リリアさん早くきて!?
ある程度出店を見て回った後、アイシスさんと一緒にこの三日目のメイン……オークションが行われている中央広場にやってきた。
中央広場にはとても多くの人が居たので、アイシスさんの死の魔力を考慮して少し離れた場所からオークションを見学する。
この広場に入る際に数字の書かれたプレートを胸に付けてもらった。おそらくこれがオークションでの番号になるのだろう。
ちなみに俺は985番、アイシスさんが986番だ。まぁ、いまのところオークションでなにかを買う気はないが。もしかしたら欲しいものがあるかもしれない。
それにしても……やはりメインと言うだけあってすごい賑わいで、沢山の参加者が競い合うように手を上げている。そして中央に設置されたステージの上では、マイクを持った司会者が次々と価格をコールしていた。
「……参加者は価格を叫んでないみたいですけど、どうやって司会者は判断してるんでしょう?」
「……このオークションは……手でサインを出す……司会者は……高度な複眼を持ってるから……全ての参加者を同時に見てる」
「……なるほど」
こういったオークションを見るのは初めてなので、なんだか色々新鮮だ。
サムズアップみたいな形で手を上げている人もいるし、アレがハンドシグナルなのかな?
「ちなみに、この手の形は?」
「……あっ」
『おっと! ここでさらに倍額!! 『985番! 白金貨一枚』です!』
「……え?」
ハンドシグナルの意味をアイシスさんに聞こうとすると、アイシスさんが驚いたような表情を浮かべ、直後に司会によって俺の番号がコールされる。
し、しまった!? そうか、これだけ離れていてもあの司会には見えるのか……つまり、俺は入札してしまったわけだ。
「……えっと……」
「……コールされた……もう……取り消せない」
「う、う~ん……しかしまぁ、これで落札が決まったわけじゃ……」
『白金貨一枚! 白金貨一枚以上ないか? ……無いようですね。では、この商品は985番の青年が落札です!!』
「……」
好奇心のままに迂闊なことをしてはいけない……いい勉強になった。授業料はかなり高額だったが、まぁ、仕方ない。迂闊だった俺が悪いんだし、ここは素直に買い取ることにしよう。
「……って、そもそも、俺はなにを落札したんですか?」
「……えっと……」
そういえば競売の商品を知らなかったと思いアイシスさんに尋ねてみると、アイシスさんはどこからともなく巨大な本を取り出した。
「それは?」
「……オークションの……カタログ……えっと……いまカタログナンバー15だから……ひとつ前のは……あった」
「えっと、なになに……『初代勇者の残した手記、二十三ページ分、未解読』……」
……あっ、これ見たら駄目なやつだ。絶対ノインさんの黒歴史的なアレだと思う。うん、後で受け取ったら、すみやかにノインさんに差し上げることにしよう。
それにしても、俺が倍で落札して白金貨一枚ということは……金貨五枚、五百万円出しても買いたい人がいたってことか……流石初代勇者。
そんなことを考えているうちにナンバー15の商品も落札が決まったらしく、オークションは次に進む。
『さて、次の商品は……冥王様提供の品です!』
おや? 次はクロが提供したものなのか……いったいなんだろう?
『カタログナンバー16! 『冥王様の手作りベビーカステラ』です!』
なんでこんな高級オークションで、ベビーカステラなんてものが競売に……クロ、なにやってんのさ……。
『なんでもこのベビーカステラは、冥王様が『とある方』に贈るためにベビーカステラを作り……『出来がイマイチ』だったものを集めたセットです!』
要するに失敗作の寄せ集めじゃないのソレ!? というか、そのとある方って……。
「……たぶん……カイト……クロムエイナは……カイトに食べさせるために……いっぱい作ってた」
「……そ、そうですか……」
なんだろう、このいたたまれない気持ちは? なんか俺のせいで、この場に相応しくない品が出品された感じに……。
『では『金貨一枚』からスタートです!』
無謀にもほどが……って、なんか滅茶苦茶手が上がってる!?
『234番、金貨五枚! 57番、金貨八枚! おっと、622番、白金貨二枚です!!』
「え、えぇぇぇ……なんでそんな値が?」
「……クロムエイナは……すごく人気あるし……冥王愛好会のメンバーは……全財産出しても欲しいと……思う」
「……」
それだけ人気があるクロが凄いと思うべきか、ベビーカステラに何千万も払おうとする方々を哀れむべきか……。
あまりにも微妙な状況に茫然としていると、ふとこちらに向かって走ってくる人が見えた。
「ミヤマ様!?」
「……ルナマリアさん?」
「お願いします! お金を貸してください! なんとしても落札したいんです!!」
「正気ですか貴女!?」
現れた狂信者さんは、ちゃっかり三メートルの距離を保ったまま、俺に向かって必死の形相で叫ぶ。
「もちろんです! このルナマリア、冥王様の手料理を食べるためなら、命など惜しくはありません!!」
「そこは惜しんでください!?」
「お願いします! お嬢様に借りようとしたら『馬鹿な真似はやめなさい』と貸してもらえませんでした! もうミヤマ様しか頼る方が居ないんです!!」
「……」
それ完全にリリアさんが正しい。いや、別にお金を貸すのが嫌なわけではないけど……仮にも友人として、このルナマリアさんの奇行は止めるべきだろう。
「……ちょっと、落ち着きましょう。ルナマリアさん」
「無理です! こんなチャンス、もう二度とないかもしれないんですよ!!」
「……俺からクロに頼んであげますから……」
「流石はカイト様! 女心を掴んで離さない素敵な気遣い! まさしく世界一素敵な男性です! このルナマリア、いまならカイト様に抱かれるのもやぶさかではありません!!」
「リリアさ~ん!! この暴走メイド、早く回収に来てくださぁぁぁい!」
ルナマリアさんを落ち着かせるために提案したのに。さらに思考がぶっ飛ぶことになるとは……。とりあえず、早く保護者に回収してもらわないと……。
キラキラと惚けるような目でこちらを見てくるルナマリアさんに、若干……いやかなり引きつつ、リリアさんの到着を待っていると……隣から感心したような声が聞こえてきた。
「……よく……分かってる……カイトは……世界一……カッコいい」
「……アイシスさん」
うんうんと言った感じで頷いているアイシスさんを見て、俺は大きなため息を吐いた。
拝啓、母さん、父さん――オークションに来てみたんだけど、なにやら初めからトラブルが連発している。落札しちゃったこともそうだけど……なにより、完全にスイッチが入ったルナマリアさんが怖い。いや、本当に、お願いだから――リリアさん早くきて!?
~おまけ~
駄メイド「それはそうとお嬢様、なぜそんなにたくさんお金を用意しているのですか?」
胃痛「念のため……です」
駄メイド「……そういえば、『竜王様のミニチュア模型』が出品されるとか……」
胃痛「白金貨100枚までなら出せます!」
駄メイド「……先ほどお嬢様に言われた言葉を、そっくりそのままお返しいたします」
胃痛「……え?」




