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閑話・六王祭~とある魔族の受難~



 六王祭には多くの出店がある。祭りで定番の屋台から、本格的な飲食店までさまざま。

 大半の店は六王配下が行っているが、事前に申請すれば招待客でも店を出すことが出来る。


 高位魔族エリーゼも、六王配下ではなく申請して店を出したひとりだった。

 魔力の大きさから高位魔族に認定されてはいるが、爵位級ではない。そして彼女に戦闘力は皆無であり、六王ともほとんど関わりはなかった。

 ただ、エリーゼには占いと魔法具作りの才があり、小さな店を経営しながら細々と暮らしていた。


 セーディッチ魔法具商会とも細いながらパイプがあり、そのツテで六王祭に招待された。せっかくの機会なので、得意な占いの出店を行おうと申請して、いまに至る。

 本音を言えば、この機会に伯爵級などの高位魔族と知り合うことが出来ればいいな~と、小さな下心もあるにはあった。


 小心者で大きな野心を抱くことはないが、そこそこに欲もある。そんなごく普通といっていい存在。そんな彼女は、いま……過去最大の危機に直面していた。


「……相性占い……して欲しい」

「ひゃい!?」


 母親そっくりの女性を見かけた衝撃から立ち直り、改めて祭りを回っていた快人とアイシス。そのふたりが、たまたま見かけたエリーゼの店に興味を持ち立ち寄った。言葉にすれはたったそれだけである。


(し、死王様!? う、嘘、ほ、本物……いやこれ絶対本物です!? さっきから体の震えが収まらないよぉ……こ、怖い……)


 彼女のような普通の魔族にとって、アイシスはまさに恐怖の象徴とすら言える存在であり、目の前に居ると言うだけで大量の冷や汗が流れてきていた。

 そして不幸なことに、なまじ大きな魔力を持つが故に気を失うことも出来ない。


(な、なな、なんで、死王様が私の店に……い、一緒に居る男性は……ま、まさかあの『噂の人間』なのですか!? 死王様の寵愛を受けている人間……あばばばば……)


 本人に自覚はないが、快人は魔界においてそれなりに有名である。魔界の頂点である六王と交流を持ち、人界唯一のブラックランクの招待状を持つ。エリーゼにとっては、雲の上の存在と言っていい。

 もっとも快人は『提示すれば』全ての施設が無料になるブラックランクの招待状を、あまり使う気はないみたいで、出店では普通にお金を支払って購入しており、今回も特に提示したりする気はなかった。


 それは、無料というのは申し訳ない気持ちが半分、ブラックランクの招待状を提示することで目立つのが嫌だという気持ちが半分だった。

 もっとも、アイシスと一緒に居る時点ですでに目立ちまくっているのだが、そのことに気付かない辺り、やはりどこか抜けているところがあるみたいだった。


(う、噂では『冥王様が負けた』とか『100匹以上のブラックベーア―を一瞬で始末した』とか、『戦王様の配下を圧倒した』とか『戦王様との真剣勝負に勝利した』とか『幻王様を殴り倒して配下にした』とかって……あの噂の!?)


 本人が聞けば頭を抱えそうな内容ではあるが、一般魔族にとっての快人の印象は大体こんな感じだった。


(あ、相性占い? この二方の? ……わ、悪い結果を出したら……こ、殺されるです!?)


 勿論そんなことはない。しかし、天上の存在と言っていい快人とアイシスを目にして、エリーゼは完全に冷静さを失っていた。


「……どんな……占い……なのかな?」

(ッ!? 死王様……私の占いを知らない? な、なら、なんとかなるかもしれません!? ど、どんな結果が出ても『最高の相性です』とか言っちゃえば……)

「えっと、ガイドブックによるとカードを使った占いみたいです。えっと、相性占いなので……女性、男性の順でカードを4枚引いて、絵柄と出た順番で占うらしいですよ。組み合わせも全部のってます」

(なに余計なこと言ってくれちゃってるんですか、人間さん!? ていうか、そのガイドブックはなんですか? 組み合わせまで全部バレてるんですか? わ、私も欲しいです……じゃなくて、どど、どうすれば!?)


 微かに見えた光明も、快人によって粉々にされたエリーゼは、震える手で占いに使うカードを取り出し、二つの山に分けて置く。

 一瞬イカサマでカードの絵柄を調整しようとも考えたが、このふたりを欺く自信はなく、エリーゼは通常通りに占うしかなくなってしまった。


「……で、では、し、死王様から……よ、4枚引いてください……」

(こうなったらもう祈るしかないですよ! 神様、創造神様、お願いします。いい結果が出てください)

「……分かった」


 エリーゼの相性占いは、ハート、剣、太陽、月、星、花、王冠の7種類のカードを4枚ずつ入れた、計28枚のカードで行われる。

 出た絵柄の組み合わせと、順番によって結果が変わる。


(お願いします。ハート引いてください! ハートが始まりなら、どれも大抵いい結果になるので……)

「……月……」

(うにゃあぁぁぁぁ!? つ、月!? 初手月は駄目です! それだと、かなりの確率で悪い結果に……)

「……星……剣……月……かな?」

(……終わった。死王様、それ最悪の組み合わせと順番です……女性側がそのパターンだと、男性が『ハート4枚』引く以外は、悪い結果にしかならないです。残り24枚から4連続ハートなんて無理です)


 アイシスが引いたカードは、占いの中で『最も良い結果』のパターンがひとつだけで、残りは全て悪い相性にしかならない組み合わせと順番だった。

 エリーゼは魂が抜けたような表情を浮かべ、ぼんやりと次に引く快人の方に視線を向ける。


「……カイトの……番」

(……私、ここで死ぬんですね。まだ、やりたいことも食べたいものもあったのに……そりゃ、ちょっとくらいは欲をかきましたよ。有名な方にコネが出来ればな~なんて……でも、なにもこんなことにならなくても……)

「あ、はい……え~と、ハートですね。次は……あれ? またハートです。3枚目もハート? ……4枚目も? 珍しいこともあるもんですね。全部ハートでした」

「マジですか!?」

「へっ!? あ、は、はい」


 放心していたエリーゼは、快人の引いたカードを見て一瞬で我に返り、喰い気味に詰め寄る。

 その豹変した様子に驚愕しつつ、快人が頷くと……エリーゼは肩を小さく震わせた後、ガッツポーズを取りながら叫んだ。


「最高! 最高の組み合わせです! ふたりの相性はこれ以上ないってレベルですよ! 運命の赤い糸とか、繋がりまくりです!!」

「そ、そうなんですか?」

「ええ、まさにベストカップルです!!」

「……カイトと……ベストカップル……嬉しい」


 大逆転と言える形で最高の結果が出たおかげで、アイシスは心から幸せそうな笑顔を浮かべ、快人の手を愛おしそうに握る。

 快人もそんなアイシスを見て、少し恥ずかしそうにしながらもギュッと手を握り返していて、ふたりの間には恋人特有の甘い空気が流れ始める。


「……ありがとう……これ……お代」

「あ、はい……って、死王様!? これ、は、白金貨!?」

「……おつり……いらない」

「え? い、いや、えっと……はい」


 心底幸せそうな笑顔で白金貨をエリーゼに渡した後、快人とアイシスは仲睦まじく去っていった。

 それをぼんやりと見送った後で、エリーゼは大きな……本当に大きな溜息を吐いた。


「はぁぁぁ~……よ、よかった。殺されなくて……」


 なお、別に結果が悪くても殺されることなど無かった。あくまで彼女の勘違いである。

 安堵しているエリーゼはまだ知らなかった。この後、アイシスから話を聞き、冥王や幻王が快人と一緒に店にやってくることを……。





~おまけ・噂の元凶達~


『冥王様が負けた』

冥王「惚れたら負けって言うんだって? じゃあ、ボクはカイトくんに思いっきり負けちゃってるんだね!」


『100匹以上のブラックベーア―を一瞬で始末した』

死王「……この本……カイトにもっと……活躍して欲しい……」

本屋「御心のままに!!」


『戦王様の配下を圧倒した』

ケモミミ「よいか、ご主人様が本気を出せば貴様らなどチリすら残らん! 自分が乱入したことで救われたのは、自分達だと理解しておけ!」

双子メイド「「はい! 従士長!!」」


『戦王様との真剣勝負に勝利した』

近所のゴリラ「カイトに負けちまった。やっぱりアイツはすげぇな!!」


『幻王様を殴り倒して配下にした』

ド変態「……羨ましいです。私もカイト様に痛めつけていただきたいです」

馬鹿「いや、別に私はカイトさんに殴られたいわけじゃ……」

ド変態「でも、気持ちいいんですよね」

馬鹿「そりゃもちろ……なに言わせるんすか!?」



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― 新着の感想 ―
[一言] え?気持ちいいの?(。=`ω´=)
[一言] やっぱりアリスはドMじゃないかな
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