重装備すぎるのでは?
広い浴槽の湯船につかり、今日一日の疲れを洗い流していく。
今日は本当に色々なことがあった。戸惑ったり気持ちが沈んだ時もあったけど、それ以上に俺には本当に素敵な恋人たちが居るのだと再認識でした。
そう思ってみれば、割といい一日だったのかもしれない。
そんなことを考えながら、マジックボックスから瓶ビールを取り出し、コップに注いでっから飲む。
温かいお風呂で飲む冷たいビール……う~む、至福だ。
翌日に一緒に回る人が俺と一緒に風呂に入るという、クロたちが決めたルール。そのルールに当てはめると、明日……マグナウェルさんが企画した祭りに関しては、これといって回る予定の相手はいない。
つまり、今夜はひとりっきりでお風呂というわけだ。
クロたちと居るのも楽しいけど、たまにはこうやってひとりで酒を飲むのもいいもの……。
「おじゃましま~す! ミヤマくん、きたよ~」
「ぶぅっ!?」
扉の開く音と共に、聞き覚えのある……この場に居ないはずの人の声が聞こえてきた。
不意を突かれて驚いたせいか、つい反射的に振り返ると、そこには大きめのバスタオルを体に巻いたフィーア先生の姿があった。
「ふぃ、フィーア先生!? な、なんでここに!?」
「えへへ、ミヤマくんに会いたくて、来ちゃった」
はにかむように微笑むフィーア先生は、普段は修道服で隠れている美しい肌を惜しげもなく晒しており、高い位置でまとめているダークグレーの髪も相まって、いつもとは違う感じがした。
「い、いや、会いたくてって……」
「うん? 大丈夫だよ。抱えてる患者さんは医者仲間に任せてきたし、今日明日は診療所も休みにしたからね!」
「い、いえ、それはまぁ、いいんですが……なぜお風呂に?」
「いや~クロム様に、ミヤマくんと一緒に祭りを回りたいって相談したんだけど……そうしたら、明日の四日目はミヤマくんの予定も空いてるかもしれないって聞いてね。直接一緒に回ろうって相談しに来たんだよ。そうしたら、なんと次の日に一緒に回る予定の子が、ミヤマくんと一緒にお風呂に入れるっていう素敵なルールを聞いて、急いで来た!」
「……」
ど、どこから突っ込めばいいんだ? というか、そのルールが飛び入りの方にも適応されるのは初めて聞いたんだけど……いや、それよりも、えっと、明日フィーア先生と一緒に回る?
それ自体は別に問題ない。というか、実はフィーア先生は『俺の同行者』にカウントされていたりする。
というのもフィーア先生にも招待状は来ていたらしいが、フィーア先生は俺の同行者として参加したいと言って、元々誘うつもりでフィーア先生を訪ねていた俺はそれを了承した。
しかしフィーア先生は医者であり、診療所の仕事もある。なので、全日程に参加するのは難しく、ここに一緒には来なかった。
まぁ、そんなわけでフィーア先生は名目的にも俺の同行者だし、一緒に回ること自体に問題はないんだけど……。
「え、え~と、確かに明日は特に誰と回るとは決めてませんでしたし、問題はないんですけど……フィーア先生はそれでいいんですか? クロや家族と回った方が……」
「もちろん、クロム様のところには挨拶に行ったし、家族とも六日目に一緒に回る予定だよ」
「あっ、他の日にも予定が空いてるんですね。それなら、安心しました」
「ふふふ、心配してくれてありがとう。嬉しいよ」
「あ、いえ……」
以前と比べて明るい笑顔を多く浮かべるようになったフィーア先生は、やっぱり家族だからだろうか? どことなく、クロに似ている気がする。
おっちょこちょいなとこも合わさって、可愛らしい女性って感じがする。
と、そんなことを考えていると、フィーア先生は自然な動作で湯船の近くに移動してきたので、俺は顔を逸らす。
すると、体を流すような音が聞こえた後で、フィーア先生は湯船に入ってきた。
「ふぅ~気持ちいいね~」
「そ、そうですね」
いまさらなことではあるが、フィーア先生はもの凄い美人だ。それに着やせするタイプなのか、さっき見た感じでは結構胸も大きかった。
大人の女性らしい体付きで、一緒にお風呂に入っていると思うと緊張が……。
「あれ? ヒカリ遅いなぁ~」
「え? ノインさん? ノインさんも来るんですか?」
「うん。ミヤマくんと私とヒカリ、三人で回れたらなぁ~って思って、声をかけたんだ。それで、ヒカリも了承したし、脱衣所まで一緒に来たんだけど……」
ノインさんを加えて三人で祭りを回ることに関しては、特に異論はない。しかし、混浴の特別ルールに関しては、大問題だ。
いや、そもそも、あの恥ずかしがり屋のノインさんが、混浴なんて行為を出来るとは思えない。
すると、丁度そのタイミングで再び扉が開く音が聞こえた。まさか、本当に来た!?
「あっ、ヒカリやっと……え?」
「フィーア先生? いったいなにが……は?」
なぜか言葉の途中で戸惑ったような声を上げたフィーア先生につられ、俺も音が聞こえた方を振り返ると……そこには、とんでもない姿のノインさんが居た。え? というか、アレ本当にノインさん?
「……お、お待たせいたしました」
「い、いや、それは別にいいんだけど……」
「の、ノインさん? そ、その格好は……」
ガシャンという鎧の音と、ズシンという重量感のある足音……そう、ノインさんは『いつもより二回り以上巨大な全身甲冑姿』で現れていた。
あまりにゴツ過ぎる!? なんかロボットみたいな見た目になってるんだけど!? というか、よくその重装備で歩行できますね!?
「これは、アレです。『湯浴着』です!」
「いやいや、そんな『アイアンゴーレム』みたいな格好で、どうやってお風呂に入るの!? というか、それ隙間あるの?」
「大丈夫です。フィーア……『水の一滴すら通さない造り』になっています! 魔力で出来ているので、関節部の稼働も問題ありません!」
「駄目じゃん!? なにやり切った感じで言ってんの!?」
フィーア先生の叫びに全面的に同意する。だって、もはや風呂に入るというか、深海にでも行くような重装備だからね。
いや、というか……そんなに恥ずかしいなら、混浴しなければいいのに……。
拝啓、母さん、父さん――入浴時に乱入してきたフィーア先生とノインさん。ま、まぁ、まだフィーア先生はいいとしても、ノインさん……流石にそれは――重装備すぎるのでは?
【フルアーマーノイン】
・全長約200cm
・重量約360kg
・『完全防水仕様』




