絶対アリスだもん
六王祭四日目の主催は、竜王マグナウェルさん。テーマは魔物との触れ合いということらしい。
これだけだと動物園みたいなのをイメージするが、実際はわりと普通の祭りっぽい出店も多い。ただ、ドリンクの容器がスライム型だったり、ドラゴンのお面が売ってたりと、魔物要素は結構多い。
「あっ、ミヤマくん。ワイバーン肉の串焼きがあるよ」
「俺も一度買ったことがありますけど……ワイバーンの肉って、結構有名な食材なんですか?」
「ワイバーンは弱い魔物だけど数が多いからね。食用としてはポピュラーだね」
「そうですね。単純に味で言えばレッドドラゴンやブラックドラゴンの方が上ですが、ワイバーンは狩りやすいですからね」
俺の疑問にフィーア先生が明るい笑顔で答えてくれて、ノインさんもそれに同意する。
なお、あくまで元勇者と元魔王の感想である。一般人であるレッドベアサンド屋台のおばちゃん情報では、かなり危険な魔物だということだ。
「けど、少し意外ですね。魔物主体の祭りだから、いろいろ巨大なものが多いのかと思いましたよ」
「ミヤマくん、魔物が皆ベルちゃんみたいにおっきいわけじゃないからね?」
「なるほど……そういえば、いまさらな質問なんですけど……魔物って呼ばれる種類と、魔族って言われる種類の違いってなんなんですか?」
「簡単にいっちゃえば魔力と知識だね。一定以上の魔力と知恵を持っている魔物は、むやみに人を襲ったりはしないから魔族に分類されてるよ。まぁ、細かい基準もあるみたいだけど、その判定をしてるのはマグナウェル様の配下だから、私はそこまで詳しくは知らないね」
言ってみれば理性を持って行動できる知識と、基準以上の力があれば魔族ってことか……。
「まぁ、それほど深く考えなくてもマグナウェル様が認めたら魔族ってことでいいと思うよ」
「なるほど……」
「けど……長いこと見ない間に祭りの雰囲気も変わったねぇ……なんだか新鮮だよ」
「フィーアはずっと勇者祭にすら参加してませんでしたからね。この1000年で私や快人さんのいた世界から、いろいろと伝わって変化してるんですよ」
フィーア先生はあまり祭りに参加したことが無いらしく、あちこちにある出店を興味深そうに眺めていた。
特に俺達の世界から伝わったであろうたこ焼きなどの屋台に目を輝かせている。その姿はいつもの印象より幼く感じて、なんだか可愛らしい。
幸い俺が居た世界から伝わったものに関してはいろいろ教えてあげられると思うし、フィーア先生にもしっかり楽しんでもらいたいものだ。
そんなことを考えながら歩いていると、少し離れた場所で大きな歓声が聞こえ、そちらを向く。
「……あっ、アレは私でも知ってるよ『WANAGE』だよね!」
「……」
……俺の知ってるのと違うヤツがいきなりきた!? ちょ、超エキサイティングバトルスポーツとか言うやつか……正直、怖いもの見たさで見てみたい。
「たぶん大会をやっているのでしょうね。WANAGEは迫力がありますし、ちょっと見ていきましょう。快人さんも、それで構いませんか?」
「え? えぇ、大丈夫です」
流石ノインさんは1000年以上この世界に住んでいるだけあって、WANAGE にも驚いたりはしていない。
とはいえ、俺もちょっと見てみたいとは思っていたので、ノインさんの提案に頷いて移動することにした。
歓声に導かれるようにWANAGEが行われている場所に向かっていくと、途中で広声魔法での実況が聞こえてきた。
『さぁ、次の対戦者を紹介しましょう。まずは赤コーナー! 『世界ランク16位に入るA級ナゲリスト』WANAGEの有名技『カグラ』を使いこなす猛者です! 得意の『ガン&ステイ戦法』で勝利を掴めるか!』
お~い、ようやく既存の単語に動揺しなくなったと思ったら、また知らない単語が増量したんだけど!? A級ナゲリスト!? 世界ランク!? マジでWANAGEってなんなの……こえぇよWANAGE……。
まだよく見える位置まで移動していないにも拘らず、すでに実況でお腹いっぱいになりそう。
『そして、そして……青コーナーからは、ついに来た! 『世界ランク1位』! 数多のナゲリスト達の頂点に立つ存在! 『謎の超絶美少女ナゲリスト』ナイトメアだぁぁぁぁ!!』
「……」
……アリスだろ、アイツ絶対アリスだろ……お前が世界1位なのかよ!?
全然知らない競技で、どう考えても知ってるヤツがチャンピオンとして出てきたんだけど……このいいようのない感情をどう処理すればいいんだろう?
「す、凄いですよフィーア! あの、無敗の王者ナイトメアの対戦ですよ!」
「運が良いね! 公式戦以外には滅多に現れないのに……」
「……」
そして同行者ふたりのこのテンションである。なんだろうこの、酔っ払いだらけのなかでひとりだけ素面みたいな状況……ツライ。
『おおっと、コレは! ナイトメア選手、空を指差しています! 出ました! 予告『シューティングスター』!! 会場は大興奮です!』
「……」
「で、伝説の絶技……シューティングスター……ま、まさか見れるの?」
「大丈夫ですよフィーア! ナイトメアが予告シューティングスターをした時は、必ずシューティングスターで勝負を決めています!」
もはや新出の単語に驚くことも無く、俺は冷めた目でただ静かに時間が流れるのを待っていた。
拝啓、母さん、父さん――観客は実況の言葉通り、フィーア先生とノインさんも含めて大興奮だが……俺はいまいち流れに乗れない。テンションについていけない……だってアレ――絶対アリスだもん。
~ナゲリスト世界ランクTOP5~
1位 謎の超絶美少女ナゲリスト・ナイトメア(無敗)
2位 ベビーカステラ仮面
3位 バトルキング(会場を壊して反則負け数回)
4位 どこにでもいるおじさん(公式戦を無断欠席して不戦敗数回)
5位 王宮帰りのマーメイド(上位四位には全敗)




