甘かった気がする
マグナウェルさんの頭の上という絶景スポットで、アイシスさんが作ってくれた美味しい弁当を食べ終える。
いやはや、見た目には結構量があると思ったけど……美味しくて全部食べてしまった。ちょっと食べすぎた気もする。
「……カイト……はい……お茶」
「ありがとうございます。って、緑茶? あれ? アイシスさんって紅茶党じゃなかったですっけ?」
「……うん……でも……カイトが好きだって聞いたから……異世界のお茶も……勉強した」
「……アイシスさん」
アイシスさんが天使すぎて、眩しいぐらいだ。
淹れてくれた緑茶は、食後の体にじんわりと染み込んでくるようで、本当に美味しい。
お茶を飲みながらホッと一息ついていると、足元からマグナウェルさんの声が聞こえてきた。
『カイトよ、どうじゃ? 祭りは楽しんでおるか?』
「え? ええ、いろいろ驚くこともありますけど、なんだかんだしっかり楽しんでますよ」
『そうか、よいことじゃ……ふむ、そうじゃな『駄賃』をやろう』
「……はい? え? ちょっ!?」
マグナウェルさんがそう告げた瞬間、俺の目の前にざっと見て『100枚ほどの白金貨』が出現する。
『祭りを楽しむのにも先立つものが必要じゃろうて。なに、遠慮せんでよい。ワシは硬貨なんぞ使えんから、処分に困っておったぐらいじゃ』
「……あ、えと……はい……ありがとう……ございます」
『うむ。ああ、それに配下共が美味いと言っていた菓子があったのぅ……ワシのサイズでは味なぞ分からんし、それもやろう』
「あ、ありがとうございます……も、もう大丈夫ですよ?」
……なんというか、マグナウェルさんの『孫と久々に会ったおじいちゃん』って感じがすごい。
しかし、このまま放っておけば、次々なにかをくれそうだったので、やや強引にお礼を言ってもう大丈夫だと伝える。
う~ん。本当にマグナウェルさんには会うたびいろいろ貰っている。というか、完全に孫扱いである。
そのまま少しマグナウェルさんと雑談を交わし、話が一段落すると、アイシスさんが期待するような目でこちらを見つめてきた。
「……カイト……約束」
「うっ……い、いまですか?」
「……うん……ここなら……他に誰も……いないよ?」
「わ、分かりました」
アイシスさんが口にした約束とは……先程オークションでペットハウスを譲ってもらった際に、アイシスさんが口にしたお願いだ。
嬉しそうな笑顔でこちらを見るアイシスさんに押される形で、俺はシートの上でゆっくりと体を倒した。
「し、失礼します」
「……うん」
一言断りを入れてから頭を降ろすと、肌触りのいい布の感触と、柔らかな感触が伝わってきた。
そう、アイシスさんのお願いは『膝枕をしたい』という内容だった。果してこれは、お礼と言っていいのだろうか? お礼というよりご褒美な気もするが、アイシスさんは非常に満足そうだ。
ハーフパンツスタイルのクロと、ゴシック風ドレスのアイシスさんでは、膝枕の感触も違う気がする。
上質な生地を使用しているであろうドレスの肌触りは素晴らしく、高級な枕に寝転がっているような感じがする。
そして、体温の低いアイシスさんの手が、そっと俺の飛来に置かれ、そのひんやりとした感触を心地良く感じた。
「……でも、なんで膝枕を?」
「……クロムエイナが……よくしてるって……言ってたから……私も……してみたかった」
「な、なるほど……」
いらん情報が拡散されてる気がする。確かに、クロには……その、しょっちゅう膝枕してもらっている。というか、最近二人きりの時は……結構甘えてる気がする。
どうしよう滅茶苦茶恥ずかしい……い、いや、アレだ。俺もちょっとくらいは、男として見た目が幼い少女であるクロに甘えるのは情けないかな~とか思ったこともある。
でも、ほら、クロは俺よりずっと年上なわけだから、年下である俺が甘えるのはおかしくないわけで……そ、それに、俺だけが一方的に甘えているわけではなく、クロの方も最近はよく甘えてくるので対等なはずだ。
そもそも、クロの優しい抱擁力が強力すぎるだけであって……いや、まて、俺はいったい誰に言い訳をしてるんだ?
「……カイト?」
「あ、いえ、なんでもありません!? そ、それで、実際にしてみてどうでした?」
「……うん……これ……いいね……カイトの顔……よく見えて……幸せ」
「……」
こっちから話を振っておいてアレですけど、アイシスさん……その笑顔は反則です。そんな蕩けるような笑顔を浮かべられたら、かなりドキドキしてしまう。
熱くなっていく顔を逸らしたいのだが、アイシスさんの手が額に置かれていて、それを振り払うのは気が引ける。
そうなると、満面の笑顔を向けてくるアイシスさんと見つめ合うしかなくなるわけで……やっぱ、これ、すごく緊張する。
「……ねぇ……カイト?」
「え? あ、はい。なんですか?」
「……キス……していい?」
「はっ!? え? い、いや、それは……」
「……駄目?」
「い、いえ、駄目ではないです」
「……カイト……だ~い好き」
俺の了承の言葉を聞いたアイシスさんは、先程まで以上の笑顔を浮かべならが顔を近づけてきて……そして、唇が重なった。
『ほっほ、仲の良いことじゃ』
拝啓、母さん、父さん――膝枕という行為は、混浴とかとはまた違った気恥ずかしさがあるように思う。なんというか、相手に身を預けているような……うん、えっと……アイシスさんの唇は、いつも以上に――甘かった気がする。
シリアス先輩(状態異常:錯乱)「……甘さなんてのはしょせん脳内の電気信号でしかない。つまり、脳の電気信号をコントロールする事が出来れば、甘い展開でもシリアスな展開と同じように感じる事が出来るはずだ。それが可能か否かは問題ではあるが、生物は進化していく。太古に生きた生物たちは、現在のような姿に進化するなんて考えていなかったはずだ。つまり進化とは想像を超えるもの、私もできる……過程を経て結果に至るのか、結果があるから過程が生まれるのか、鶏が先か卵が先か……つまり、そう、いまはもう『シリアス』なんだ! そう、そうだ……シリアスなんだ……私が……私自身がシリアスに……シリアスがシリアスで……シリアスする時、シリアスは……あばばば」




