一気に攻めてきた
軽いトラブルはあったが、俺たち三人は順調に祭りを回っていく。次にたどり着いたのは、驚くほど大きい……牧場のように見える場所だった。
青々とした芝生が植えられ、小高い丘や花のトンネルのような場所も見える。
「……なんか、街の中っていうより郊外みたいな雰囲気ですね」
「そうだね。綺麗なところだね~」
「ガイドブックによると、ここは魔物に乗れる場所みたいですね。貸し出しもありますし、自分のペットに乗って走ってもいいみたいです」
フィーア先生とノインさんの会話を聞きながら、俺はアリスのガイドブックでこの場所の概要を確認する。
言うならば乗馬体験ができるアトラクションって感じかな? ガイドブックを見る限りかなり広いし、ここならベルも思いっきり走れるかもしれない。
「せっかくですし、少し遊んでいきませんか? ここ数日散歩してあげれてないし、ベルも走りたいだろ?」
「ガゥ!」
ベルは俺を背に乗せて走るのが好きという可愛らしい一面があり、最近では散歩のコースも街の外に変更した。以前は魔物が出る危険があるということで街の外には気軽に出れなかったが、いまはアリスというチートレベルの護衛が居るのでまったく問題無い。
まぁ、もっとも……人間の街にわざわざ近付く魔物は少ないらしく、まだ散歩中に魔物と遭遇したことはない。
少し思考が逸れたが、ともかくベルを走らせてあげたいので、ここで遊んでいこうとふたりに提案する。
するとノインさんはすぐに頷いてくれたが、フィーア先生はなにかを考えるように顎に手を当てて俯いた。
「……チャンスだよね……上手く話を持っていって……」
「フィーア先生?」
「あ、ごめんごめん。そうだね。楽しそうだし遊んでいこう!」
一瞬なにかを企んでいるような思考が伝わってきたが、それはすぐに消え、フィーア先生は笑顔で賛成の言葉を返してくれた。
「ところでさ、ミヤマくん。もしよければ、私もベルちゃんに乗ってみたいな~」
「ベルにですか? う~ん」
ベルの体格を考えると三人乗ることは問題無いと思う。ただ、人を三人も乗せると、流石のベルもバランスが取りづらくてスピードが出ないんじゃないだろうか?
いや? いけるか? う~ん、他の人を乗せたことがあまりないからよく分からないな。ジークさんと一緒に乗ったことはあるからふたりは確実にいけると思うけど……。
「ああ、もちろん一気に三人で乗ろうなんて言わないよ。それだとベルちゃんの負担が大きくなっちゃうしね。ただ、私やノインの言うことを聞いてくれるか分からないから……主人であるミヤマくんは乗ってた方がいいと思う」
「……ふむ」
「というわけで、私とノインと交代で後ろに乗せてくれないかな?」
「……なるほど、確かにそれなら大丈夫そうですね。ベルもそれでいい?」
「ガゥ!」
フィーア先生の提案は特に問題は無さそうで、ベルも了承してくれた。ならひとりはここで待ってもらって、順番に大周りに一周してみることにしよう。
「……あれ? 私もいつの間にか快人さんとふたりで乗るようになってる? この手のふたりで乗るのは、それなりに密着が……」
「ノインさん?」
「あっ、い、いえ! なんでもありません! 私はあとでいいので、先にフィーアを乗せてあげてください」
「あ、はい。分かりました」
ノインさんが小声でなにかを呟いているようだったので声をかけた。声が小さくて聞きとれなかったけど、本人が問題無いって言ってるなら大丈夫かな?
「じゃあ、フィーア先生が先で、ノインさんがあとということで」
「はい!」
「了解、じゃあ、さっそく行こうよ!」
俺の言葉を聞いたフィーア先生は笑顔を浮かべ、ヒョイっとベルの背に乗る。さ、流石……俺はベルにしゃがんでもらわないと乗れないのに……。
ベルが四本の足で地面を蹴って加速していく、頬を撫でる風が強くなるが、ある程度加減はしてくれているみたいなので心地良い。
「おぉ~流石ベヒモス。かなり早いね」
「ええ、風が気持ちいいですね」
「そうだね……よっと!」
「なっ!?」
風が前から後ろに流れているので、後ろに居るフィーア先生の声は本来なら聞き取りづらいはずだが、なにか魔法を使っているのかやけに鮮明に聞こえてきた。
まぁ、それはいいとして……フィーア先生? なんで、俺のお腹に手を回してきてるんですか? な、なんか、柔らかいものが背中に当たってるんですけど!?
「ふぃ、フィーア先生!? な、なにを……」
「いや、ほら、落ちちゃうといけないからね」
「……そ、そうですか……」
いやいや、貴女元魔王で、魔界でも有数の実力者ですよね? どう考えても、落ちないよね?
焦る俺とは裏腹に、フィーア先生はどこか楽しげな様子でさらに強く体を密着させてくる。修道服の上からでもハッキリと分かるふたつの膨らみは、俺の背中に押し当てられ、形を変えながらその弾力を伝えてくる。
しかし、フィーア先生の攻撃……もとい、アプローチはまだ終わってはいなかった。フィーア先生はそのまま俺の肩におでこを擦りつけるような仕草をしたあと、ふっと俺の耳に向かって息を吹きかけてきた。
本当にどうやっているのか分からないが、この風の中でもその吐息はしっかりと俺の耳に届き、微かな温もりとゾクゾクとした感覚を与えてきた。
「少しの間だけだけど……ふたりっきりに、なれたね? 嬉しいよ」
「ッ!?」
囁くその声は、驚くほどに色っぽく……まるで耳から顔を溶かされるんじゃないかと思うぐらいに……熱が籠っていた。
拝啓、母さん、父さん――ベルに乗ってのんびりと散歩……となるはずだったのだが、甘かった。あの時、フィーア先生が考えていた展開はこれだったのか!? 不意打ちにより完全に主導権を握ったまま、フィーア先生は戸惑う俺に落ちつくす気を与えず――一気に攻めてきた。
フィーア先生のターン! 厳密に言えば二人っきりじゃないけど、ともかくフィーア先生のターン!
陸戦型シリアス先輩「……私自身のシリアス力を『1シリアスパワー』とする」
???「……はい?」
陸戦型シリアス先輩「両手を使って攻撃することで、シリアスパワーは2倍! 2シリアスパワー!!」
???「っ!?」
陸戦型シリアス先輩「さらに助走して跳躍することで、シリアスパワーは更に2倍! そして! 空中で回転して遠心力を加えることで、シリアスパワーは更に3倍!!」
???「……」
陸戦型シリアス先輩「1×2×2×3で、12シリアスパワーの一撃! 喰らえぇぇぇぇ!!」
???「……まぁ、その……マイナスにいくら掛けたところで、マイナスの値が大きくなるだけですけどね?」
陸戦型シリアス先輩(大破)「むわぁぁぁぁぁぁぁ!?」




