驚きの能力を備えていた
史上初のレインボードラゴンの特殊個体……まさかそんなものが登場するとは思っておらず、フィーア先生の言葉を聞いた俺たちは完全に硬直していた。
そんな中で、レインボードラゴンは卵から出たあと、ゆっくりとジークさんに近付いていく。
その動きを見て我に返ったジークさんが、そっと手を伸ばすと、レインボードラゴンはその手に顔を擦りつけるように甘え始める。
「……か、可愛い……」
どうやらジークさんの中では、驚きよりもレインボードラゴンの可愛らしさが勝ったらしく、顔中の筋肉がゆるみきったような笑顔浮かべてレインボードラゴンを抱き上げる。
レインボードラゴンは特に抵抗することも無く、大人しくジークさんに抱きかかえられた。
「……全然鳴きませんね」
「レインボードラゴンは元々、すごく大人しくて滅多に鳴かないし、危害を加えない限り暴れたりもしないよ。だからこそ、レインボーダイヤモンドの採掘が出来るんだよ」
俺の呟きにフィーア先生が説明を返してくれ、徐々にリリアさんたちも驚愕から立ち直り始めてきた。
「ジーク……その子、お腹が空いているのでは?」
「あっ、そうですね……えっと、フィーア先生、レインボードラゴンはなにを食べるんでしょうか?」
「雑食だから、基本的になんでも食べるよ」
リリアさんの言葉を聞き、ジークさんはフィーア先生に質問をしつつ、予め用意していたであろう食材を取り出す。
そしてそれを手に持ってレインボードラゴンに近付けると、レインボードラゴンは首を伸ばして食べ始める。
「……可愛いぃ……」
どうやらレインボードラゴンの容姿はお気に召してくれたらしい。ジークさんが嬉しそうでなによりである。
「あの、皆さん……この場を離れた方が、いいのでは?」
っと、そこでノインさんがやや焦った様子でそう告げ、俺たちが周囲を見渡すと……とんでもない数の人が集まり、こちらにギラギラとした目を向けていた。
史上初のレインボードラゴン特殊個体……正直その価値は計り知れないだろう。となれば当然、譲ってくれとかそんな交渉をしようとしてくる輩も……。
厄介なことになりそうだ……逃げられるか? いざとなれば、転移魔法具で……。
『ほぅ、ワシもレインボードラゴンの特殊個体は、初めて見るのぅ』
するとそんな空気を押し潰すように、重く威厳のある声が響いてきた。その声の主はもちろん、竜種の王……マグナウェルさんだ。
『レインボードラゴンの主となった少女よ……名は?』
「え? あっ……じ、ジークリンデと申します!」
『うむ、覚えておこう。竜種は全てワシの眷族……健やかに育つことを願う』
「は、はい! 大切に育てます!」
『うむ……希少だという理由でレインボードラゴンを狙ったり、生まれる宝石を寄こせなどと言って、お主に迷惑をかけ、ワシの逆鱗に触れる愚か者は……まず居らんじゃろう。安心して育てるがよい』
「はい!」
なるほど、マグナウェルさんは牽制のために声をかけてくれたのか……レインボードラゴンの特殊個体が非常に希少で狙う者も当然いる。
お金を積んで交渉するかもしれないし、ジークさんが平民だからと権力を使って圧をかけてくるかもしれない。
もちろんそんなことになったら俺は全力でジークさんを守るつもりだが……もう、その必要は無さそうだ。
なぜなら、いまのマグナウェルさんの言葉を要約すると『レインボードラゴンの主であるジークさんに迷惑をかけたり、レインボードラゴンを奪おうとすれば、許さない』ということだ。
『たしか……お主は、ミヤマカイトの恋人じゃったな?』
「え? あ、はい。その通りです」
『そうか、ならワシら六王はお主の味方じゃ、困ったことがあればいつでも言ってこい』
「は、はい!? こ、光栄です」
そして、ジークさん自身にも余計なちょっかいがかからないように牽制……流石出来る王、マグナウェルさんである。
俺の名前がさも当然に出てきたことに関しては……まぁ、今回はジークさんを守るために役立つだろうし、恥ずかしさは我慢しよう。
ともかくコレで一段落したと、そう考えていると……食事を終えたレインボードラゴンが尻尾を動かし、ジークさんの手に触れさせた。
「うん? どうかした――え?」
ジークさんの掌の上で円を描くように動くと、その尻尾の先端に黒く驚くほど美しい宝石が出現した。黒色なのに透き通っていて、中には虹色の光が見える。まるで夜空にかかった虹のようで……宝石に疎い俺でも、どんでもなく高価な宝石だと理解できた。
「……く、くれるんですか?」
「……」
ジークさんが戸惑いがちに尋ねると、レインボードラゴンは無言で頷く。
「……なるほど、レインボーダイヤモンドってこういう風に出来るんですね」
「チガウチガウ、レインボードラゴンは……普通、一年かけてゆっくり尻尾に宝石を作りだすんだよ……あんな一瞬で作れないよ。しかも、普通のレインボーダイヤモンドとは比べ物にならないぐらい、ハッキリと虹色が出てるし……」
「……え?」
「特殊個体だから、なにかしら原種とは違う能力を持ってるとは思ってたけど……この子、もしかしたら……『いくらでも宝石を作り出せる』のかも……」
「「「「「えぇぇぇ!?」」」」」
戦慄した表情で呟くフィーア先生の言葉を聞き、俺たちは再び絶叫した。
拝啓、母さん、父さん――ブラックベア―なら同族を従える力、ベルなら黒い雷を操る力と……特殊個体と言うのは、通常の個体には無い能力を持っている。そして、その例に漏れずジークさんのレインボードラゴンも――驚きの能力を備えていた。
おじいちゃん「竜種は全てワシの眷族……」
ワイバーン先輩「ガタッ!?」
おじいちゃん「ただし、ワイバーン……てめぇは駄目だ」
ワイバーン先輩「……」
 




