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足の重さも消えていた



 薄暗い道を静かに歩く。心なしか普段より足どりが重い気がした。

 それはルーチェさんが母さんと別人だったから……ではない。いや、それも少しはあるが、俺の足を重くしている最大の原因は別のところだった。


 ルーチェさんがあまりに母さんに似ていたから、母さんのことを思い出した。もちろん今までだって忘れたことなんて一日もないけど、ここまで強く思い出したのは久しぶりだった。

 母さんと父さんが死んで親戚に引き取られたばかりの頃……両親が居なくなってしまったことを認められず、玄関で二人の帰りを待ち続けていた時の鬱屈とした気持ちを……。


 呆れた話ではあるが、俺は10年近くたったいまも両親の死を完全には割り切れていないらしい。

 それでもこの世界に来る前に比べれば、ずっとマシだ。俺はいますごく恵まれているから……だからもう少し経てば、いつもの調子に戻れ……。


「……仕方ないですね。ここは、慈愛の天使と呼ばれたアリスちゃんにたっぷり甘えてくれていいですよ!」

「……え~」

「ちょっと!? なんすかその微妙な顔は!? アイシスさんやリリア公爵との扱いの差っ!!」

「だってアリスだし……」

「ああ、なるほど、確かにアリスならぞんざいな扱いでも仕方な――くねぇっす!? カイトさんは、もっと私を甘やかしてくれていいと思うんすけど!?」

「……ぷっ……あはは」


 ほら、やっぱり俺は恵まれている。

 鬱屈としていた気持ちをぶち壊し、笑顔を浮かべさせてくれる相手が、こんなにも近くに居る。


「……ちょっとは、元気、でました?」

「……ありがとう、アリス」

「でしょう、でしょう。ささ、もっと褒めてください。なんならご褒美に激ウマドラゴン肉の焼肉を奢ってくれてもいいんすよ?」

「……」


 効果音が聞こえてきそうなほどの渾身のドヤ顔、流石のウザさである。


「あれ~? さっきまで笑顔だったのに、救いようのない馬鹿を見る目になりましたよ?」

「救いようのない馬鹿がすぐ近くに居るからな」

「まったくしょうがない奴もいたもんすね!」

「お前だ、お前!?」


 他愛のない会話、くだらないやり取り……それがどうしようもなく嬉しくて、自然と心が温かくなっていくのを感じる。

 そんな俺を見て、アリスは微かに微笑んだあと、なにも言わずに俺の手を握ってきた。


 指を絡め、いわゆる恋人繋ぎの状態……アリスの手の温もりが心地良くて、また自然に笑みがこぼれた。


 拝啓、母さん、父さん――俺はきっとまだ二人の死にちゃんと心の整理を付けられてはいないと思う。けど、心配しなくても大丈夫だよ。いまは傍に居てくれる大切な人達が、ちゃんといるから……ほら、いつの間にか――足の重さも消えていた。










 快人と手を繋いで歩きながら、アリスは心の中……心具に宿るイリスへ話しかけていた。


(……どう思います?)

(どうにもキナ臭いな、あの女の発言はいくつか腑に落ちない部分があった。まるで触れられたくない話題があるように思えたな。あと貴様の敬語はやはりまだ慣れんな……)

(いまはこっちが素なんですから、早くなれてください。まぁ、ともかく私も同感です……六王祭の参加者に関しては全て顔と名前は記憶していますけど、あの方は見覚えないです)

(ふむ……)

(まぁ、参加者の同行者って線がある以上、簡単には決めつけられませんけどね)


 そう、アリスは先程快人が遭遇したルーチェをかなり警戒していた。すくなくともあの場のやり取りを、疑ってかかる程度には……。


(……ちっ)

(どうした?)

(『分体があの女を見失いました』。やっぱり怪しいですね。分体とはいえ、私の追跡を撒ける相手なんてそう多くはないです。そして、そのレベルの相手を私が見たこと無いなんてありえない)


 アリスは膨大な情報を握る存在であり、特に一定以上の力を持つ者に関しては種族問わず記憶していた。

 しかし、ルーチェに関してはまったく見覚えがない。無論アリスとて、世界中全ての生物を記憶しているわけではないが……幻王である彼女の分体を撒けるほど存在を、一切知らないというのは本来あり得ないことだった。


(……どう見る?)

(たぶん、シャローヴァナル様か地球神……どちらかは関わっていますね。これはちょっと、本腰を入れて探ってみる必要があるかもしれません)

(そのこと、カイトには?)

(いまは言えません。不確かな情報を伝えても、カイトさんを傷つけるだけですからね)

(それは、つまり『秘密裏に処理する場合もある』ということか?)

(……アレがもし本当にカイトさんの母親だったとしても……カイトさんに害が及ぶようなら、私は一切容赦はしません。どんな手を使っても消します)


 アリスはルーチェが本当に快人の母親である可能性に気付いていた。というより、現在の状況から考えてそれなりに確率は高いと踏んでいる。

 しかし、だとすれば、快人に正体を明かさない理由が分からなかった。アリスにとって重要なのは快人に害が及ぶか否かであり、快人の母親の命に関してはまったく興味がない。


 アリスは大きななにかが動きだしているかのような、そんな不安を胸に抱きつつ……ギュッと、快人の手を握った。

 決して、その温もりを消させはしないと心に誓いながら……。





???「いや~流石アリスちゃん、いい女ですよ。内助の功ってやつですかね? スッとカイトさんにフォローを入れ、後詰の警戒も怠らない。その上、家事もパーフェクトですし、目もくらむような超絶美少女……いや~こんなパーフェクトな恋人を手に入れて、カイトさんは本当に幸せですね! アリスちゃんはメインヒロイン級! 間違いないですね!!」

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― 新着の感想 ―
親族を知らないうちに殺す女は別にいい女ではないだろ
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