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簡単には忘れられそうにない



 突如俺とフィーア先生の前に現れた、いつもとは違うノインさん。その重厚な漆黒の全身甲冑に身を包んだ姿は、まるで『暗黒進化』でもしてしまったかのようだった。

 かつて勇者と呼ばれ世界を救ったノインさんが、黒いアイアンゴーレムになって現れるなどと、一体誰が予想しただろうか?

 初代勇者の信奉者とかが見たら、倒れるかもしれない。それぐらいに衝撃的な見た目だった。


 なにせ、本来は160cmくらいのノインさんが、いまは2mを越えるぐらい巨大になっているわけだから、相当ぶ厚いんじゃないかな、あの鎧……。


「……フィーア先生、なにか一言お願いします」

「ヒカリって、時々すごい馬鹿だよね」


 重い足音を響かせながら湯船に近付いてくるノインさんを見て、俺とフィーア先生は呆れた声で言葉を交わす。

 ノインさんはそんな俺達を気にした様子はなく、湯船の近くに来てからしゃがみ……『入浴前に体を洗い始めた』。


 ……いや……意味無いからソレ!? 洗ってるのは甲冑だからね!?


「……あの、ノインさん? 裸になれとは言いませんので、せめてそんな重装備じゃなくて、もう少し軽装備で……」


 なんで俺は風呂場で重装備とか軽装備とか言ってるんだ? 言葉にパワーがありすぎるせいか、自分で言ってて混乱してきた。

 ノインさんは俺の言葉を聞いて一度動きを止めた後、ゆっくりと首を横に振った。


「……駄目です。私はまだ嫁入り前、殿方にむやみに肌を晒すわけにはいきません」

「……そ、そうですか……」


 だ、駄目だ!? 極端すぎゃしないかとか、そんな突っ込みの言葉が出てこない!? 浴槽に巨大な甲冑が居るという非現実的なシチュエーションに、頭が付いていかない。


 そして、ノインさんは体……もとい甲冑を洗い終えたようで、ゆっくりと湯船に浸かり始めた。

 考えてみるまでもなく、アイアンゴーレムと称されるほど重装備のノインさんが湯船に入ればどうなるか……一気に押し出された湯が、波のようにう体にぶつかってきた。


「……ノインさん、それ、ちゃんと湯は中に入ってきてるんですか?」

「安心してください。『完全防水です』!!」

「まったく意味がないじゃないですか!?」


 この人、本当になにをしに来たんだ? 繰り返しになるけど……そこまで恥ずかしいなら、風呂に入ってこなければよかったのに……。


 唖然としながらそんなことを考えていると、先程から一言も喋っていなかったフィーア先生が口を開いた。


「ねぇ、ヒカリ? その甲冑って、ヒカリが魔力で作ったんだよね?」

「ええ、そうですが?」

「……『ディスペル』」

「……へ?」

「……え?」


 フィーア先生がポツリと呟いた瞬間、ガラスが割れるような音が響き……ノインさんが着ていた全身甲冑が『消え去った』……。


「甲冑で湯船に浸かるとか、マナー違反にもほどがあるよ。だから、強制解除……」


 ここで情報を整理してみよう。ノインさんはかなり分厚い全身甲冑に身を包み、その状態で湯船に浸かっていた。そして甲冑は完全防水、水の一滴すら通さないらしい。

 となると、その甲冑の分だけ湯はノインさんの体から離れていたわけで……その甲冑が突然消えると、どうなるか? それはつまり、それまで甲冑に隠されていたノインさんの体が、短時間ではあるが晒されるという事実。


 そしてこれが一番重要な部分だが、甲冑のインパクトがあまりに大きかったため……『俺はノインさんの方を向いていた』……。

 俺の目にたしかにその光景が焼き付いた。晒される白磁のような肌、結い上げられた黒髪……そしてノインさんが女性であることを示す膨らみと、その頂点にある突起。

 それらがすべて、見えてしまった。


「~~~~~~~!?!?!?」


 完全に硬直していた俺の前で、ノインさんは爆発するかのような勢いで顔を染め上げ、声にならない悲鳴を上げる。

 そして酸欠になったみたいに、真っ赤な顔でパクパクと口を動かした後……ノインさんは『湯船に沈んだ』。


「の、ノインさん!?」

「ヒカリ!? だ、大丈夫? こ、これは……う~ん」

「フィーア先生? ノインさんは?」

「駄目だ。完全に気絶してる」


 慌てて沈んだノインさんを助け出したフィーア先生は、その状態を確認した後で溜息を吐きながら首を横に振った。

 どうやら恥ずかしさが極限に達したため、気を失ってしまったらしい。ちょっと前にも、別の人がこんな状態になっていた気がする。


「……フィーア先生、いくらなんでもあんな急に……」

「ご、ごめん。まさか、ここまで大袈裟に反応するとは思わなくて……これは外で寝かせた方がいいね。ミヤマくん、私はヒカリを連れて先に上がるね」

「あ、はい」


 原因となったフィーア先生も、まさかノインさんがここまで過剰な反応……気絶をするとまでは読んでいなかったみたいで、バツの悪そうな顔で先に上がってノインさんを介抱すると口にした。


「騒がしくなっちゃって、本当にごめん。お風呂からあがったら、また三人で話そうね」

「分かりました。俺もノインさんに謝らないといけないですしね」


 不可抗力とは言え、ノインさんの裸を見てしまった。ノインさんはとても古風な考え方をする人だし、裸を見てしまったというのは、俺が考える以上に重い出来事だろう。

 とりあえず、目を覚ました時には誠心誠意謝ることにしよう。


 拝啓、母さん、父さん――完璧とすら言える装備で現れたノインさんだったが、全身甲冑を全て魔力で作っていたことが災いとなり、フィーア先生の解除呪文で肢体を晒すことになってしまった。ノインさんには本当に申し訳ないと思うけど、不可抗力ながら見てしまった彼女の裸は――簡単には忘れられそうにない。





シリアス先輩Act3「妙な流れになってきたぞ……これ、もしかして、責任とって下さいとかって告白するパターンなんじゃないの? 違うよね? 絶対違うよね? そんなわけないよね!?」

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