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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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冥王が強すぎた

 一つ世の理不尽を解く事にしよう。
 俺はつい先ほどこれまでの人生で最大級の羞恥プレイを味わった。重要な事なので先に言っておくが、俺にそういったもので快感を覚える様な趣味趣向は一切ない。
 にもかかわらず昼下がりの大通りで、殆ど公開処刑と言って良いレベルでの精神的ダメージを負った訳だが……そこに酷い格差が存在する。

 クロには現在情報隠蔽と認識阻害という二種類の魔法がかかっているらしく、直接会話をしない限りクロが冥王である事に周囲の人は気付かないらしい。
 それはクロと二人で出かけるにあたり、有名な存在であるクロの元に人が集まらない様にする為の対策だが、これが俺へのダメージを爆発的に増幅する結果となった。
 周囲の人達にはクロは街にいるごく普通の少女と認識されていると言う事は、今回の件に限り凄まじいマイナス要素として俺に降りかかってくる。
 つまり周囲から見た俺は、昼下がりの大通りで140cm程しかない幼女相手に、シールフルーツをカップルの様な形で飲んでいる20代男性と認識された訳で……もはやロリコン認定不可避である。

「カイトくん? どうしたの?」
「……ちょっと、今後どうやって街中を歩こうかと考えてたところ……」
「うん?」

 手を繋いだまま不思議そうに首を傾げるクロに、俺はガックリ肩を落としながら答える。
 手を繋いでるだけならまだ兄妹でも通った筈なのに……いや、待てよ。そう言えばこの国って結婚年齢が低いって言ってたっけ? じゃあ、もしかしてさっきの光景もある程度違和感の無いレベルだったんじゃ……なら、もしかして大丈夫? いや、俺の精神的ダメージは置いといて、社会的にはセーフかもしれない。

 そんな事を考えながら歩いていると、周囲の雰囲気が少し変わっている事に気が付く。
 視界に映る飲食店の数が減り、露店の様なさらに小規模な店が多くなってきた。

「何か、少し雰囲気が変わった?」
「うん。この辺りは『個人作成の魔法具』のお店が多いんだよ」
「個人作成?」
「流通してる生活用魔法具とかは何かしらの商会が作ってる物が殆どだけど、魔水晶さえあれば個人でも魔法具は作成できるからね。商会制作の魔法具が大抵コスト重視なのに対して、個人作成のは一点物とかも多くて、珍しいのがいっぱいあるから、掘り出し物が見つかるかもしれないよ」
「へぇ、それは面白そうだ」

 この世界の生活において魔法具と言うのは欠かせない存在だ。
 照明を灯す魔法具、水を出す魔法具、火をおこす魔法具とリリアさんの屋敷でも色々な魔法具を目にしたり使用したりする機会があった。
 ある意味俺達の世界での機械製品の役割を担っているとも言え、中には元居た世界の物を遥かに超える性能と言える物も存在している。
 例えば、リリアさんが俺に割り当ててくれた部屋には、設定された範囲内の気温を調整する魔法具が置いてあり、それは触れるだけで部屋の中を一瞬で暖かくしたり涼しくしたりできる。
 言うならばエアコンの上位互換と言って良い程の性能で、元の世界にもあればいいのにと思ったものだ。

 この辺りにはそういった魔法具の中でも、さらに特殊な効果を持つ物が多く売られているらしく、単純ながらわくわくしてきた。
 空中を水の玉が動いている露店もあれば、渦巻く様な風が発生している露店もある。
 そんなファンタジー的な光景に目を奪われながらいくつかの露店を眺めていると、ふと一つの看板に目を引かれた。

「……空間転移の魔法具? あの、コレって、どんな魔法具なんですか?」
「お、お客さんお目が高い。この魔法具はいくつかの地点を記録して、そこに一瞬で移動できるって優れ物よ」
「それは凄い。遠い場所にも移動できるんですか?」
「勿論。流石に人界から魔界や神界に移動はできないけど、人界内なら移動はお手の物! しかもコイツは何度でも使用できる! これさえあれば旅行もし放題って訳だ」

 俺の質問を受け店主の男性が、軽快な口調で解説してくれる。
 どうやらこの魔法具は、所謂ワープが出来るものらしい。
 場所を記録すると言う事は一度その場に訪れる必要があるんだろうけど、それでも凄い魔法具だと思うし……正直欲しい。
 これから先、この世界で観光を行う上で空間転移が出来れば物凄く便利になりそうだ。
 でも、それだけの物って事は……やっぱ高いんだろうなぁ……

「ちなみに、いくらですか?」
「今日だけの格安価格、今なら30000Rだ!」
「30000Rか……」
「……」

 やっぱり高い。日本円にして300万円、俺がリリアさんに貰ったお金の半分以上……だけど空間転移がし放題と考えると、安い買い物なのかもしれない。
 実際50000Rもあっても全部使い切る事なんてなさそうだし、買ってみようかな?

「あの、これって――「ストップ、カイトくん」――え?」

 興味を持ちもう少し詳しい説明を聞いてみようと思ったが、そのタイミングでクロが口を開く。
 そしてクロはその空間転移の魔法具を一度見た後、店主の男性に話しかける。

「一回限りの使い捨てでも10000Rはするのに、複数回使える空間転移の魔法具が30000R?」
「なんだ……って、あっ、め、めめめ、冥王様!?」

 クロを見た店主は驚愕した様な表情を浮かべる。成程、さっきまでは話しかけて無かったからクロが冥王だって事には気付いていなかったのか……

「それだけ高性能の魔法具なら、最低でも500000R。白金貨5枚以上はすると思うんだけど……随分安いね?」
「あ、そそそ、それは、えと……」

 明らかに動揺して顔を青く染めている店主……何となく読めたが、どうやらこの魔法具には何か欠陥があるらしく、俺は騙されかけたらしい。
 てか、空間転移の魔法具って本来は5000万以上するんだ……

「この魔水晶さ……純度は30%って所だよね? 術式も雑だし、これだと精々街から街へ移動するのが限界だよね? しかもこの大きさで純度の低い魔水晶じゃ、一度使ったら再使用までに『半月』はかかるでしょ?」
「……あ、いえ、その……」
「く、クロ? 純度って一体……」
「魔水晶はね純度が高い程大量の魔力を貯めておけるし、空気中の魔力で減った魔力を補充する速度や効率も高くなる。だから魔水晶は高純度であればある程高価なんだよ」
「……えと、つまり、この魔水晶は安物って事?」
「うん。しかもかなり小さいね。空間転移の魔法って移動する距離が遠い程大量の魔力が必要になるから、国から国へ移動できるぐらいの魔法具なら、最低でも80%以上の純度で、この3倍位のサイズじゃなきゃまともに使えないだろうね」
「……」

 成程、確かに店主は移動できる距離や再使用までの時間に関しては説明して無かった。
 つまりこの魔法具で空間転移出来るのは精々数kmくらいで、しかも一度使ったら再使用できるまで2週間以上かかるか、持ち主が大量の魔力を補充しないといけないらしい。
 確かに移動はお手の物、何度も使える、っと思い返してみれば具体的な内容は何も言ってなかった……上手いものだ。クロがいなかったら完全にいいお客さんになってたところだ。

「……で? この子はボクの大事な友達なんだけど……」
「も、申し訳ございませんでした!!」

 可哀想になるほど青ざめた顔で大量の汗を流していた店主は、クロの言葉を受けて凄まじい勢いで土下座する。
 う、う~ん。騙されかけたのは事実なんだけど……巧妙な言い回しではあったけど、嘘を言っていた訳ではない。詐欺かどうかと言われたら微妙なラインだろう。
 仮にこれで騙されて買っていたとしても、それはよく確認せず買った俺が迂闊だっただけとも言える。
 しかも冥王ってとんでもない存在にバレた事を考えると、あんまり責める気にもなれない。てか既に泣いてるし……

「カイトくん、どうする? ボクが叱っとこうか?」
「ひぃっ!?」
「い、いや、いいよ。実害があった訳じゃないし、謝罪もしてもらったから……」
「まぁ、カイトくんがそう言うなら……次に見かけた時同じ事してたら……ちょっと怒るからね」
「は、ははは、はい。もう、二度と致しません」

 泣きながら必死に土下座する30代後半ぐらいの男性に少し同情しながら、その場を離れて再び露店街をクロと一緒に歩く。
 さっきの件はクロのお陰で実害は無かったし、ある意味良い勉強になった。

「クロ、魔水晶の純度って俺が見ても分かるものなの?」
「う~ん。細かくは難しいけど、大雑把になら分かると思うよ。魔水晶は純度が高い程色が濃くなるから、それを目安にすればいいよ」
「成程」

 どうやら魔水晶と言うのは高価なものほど色が濃くなるらしい。つまり一番高価な魔水晶は、黒い色をしているって事……うん? ちょっと待てよ……
 俺がクロから貰ったネックレス。探知魔法とやらが込められてるアレって、色真っ黒だったんだけど……もしかして滅茶苦茶高価なものなんじゃないだろうか?
 クロはそんなもの凄い物を初対面の俺にポンとくれたの? ホントどんだけ金持ちなんだクロって……

 改めてクロの凄さを色々な意味で実感しつつ歩いていると、ふと強烈な気配を感じた。

「……なんだコレ?」
「……う~ん。何か来てるね」

 どうやらそれはクロも感じていたらしく、俺達はほぼ同時に足を止めて視線を上空に向ける。
 その直後、誰が発したのかは分からないが悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。

「ワイバーンだ!!」
「ッ!?」

 その声と共に周囲が一斉に騒がしくなる。
 視線の先……王都の上空を旋回する様に動く大型の影が七つ、緑色の鱗と巨大な翼を持った魔物……複数体のワイバーンの姿がそこにあった。

「なんで、ワイバーンが!?」
「討伐に失敗したのか? そんな馬鹿な!?」
「は、早く騎士団に連絡を!」

 あちこちから聞こえてくる怒号と叫び声、王都にワイバーンが襲来すると言う明らかな異常事態。
 どうやら先程感じた奇妙な気配は、俺の感応魔法がワイバーンの接近を感知したものだったらしい。
 だけど、何だろうこの感覚、ワイバーンから伝わってくる意思の様なもの、そこに含まれているのは……恐怖と焦燥?

「もしかして、討伐隊から逃げてきたのか?」
「う~ん。結界魔法も張らずに交戦するとは思えないんだけど……けど七匹じゃ群れって言うには小さすぎるし、逃げて来た生き残りって考えるのが普通かなぁ? もしかしたら『討伐隊じゃない何か』から逃げて来たのかもね」

 俺の呟きにクロが冷静に言葉を返してくるが、状況はかなり緊迫している。
 いわば上空に居るのは手負いの獣、いつ襲いかかってきてもおかしく無い。
 今は上空をぐるぐると探る様に旋回しているが、アレが一斉に襲いかかってきたら……

「く、クロ……」
「カイトくん。さっきボクが言った事覚えてる?」
「……え?」
「ボクが理由も無くこの国のトラブルに関わらないって話……それってつまり、理由があったら関わるって事なんだよね」

 焦る俺に対し、クロは静かに呟く様な言葉を返してくる。
 静かで淡々とした物言い、そこから感じるのは……怒り?

「……折角、カイトくんと楽しくデートしてるのに……」
「あ、あの、クロ――なっ!?」

 怒りを堪える様な言葉と共に、クロが指をパチンと弾く。
 すると視界を埋め尽くす程巨大な魔法陣が上空に現れる。

「ボク凄く楽しみにしてたんだからね。いっぱいお洒落してきたし……だから……邪魔すると、ボク……怒るよ?」

 直後、上空が絵の具で塗り潰される様に黒一色に染まる。
 少しして真っ黒に染まっていた空は元の色に戻り、そこには七匹のワイバーンの姿は影も形もなかった。

「……」
「よし、終わり……さ、カイトくん続き行こう!」
「……あ、あの、クロ……さん? 今、一体何を?」
「うん? デートの邪魔だったから『空間消滅魔法』で片付けたよ」
「……ソ、ソウデスカ」

 空間消滅魔法!? なにそれ、もう字面だけで恐ろしいんだけど!? 消したの? 消滅させちゃったの? 
 さ、流石冥王……半端じゃない……明らかに危機的状況だった筈なのに、指弾いただけで終わらせちゃったよ。
 というか、登場して数秒で消え去るワイバーンが哀れすぎる。まさかワイバーンに同情する日が来るなんて、夢にも思って無かった。

 拝啓、母さん、父さん――王都にワイバーンが現れ、一触即発かと思ったけど――冥王が強すぎた。












前々話では登場した瞬間死体で、今話では数秒で消滅……ワイバーンェ……ワイバーン先生の次回作にご期待ください。
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