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一周年記念番外編「死の魔力への挑戦後編①・叶う夢、紡ぐ愛」


 魔界北部にある死の大地。生物がほぼ存在していない氷に閉ざされた地……ひとつの氷山の上に、死王アイシスの姿があった。


「……」


 アイシスは目を閉じ集中している様子で、その体の周りでは青い魔力の光が瞬く。並の生物であれば、近付くだけで死んでしまうほどに強大な魔力を纏いながら、アイシスはただ静かに集中する。


 いつ以来だろうか? そんな疑問が頭に浮かぶほど久しぶりに、アイシスは『鍛錬』を行っていた。体から溢れる凶悪な死の魔力、それを広がらないように押さえこむ。

 内容自体は単純ではあるが、数万年かけても完全に制御することができない死の魔力を押さえこむことは、いかにアイシスでも容易では無かった。


 目を閉じたまま時折表情を歪めつつ、身に纏う魔力をどんどん強大にしていくアイシスは、非常に珍しいことではあるが疲労を感じていた。


「……懐かしい……昔はよく……こうしてた」


 ポツリと溢したひとりごとは、過去を懐かしむもの。そう、アイシスはかつてこうして死の魔力を制御しようと努力を行っていた。

 しかし、クロムエイナの見立てでは最低で10万年以上かかるであろう壁は、非常に強固であり……いつしか彼女は、かつて描いていた夢を諦めてしまっていた。


 しかし、最近になってアイシスは再び鍛錬を始めた。止まっていた自身の成長を、再び求め始めた。


「……カイトが……頑張ってくれてる……私も……頑張る」


 アイシスが諦めたはずの夢に手を伸ばそうとしている存在が居る。誰よりも、なによりも愛おしいその人物が……孤独の中にあった己を救ってくれた快人が、血の滲むような努力で死の魔力へ挑もうとしている。

 アイシスと幸せな結婚式を挙げるために……。


 これは似ているようで違う、アイシスにとっての『新たな夢』……彼女も大勢の人に祝福され、最愛の快人と結婚式を挙げたかった。

 死の魔力を完全に制御できるようになるまでには時間が足りない。しかし、死の魔力に挑もうとしている快人の負担を減らすことはできるはずだ。


 いまアイシスの心には、眩しいほどの希望の光がある。その光が目指すべき未来を指示してくれるからこそ、彼女は迷うことなく己を高めることができていた。

 大気を震わせるほどの魔力を制御し、疲労の色を濃くしながら……それでも、アイシスの口元には幸せそうな笑みが浮かんでいた。








 クロによる特訓を始めてから、ずいぶん経った。とは言っても、季節が一巡り……1年程度ではある。

 まぁ、時間を歪めた空間で『24時間以上』特訓しているので、実際はもっと長い時間がかかったわけだが……。

 ちなみに、日々の訓練時間が大増量したのは、クロが「ボクの見てないところで無茶されるより、訓練時間を延ばした方がいい」と配慮してくれたからだ。もっとも、自主練習はかなり制限されてしまったが……。


 ともあれ、これで俺も魔力量だけなら人間という枠を越え、高位魔族級になったわけだ。

 攻撃魔法に関しても、ファイアーボールの大きさがピンポン玉サイズから『野球ボールサイズ』に急成長した。まぁ、噂では魔法学校の一年生でもバレーボールサイズの火球は出せるらしいが……。

 ま、まぁ、俺の目的はあくまで死の魔力を抑えることだし……別に攻撃魔法が使えなくたって悔しくなんかない。悔しくない……俺別に戦闘しないし、攻撃魔法とか必要じゃないからね!! 全然、悔しくないからね!!


 とまぁ、そんなことを考えながら身支度を整え、屋敷の庭へと出る。

 そこには緊張した面持ちで待つアイシスさんが居て、少し離れた場所にクロとリリウッドさんの姿も見えた。


「……お待たせしました。アイシスさん」

「……ううん……大丈夫」

「で、では、さっそく……死の魔力を抑えてみます!」

「……う、うん」


 待ちに待った瞬間……アイシスさんだけでなく、俺もかなりの緊張を心に宿しながら、そっとアイシスさんの手を握る。

 魔力量も大きく上昇した。魔力のコントロールだってしっかり練習してきた。きっと上手くいくはずだ!


 ひんやりとしたアイシスさんの手を強く握り、死の魔力を制御するために意識を集中して……そこで、あることに気が付いた。

 ……前より、外に漏れてる魔力が小さくなっている? 巨大な山のイメージは変わらないが、それでも一回りぐらい山が小さくなってるような……。


「……アイシスさん? もしかして、なにかしました?」

「……うん……カイトだけじゃなくて……私も……二人の幸せのために……頑張りたかった……だから……特訓した」

「……アイシスさん」


 そうか、頑張っていたのは俺だけじゃなくて……アイシスさんも、同じ夢を目指して頑張ってくれていたのか……嬉しいな。ちょっと、涙出てきた。

 いや、泣くのはあとだ。まずは死の魔力を抑えないと……。


 アイシスさんの体から漏れる魔力を、俺の魔力で覆うようなイメージ浮かべて魔力を操作していく。ゆっくりと、染み込むように広がる俺の魔力を、アイシスさんは抗うことなく受け入れてくれた。

 そして、俺の魔力がアイシスさんの魔力を包み込んだタイミングで、クロとリリウッドさんの方を向く。


 するとふたりは、明るい笑顔を浮かべて、両手で大きく丸を作ってくれた。


「「ッ!?」」


 六王ふたりのお墨付き……ならば、疑う必要なんてない。いま、アイシスさんの体からは死の魔力による圧力は外へ漏れていない……成功だ。


「アイシスさん!」

「カイト!」


 湧きあがる感動のままに互いの名を呼び、俺とアイシスさんは強く抱き合う。


「やりました! 成功ですよ!!」

「……うん……うん! ……ありがとう……カイト……本当に……ありがとぅ……」


 震える声で告げるアイシスさんの目には、大粒の涙が浮かんでいたが、その表情はいままで見たことが無いぐらい明るいものだった。

 ふたりがかりではある。完全にとは言えないかもしれない。


 それでも、いま、確かに……長年アイシスさんを苦しめ続けてきた死の魔力を、ついに克服した!


 俺の胸に顔を埋め、幸せそうに泣きじゃくるアイシスさんをより強く抱きしめる。心に感じる喜びを、全身で共有するかのように……。

 そのまましばらく抱き合ったあと、アイシスさんが泣きやむのを待ってから口を開く。


「……アイシスさん」

「……うん」


 そして、アイシスさんから体を離し、俺は地面に片膝をついてからアイシスさんの手を片手で握る。マジックボックスからこの日のために採って来ておいたブルークリスタルフラワーを取り出し、空いている方の手に持って差し出す。


「……お待たせして申し訳ありません。でも、ようやく、俺は愛しい貴女の夢を叶えてあげることができました。アイシスさん、貴女を、心から愛しています……結婚してください」


 この世界では婚約指輪を贈るのは一般的ではない。一夫多妻制が当り前であるこの世界では『ふたりの思い出の品』を贈りプロポーズするのが、一番愛ある求婚だといわれている。

 この思い出はふたりだけのもの……そしてこれから先も、幸せな思い出を作っていこうと……そんな願いを込めながら、思い出の品を贈る。


 俺とアイシスさんの始まりは、このブルークリスタルフラワー……透き通るような青い色合いのこの花は、俺とアイシスさんを象徴する思い出の一品。

 いくつも積み重ねてきた彼女との幸せな思い出……その始まりとなった花。ならば、プロポーズにはこれが一番相応しいと思う。


 アイシスさんは俺が差し出したブルークリスタルフラワーを、俺に握られていない方の手で受けると、それに口付けしてから、その美しい花すら霞むほどの笑顔を浮かべた。


「……はい……喜んで」


 俺はいままで、アイシスさんの色んな顔を見てきた。悲しんだ顔、喜んだ顔、怒った顔、笑った顔……彼女と過ごした日々の中で、とても多くの表情を目にしてきた。

 だけど、この日、この時、この場所で見た笑顔は……いままで見てきたどんな表情とも比べものにならないぐらい……美しかった。





草案からタイトルを変更。


シリアス先輩Act3「な、なんでぇぇぇぇ!? なんで、シリアスっぽいところは出番なくて、ここでぇぇぇぇ!? だ、ダメージが大きすぎる……早く回復を……うん? え? ちょ……『①』? え? ちょ、ちょっとまって……②があるの? ま、まさか、結婚式じゃ……あぁぁ、うわぁぁぁぁぁ!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] ( ´ཫ` )尊い
[一言] 涙が止まらん
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