混浴の呪いにでもかかってるんじゃないだろうか?
激動の一日目が終わり、二日目はリリウッドさん主催の祭り。リリウッドさんは自然との触れ合いをテーマにした祭りを企画しているらしく、一日目とは違って戦いになることは無さそうだ。
俺はなんだかんだで、森林浴とかも好きだし、結構楽しみだ。というわけで、六王祭の二日目が……。
「今日はボクがカイトくんの背中を流す!」
「……私が……流す」
「う、う~ん。私としてはトラウマがあるので、水着着てもいいなら……」
『……あの、落ち着いてください』
始まって欲しいんだけど!? 小説みたいに気が付いたら次の日とかになってくれないかな!?
いまはちょっとほろ酔い状態だし、理性が緩くなってないか心配なんだけど!? あとなんでいるの『リリウッドさん』!?
『い、いえ、それが私もさっぱり……アインに突然連れて来られまして……』
「アインさんが?」
現在俺の目の前では、クロ、アイシスさん、アリスの三人が、誰が俺の背中を流すかという恐ろしい議題で盛り上がっている。まぁ、それはいいとして……いや、良くはないが……それ以上に、なぜこの場にリリウッドさんが居るんだろうか? 少なくとも昨日はいなかったはずだ。
その原因らしいアインさんの方に視線を向けると、なぜかアインさんは一度頷いてからクロ達の方へ近付く。
「クロム様、差し出がましいようですが、私から提案があります」
「うん? 提案?」
「はい。カイト様のお体は一つです。無論、お三方で同時に洗うという手もありますが……私は、ローテーションを決めることを提案します」
「ローテーション?」
おっと、なんかおかしなこと言い始めたぞ? 少なくとも、この言葉が決して俺への援護ではないということだけは分かる。むしろさらにまずい状況になりそうな気が……。
首を傾げて聞き返すクロに対し、アインさんは一度頭を下げてから言葉を続ける。
「はい。今回の六王祭では、それぞれ自分が担当する日に、カイト様と巡られるというお話ですので……『明日カイト様と一緒に回る者が、カイト様と二人きりで入浴してカイト様を独占する』というのはいかがでしょうか?」
「「「ッ!?」」」
アインさんが告げたとんでもない台詞を聞き、クロ達は「その手があったか」みたいな顔で固まっているが……ど、どうなんだこれは? 全員で入るよりはマシなのか? それとも、一点集中なので破壊力はむしろ上がるのか? ど、どうなんだろう?
アインさんの突然の提案に唖然とする俺だが、同じような表情を浮かべている方がもう一人居た。
『……気のせいでしょうか? 私がここに連れて来られていることを考えると……いまのアインの発言には、当り前のように『私も含まれていた』気がするのですが?』
「奇遇ですね。俺もそんな風に聞こえました」
リリウッドさんと顔を見合わせつつ、言葉を交わす。しかし、そんな俺達の混乱には気付かず、クロ達は真剣な表情で考え始める。
「カイトくんと二人っきりの時間が増える!」
「……た、確かにそれなら、私も恥ずかしさが少しはマシになりますし、わりと賛成っすね」
「……アイン……天才」
……なんか可決しそうな感じだぞ? ど、どうする? 止めるべきか? リリウッドさんのことも考えると、ここで止めに入るべきだが……まだリリウッドさんが含まれているかは……。
「じゃあ、今日はリリウッドだね!」
「……うん」
「そうっすね」
含まれてた!? いやいや、駄目だろそれは!? まだクロ達は本人が希望してるからいいとしても、リリウッドさんは嫌がるだろうし……。
「ちょっと、皆、それは……」
『待ってください。それは承服できかねます』
俺が苦言を口にしようとすると、それを遮ってリリウッドさんが言葉を発した。うん、やっぱりリリウッドさんも嫌だろうし、ここはリリウッドさんからそれをビシッと……。
『それだと『私は構いませんが』、カイトさんが嫌がるのではありませんか? カイトさんの了承も得ずに、承服することはできません』
え? あれ? なんか予想と違う言葉が聞こえてきたぞ? なんか、俺と一緒に風呂に入るのは構わないとか聞こえたんだけど?
なんだ聞き間違いか……そうだ、そうに決まってる。あの控えめなリリウッドさんが、そんなことを言うはずが……。
「なるほど、カイトくんはどう? リリウッドと一緒にお風呂入るのは嫌?」
「……うん? いや、別に嫌とかじゃないけどリリウッドさんが……」
「じゃあ問題無いね!」
「……え?」
『そうですね。カイトさんが構わないのでしたら、是非』
「……あれ?」
お、おかしいな? なんかまだ耳がおかしいぞ? なんかリリウッドさんが「是非」とか言ってたんだけど……。
「り、リリウッドさん!? い、いいんですか!? 一緒に入浴するんですよ!」
『はい。私のような『木』と入浴して、カイトさんが楽しいとも思えませんが……』
「……は、え?」
木? あれ? もしかして、リリウッドさんって……自分は木の精霊で、生物というよりは木だから、そういうの気にしないとかそういう感じなのか?
や、やばい!? リリウッドさんが自分を木だと思っていても、俺にとってリリウッドさんは美女という認識、なんとか軌道修正を……。
『ですが、カイトさんが嫌でなくて、良かったです。私もカイトさんとは親睦を深めたいと思っていましたが、なかなか時間もとれませんでしたし……こうした機会が持てるのは、本当に嬉しいです』
「あっ、そ、そうですか……」
『はい。ありがとうございます』
「……」
そ、そんな心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべられると、いまさらやっぱり止めますとか言えないんですが……。
ぐっ、こんなに喜んでるリリウッドさんを落胆させるわけにはいかない。となると、俺が頑張って耐えるだけだが……まぁ、大丈夫かな? リリウッドさんはしっかりした大人の女性だし、お淑やかだから変な行動をとってくることはないだろう。
うん、そう考えるとクロ達と入浴するより、理性は保ちやすい気がする。
そこまで考え、俺はリリウッドさんと一緒に入浴することを了承した。
この見通しの甘さが、恐るべき苦行となって襲いかかって来るとは……この時はまだ知らないままで……。
拝啓、母さん、父さん――なんというか、予想外の流れでリリウッドさんと入浴することになった。まぁ、リリウッドさんなら大丈夫だとは思うが……やっぱり、俺って――混浴の呪いにでもかかってるんじゃないだろうか?
活動報告にて「書籍版の購入特典SS」に関しての情報を公開しました。
シリアス先輩「かはっ!? ま、まさか……快人大好き三人娘とのイベントに備えていたら、ここで巨砲(胸)の登場だと……お、大きさの違いが戦力の決定的な差では……」




