早く目覚めてリリアさん!
美味しい食事の時間はあっという間に終わり、最後の一品を食べ終えたタイミングでルナさんが口を開いた。
「食後に料理長が挨拶に来るそうですが、ミヤマ様……対応をよろしくお願いします」
「え? い、いや、出来れば助けてくれると……」
「残念ながら、最もそういったことに慣れているであろうお嬢様が……『この様』ですし……」
「……きゅ~」
そう、実はリリアさんはまだ気絶から帰ってきていなかった。いや、今回は本当に過去最長ではないだろうか?
なのでリリアさんは食事を途中までしか食べれていないのだが、そこはルナさんが相談してマジックボックスでの持ち帰りを可能にしてもらったらしい。
「まぁ、快人先輩のことはさておき、こういうときマジックボックスって便利ですよね」
「快人さんのことはどうでもいいですが、こんな高級店でよく持ち帰りなんて許可してくれましたね?」
「その辺りは、ミヤマ様の名前を出せば一発でした」
「……こら、俺の知らないところでなにやってるんですか貴女……」
後輩二人の俺をまったく心配していない発言……こ、これは信頼の証かな? 信頼だよね?
「ああ、安心してください。その際にしっかり、ミヤマ様が料理の感想を代表して伝えるということに『しておきましたので』……」
「……」
ルナさん、俺にいったいなんの恨みがあるんだ? すごい人達と知り合いとはいっても、俺自体はごくごく普通の庶民なんだけど……。
というか、俺、中華料理で一番好きなのチャーハンなんだけど……。
と、そんなことを考えていると、思わぬ場所からルナさんへの攻撃が飛んできた。
「あらあら、ルーちゃんはミヤマさんのことが『大好き』なんですね~」
「お、お母さん!? いきなりなにを言い出すんですか!? というか、いまの発言のどこに……」
「え? だって、ルーちゃんは昔から『好きな人にはつい悪戯しちゃう』でしょ? 構って欲しいんですよね?」
「うわあぁぁぁ!? わ、わけの分からないこと言わないでください!! 違います! 絶対に違いますからね!!」
ルナさんにとって最大の弱点というか、ある意味最大の天敵でもある母親……ノアさんの発言により、ルナさんは大慌てで首を振って否定する。
まぁ、ルナマリアさんの本心についてはいろいろ興味深いが……その前にひとつ、いつの間にノアさん、俺の隣に席持って移動してきたの!?
「……ノアさん、なんで俺の隣に?」
「だめ、ですか?」
「い、いえ!?」
やめて、やめて……その大人の妖艶な色気で上目使いやめて……。
ワインを飲んだ影響か微かに染まっている頬に、大胆に肩口の開いたドレス……小柄な体形とはいえ、流石は未亡人というべきか、クラクラしそうな色気だ。
というか、待って!? なんで俺の腕に手を回してもたれかかってきてるの!?
「お、お母さん!? なにしてるんですか!!」
「少し、お酒に酔ってしまいまして……」
「なんで飲んだんですか!? お母さん、お酒にものすごく弱いじゃないですか!!」
「あぁ、もしかしたら……お酒ではなくミヤマさんに酔ってしまったのかもしれません」
「ちょっと……話聞いてください。お母さん」
そう言って俺の腕を緩く抱きしめながら頬を腕にくっつけてくるノアさん。やめて、俺……というか、世の中の健全な男性は、そういうのに弱いから……。
「ミヤマさん、今宵はとても楽しかったですね」
「え? え、ええ、そ、そうですね」
「ですが、楽しければ楽しいほど、それが終わると寂しさを感じるものです。今夜はきっと、寂しさに震える夜になってしまうでしょうね」
「そ、そうかもしれませんね……」
「はぁ、そんな夜に、貴方のように素敵な男性に温めてもらえると……きっと、女としてはこれ以上ないほどの幸せなのでしょうね」
「なぁっ!?」
どうもノアさんは完全に酔っているらしく、トロンとした目で俺を見詰めながら軽く息を吐く。吐息一つとっても滅茶苦茶色っぽい、こ、これが、大人の女性……。
というか、発言がいろいろ危ないんだけど!? その腕を撫でるような手の動き、マジでやめてください!?
俺がその色気にドキドキしていると、ノアさんはまるでそれが分かっているかのように俺の耳に口を近づけ、熱のこもった口調で告げる。
「……どうですか? もし、よろしければ……この後『ふたりきりで』飲み直しませんか?」
「ッ!?」
「お母さん!! 駄目です! 絶対に許しませんからね!! ほら、ミヤマ様から離れてください!」
耳元で語られゾクゾクと、未体験の感覚に晒されていると、そこでルナさんがノアさんを引き離そうと近付いてきた。
「ルーちゃん? ああ、そうですか……ルーちゃんも一緒が良いのね?」
「な、なな、なにを言ってるんですか、この酔っぱらい!! ほら、もう宿に戻りますよ!!」
「恥ずかしがらなくても大丈夫よ? ルーちゃんは初めてでしょうから、お母さんがちゃんと教えてあげますからね」
「あぁ、もうっ!?」
俺の腕に抱きついて離れようとしないノアさんに、それを引き剥がすため、俺とノアさんの間に体をねじ込もうとしているルナさん。
さっきから右腕に頻繁に幸せな感触が……ちょっと、誰か助けて……。
「さて、お二人は快人さんに任せて、私達は雑談しながらリリアさんが目覚めるのを待ちましょう」
「賛成です」
「……いやはや、ミヤマくんは凄いね」
「レイもミヤマくんを見習って、もう一人か二人ぐらい奥さんを見つけたら?」
「ううむ、まぁ、それはおいおいだね」
葵ちゃん、陽菜ちゃん、レイさんに、フィアさん……い、いや、まだ、ジークさんやアニマが……。
「おや? そういえばジークは?」
「ああ、リリアちゃんの代わりに会計に行くって……アニマちゃんも、なにか用事があるからってイータちゃんと、シータちゃんを連れて席を外したわ」
味方は……居なかった。
拝啓、母さん、父さん――酔うと性質の悪い人というのはどこにでもいるもので、ノアさんもある意味で非常に厄介な酔い方をしていた。大人の色気を全開に迫ってくる姿は、さすが未亡人の一言…… お願いだから、この状況を打破できる救援を……というか――早く目覚めてリリアさん!
シリアス先輩Act3(持続ダメージ中)「酔った未亡人とか、その響き自体が凄いよね……うん、知ってる、知ってる。次回からシリアスなんでしょ? 次回からシリアスだから、次は絶対シリアスだけら、この程度、も、もも、問題ないから……」




