幸せが大きくなっているように感じた
ジークさんからレインボードラゴンへの注意というか話が終わる。まだ赤ん坊であるレインボードラゴンがジークさんの話をどこまで理解できたか疑問ではある。
だけど、アリスに調べてもらう時にレインボーダイヤモンドを出す指示にはしっかりと従ってたし、ジークさんの話にも要所要所で頷いたりしていたことを考えると、かなり頭はいいのかもしれない。
ただ、それでもやはり赤ん坊。話を聞き終えたあとは眠たくなってしまったのか、話を終えて椅子に座ったジークさんの膝の上に乗ったあと、丸くなって寝てしまった。
可愛らしいその仕草に癒されていると、いつの間にかリリアさんとルナさんが居なくなっていることに気が付く。どうやら、俺をジークさんがふたりきりになれるように気を使ってくれたみたいだ。
「……ジークさん、体調は大丈夫ですか? すみません、変な騒ぎになってしまって……」
「いえ、謝らないでください。カイトさんのおかげでこの子と出会うことができたのですから……感謝してもしきれません。ありがとうございます」
ジークさんはいつもの優しい表情でそう告げたあと、「白金貨には驚きましたけどね」と付け加えてから苦笑し、俺もそれにつられて笑みを浮かべる。
そしてお土産の果物を渡したあと、ソファーに座るジークさんに促され、俺も隣に腰を降ろす。
……静かだ。リリアさんたちが気を回してくれた影響か、談話室には使用人もいない。俺とジークさんのふたりだけだ。だから、だろうか? ジークさんと並んで座っていると、くすぐったいような……それでいて、ホッと落ち着くような不思議な感じだった。
「……そういえば、その子の名前って決まったんですか?」
「……いえ、そのことに関して、カイトさんにお願いがあります」
「お願い、ですか?」
「はい……この子の名前、カイトさんが決めてくれませんか?」
「へ? お、俺がですか?」
その言葉は正直予想外だった。ジークさんにとっては念願のペットなわけだし、名前を自分で付けるのだろうと思っていたが……まさかここで俺に指名が来るとは思わなかった。
俺のネーミングセンスって……どうなんだろう? ベルの名付けはアリスだし、リンはメアリさん。俺はペットの名前を付けたことはない……ぶっちゃけると、ネーミングセンスに自信なんて欠片もない。
な、なんとか、穏便に断れないだろうか?
「……この子と出会えたのは、カイトさんのおかげです。その、め、迷惑かもしれませんが……この子は『私達の子供』みたいな存在だと思っていまして……だから、その、カイトさんに名前を付けてもらいたいんです」
「……」
「……駄目、でしょうか?」
「いえ! ちょ、ちょっと待ってください。いま考えます」
断れねぇよ!? そんな、恥ずかしそうに頬を染めて俯き加減という、殺人的に可愛らしい表情でお願いされて、断れるわけがない。
可愛らしい彼女が、ここまで好意を持ってお願いしてきてくれてるんだ……これに応えなければ、男が廃る!
考えろ、振りしぼれ……俺の頭に存在する全知識よ、いまだけは俺に味方してくれ……。
「……って、その前に、その子って男の子ですか? 女の子ですか?」
「この子は、雌……女の子ですね」
「なるほど、分かりました。ま、任せてください」
名前、名前、女の子の名前……うぐぐ、難しい。ジークさんの期待に応えられるネーミング……閃け、頑張れ俺の頭!
……この子の種族はレインボードラゴン。レインボー……レイン? いや、安直過ぎるし、雨になってるし……。
う~ん、俺としては、翼は虹色だけどこの子はオーロラっぽく見えるんだよな。夜空のような黒い体に、エメラルドみたいなたてがみがあるし……そっちの線で考えてみるか。
オーロラ……オーロラ……そういえば、前にテレビでなにか見たような。なんだったっけ? たしか、オーロラの由来だったか? たしか、あの時に各国でオーロラをどう呼ぶかって言うのも特集してたはずだ。思い出せ……絞り出せ!
「……『セラス』……というのは、ど、どうでしょうか? 呼ぶ時は、セラとかで……」
「セラス、とても可愛らしい名前ですね。なにか由来があったりするんでしょうか?」
「えっと、俺の居た世界の言葉で……『夜明け』を意味する言葉なんです」
「夜明け、ですか?」
「はい。この世界には、オーロラってありますか?」
「オーロラですか? ええ、私は見たことがありませんが、たしか死の大地で見れるものだったかと……」
どうやら、オーロラという現象はこの世界にもあるらしい。名付けたのは過去の勇者役とかだろうか? まぁ、ともかく、それなら説明しやすい。
「俺の居た世界では、オーロラはちょうどこの子の体とたてがみみたいに、夜の空に深緑の光が見える自然現象でした。そして、そのオーロラの由来となったのが夜明けの女神でして、それにちなんだ名前にしてみました」
「……なるほど」
「……い、いかがでしょう?」
なんとか引っ張りだしたにわか知識を元に付けた名前は、俺としては結構いい出来だと思う。女の子っぽい感じだし、愛称も呼びやすい……はずだ。
「……すごく、本当に素敵な名前です。カイトさん、ありがとうございます」
「いえ」
よかった……気に入ってくれたみたいだ。
ジークさんがセラスという名前を気に入ってくれたことに安堵して溜息を吐くと、丁度そのタイミングでジークさんがそっと俺の肩にもたれかかってきた。
「ジークさん?」
「……カイトさん。少し、こうしていてもいいですか?」
「……はい」
「……ありがとうございます。こうして、貴方と過ごす時間がなにより幸せです……貴方と出会えてよかった」
「ええ、俺も同じ気持ちです」
ジークさんの体が触れている部分から、じんわりと体が温まっていくように感じる。なんだろう? 心が通じ合っているとでもいうのか……同じ幸せを共有しているという感じて、どうしようもなく心地良い。
「……カイトさん。私、セラスのこと……大切に育てますね」
「俺も手伝いますよ……ほら、なんたって、ふたりの子供……ですからね」
「……はい」
もたれかかってくるジークさんの肩を抱き、心から幸せな時間を堪能した。
拝啓、母さん、父さん――レインボードラゴンの名前は、俺が提案したセラスに決まった。愛しい恋人と過ごす時間は温かく、心が安らぐ。ふたりなら幸せや喜びは二倍とはよくいったもので、確かにジークさんと一緒だと――幸せが大きくなっているように感じた。
シリアス先輩SBモード「うぐぁっ!? ひ、久々にきた……純然たる砂糖の暴力。ストレートないちゃラブ……上がってない。SBモードになっても、防御力上がってない……もうさっさと結婚しろよお前ら!!」




