瓜二つだった
どこにでも現れるアリスに呆れつつも、引き続きアイシスさんと祭りを見て回る。
リングターゲットと言う名の輪投げをしたり、古本を売っている店を見たりと、のんびりとデートを楽しんでいく。
「へぇ……服なんてのも売ってるんですね。これは、中古品ってことでしょうか?」
「……ううん……たぶん……新品……この通りは……新人デザイナーが……多く集まってる」
「なるほど、だから見たこと無いデザインの服も多いんですね」
どうやらこの通りには、名を上げようとする新人デザイナーが集まっているらしい。確かに、六王祭に招待されている客は、皆六王から一定以上の評価を得ている人……高い地位や財力を持っている人も多い。
コネ作りという面を考えても有効だし、そういう財力や地位のある人の中には珍しいものを好む人も多いだろう。となると、この通りは新人デザイナーにとっては有益な場と言うわけだ。
そして必然的に作る商品にも力が入っていて、特に一点もので豪華な礼服やドレスが多いように見える。
「そういえば、アイシスさんってお洒落ですよね?」
「……そう?」
アイシスさんはフリルの多いゴシック風の服を好んで着ているが、かなりの種類を持っている気がする。
一番よく見に付けているのは、水色や青系統のドレスだが、それ以外にもいくつかの色のゴシック風ドレスを見た覚えがある。
しかも、ただ色が違うだけではなくデザインもそれぞれ違っていたし、結構服装には拘っているイメージだ。
「ええ、いろいろ可愛らしい服を着てますし……どこか、行きつけの服屋とかがあるんですか?」
「……ううん……買ってない……私の服は……クロムエイナの服と一緒……『魔力で作ってる』」
「……クロの服と一緒? それって、あの自在に形を変えるロングコートですか?」
「……うん……魔力の物質化……自由に色や形を……変えられるから……便利」
なるほど、クロの翼になったり畳になったりする面白ロングコートと同じで、魔力を物質化して服にしているのか……。
たしかにそれなら術者の意思一つでいくらでも形を変えれるし、魔力の塊と言うことは防御力や動きやすさという面でも優秀そうだ。
俺も出来たら便利なんだろうけど、以前クロに聞いた話だと魔力の物質化はかなり難しい魔法らしい。うん、まぁ、俺は大人しくアリスから買うことにしよう。
「……こんな……感じ」
「お、おぉ!?」
アイシスさんがそう言いながら、着ている服の色を青から白に変えたり、フリルを増やしたりと実践して見せてくれた。
う~ん。アイシスさん……白色も似合うな……。白いフリフリのドレスを着た姿は、紛うこと無き天使である。
「……カイト……私には……どんな色の服が……似合うかな?」
「う~ん。俺個人がよく着る服は黒色ですが……アイシスさんには、淡い白っぽい水色とか、淡い感じの色合いが似合うと思いますね」
なんとなくではあるが、雪みたいなイメージの服が似合いそうな気がする。淡い水色のドレスを着ると、まさに雪の妖精って感じですごく可愛らしい。
「……こんな色?」
「ええ、よく似合ってて……えっと、すごく可愛いです」
「……ありがとう……カイトにそう言ってもらえると……すごく……嬉しい」
惜しみない賞賛の言葉を送ると、アイシスさんははにかむような笑顔を浮かべてくれる。
その純粋で可愛らしい笑顔を見て、急に恥ずかしくなった俺は、少し慌てながら視線を泳がせた。
「……あっ、アイシスさん。あそこにアイスクリームの屋台がありますよ! せっかくですし、少し休憩しながら食べませんか?」
「……うん」
「じゃ、じゃあ、俺が買ってきます。アイシスさんは、なに味がいいですか?」
「……じゃあ……チョコレート」
「了解です。少し待っててくださいね!」
やや強引に話を切り替え、少し離れたところにあったアイスクリームの屋台に向かう。
辿り着いた屋台の品揃えはそれなりに優秀な感じで、アイシスさんが希望したチョコレート味もちゃんとあった。
俺個人としては、アイスクリームの№1は抹茶だと思っているが……残念ながら、抹茶は売ってないみたいだったので、ストロベリーのアイスクリームを買うことにした。
しかし注文を伝え、いざ会計というタイミングで……俺はある重大な事実に気が付いた。
しまった、ここに来るまでいろいろ見て回った時に、銀貨以下の硬貨を綺麗に使いきってしまった。いまあるのは、金貨と白金貨のみである。
流石にひとつ1Rのアイスクリームをふたつ買うのに、金貨で支払うのは……もはや嫌がらせレベルだろう。
しかし、アイシスさんも白金貨以下の硬貨は持っていない。となると……仕方ない。くずしておかなかった俺が悪いわけだし、ここは金貨で払って釣りはいらないと言うことにしよう。
無駄遣いな気はするが……正直、一度言ってみたかったし……。
「はい、丁度ですね。ありがとうございます」
「……え? あれ?」
金貨で払おうと考えていた俺の思考を遮るように店主の声が聞こえてきた。その声に反応して顔を向けると……店主は首を傾げながら、俺にふたつのアイスクリームを差し出してきていた。
「……あ、あの、俺まだ払ってない……ですよね?」
「え? 『そちらのお連れさんからいただきました』よ?」
「……え? 連れって――なっ!?」
アイシスさんが1R硬貨を持っているとは思えなかったが、連れと言われて反射的に視線を横に動かし……そして俺の思考は完全に停止した。
動かした視線の先、俺の隣にはいつの間にか……薄い茶のセミロングヘアーの小柄な女性が立っており、その女性は俺を見てパチリとウインクをした後、なにも言わずに背を向けて去っていった。
その姿を見た瞬間から、俺は声をかけることが出来ないほどに動揺していた。頭は真っ白で、心臓が恐ろしいほど早く動き、全身から汗が噴き出すような感覚を味わいながらも……俺の体は石化でもしたかのように、少しも動いてくれない。
そんな、馬鹿な……ありえない……だって……え? いや、なんで……。
「……母……さん?」
ようやく口から声が出た時には、もう……その女性の姿は人ごみに消えてしまっていた。
拝啓、母さん、父さん――他人の空似だと言うことは、分かっている。世界には似た人が三人は居るって聞いたこともある。だけど、それでも、動揺を抑え切れないほどに……先ほど見た女性は、母さんに――瓜二つだった。
シリアス先輩MK-Ⅱ「ガタッ!?」




