ふふふ、ラズの秘密の能力ですからね……内緒ですよ?」
「は、はぁ……」
あれ? 本当に予想外の展開になってきたぞ。花を咲かせる能力? 必中の矢とかじゃなくて?
「どうしたですか?」
「あ、いえ……そうなんですね。ラズさんは凄いですね」
「え? そ、そうですか? ラズ、凄いですか?」
「はい、ラズさんはとっても凄いですよ」
「えへへ、そうですか? カイトクンさんに褒められて、ラズとっても嬉しいです!」
心底不思議そうに首を傾げるラズさんを見て確信した。この人にとって、必中の矢だとか長射程の攻撃だとか、そういうものは……どうでもいい能力なんだろう。
優しいラズさんは、戦いなんて必要に迫られなければするつもりもなく、能力と言われて真っ先に思い浮かぶのは花を咲かせる力の方らしい。
拝啓、母さん、父さん――なんというか、ラズさんはやっぱりラズさんなんだとそう思った。本当にラズさんは、小さくて可愛くて、実は強いけど凄く優しくて……なによりも、やっぱり――話していて癒されるタイプだ。
シリアス先輩「……SBモードが解けて、通常形態に……くそっ……私は結局、ワイバーンを犠牲にしただけなのか……私は……弱い」
ワイバーン先輩「……ベビーカステラ先輩、屋台の品名に出てこなかったっすね?」
ベビーカステラ先輩「気にする必要はないさ、こっちは普段よく出させてもらっている。それより、良かったなワイバーン。名前だけとはいえ、本編に出ている」
ワイバーン先輩「とはいえ、食肉なんすよね……」
ベビーカステラ先輩「下積みだと思えばいい。いずれ花開く時が来るものさ……焦るな。座して待つってのも、時には必要だ……よし、今日は一杯飲みに行くか? 奢ってやるよ」
ワイバーン先輩「ありがとうございます! ごちそうになります!」
シリアス先輩「飲んどる場合かぁぁぁぁぁぁ!! てか、居るじゃねぇかワイバーン!!」




