水面下で戦いが繰り広げられていたらしい
それは、まさに世紀末と言っていい光景だった。
轟音と共に大地は割れ、大気は渦巻き、人々は逃げ惑う……戦争の話かって? いいえ、『じゃんけん大会』の話です。
いま、俺の目の前にはクレーターだらけになり、あちこちが崩壊寸前になりつつも、なんとか原形を保っている闘技場があった。
信じられるか? じゃんけんしてただけなんだぜ? しかも発端は、俺の作った酷い出来の粘土細工……。
もはや完全に超次元スポーツと化したじゃんけんという名の戦いに、俺のような一般人が介入できるわけもなく……俺はただ、厄介な方の手に黒歴史が渡らないよう、神に祈るばかりだった。
が、そんな俺の期待は、祈った神によって嘲笑われた。
『いま、激しい戦いを制したのは……『創造神シャローヴァナル様』!! やはり創造神様は強かった!!』
この上なく厄介な方が手にしちゃったよ!? ド天然のシロさんに渡るとか、ほぼ最悪のパターンだ。一番最悪なのはエデンさんの手に渡ることだったが、二番目に酷い状況と言える。
『流石シャローヴァナル様だね。シャローヴァナル様が手にするなら、私としても文句のつけようがないよ』
『う~ん。決勝を戦ったクロさんも惜しかったですね』
『冥王は、組み合わせに恵まれなかったね。あの『謎の天使』との激戦の後だったから、消耗しちゃってたしね』
『いや~あの天使は何者なんでしょうね? 負けるなり、もう用はないと言わんばかりに姿を消しましたが……』
いまだ白々しい実況と解説を行っているアリスとフェイトさんだが、もう既に観客は全員逃げている。ここに残っているのは既知の方だけだ。
しかし、それにしても、争ってるものがものだけに複雑だけど……本当に凄まじい激戦だった。
いや、俺には攻防はまったく見えなかったんだけど、聞こえてくる炸裂音とえぐられる地面でなんとなく凄さは伝わってきた。
クロは準決勝で見事エデンさんを下したのだが、流石にかなり消耗していたみたいで決勝でシロさんに負けてしまった。
シロさんの方は準決勝の相手がフェイトさんだったので、フェイトさんは棄権して不戦勝だった。まぁ、本当にフェイトさんの言葉通り、クロは組み合わせに恵まれなかった。
「……えっと、ありがとうございます。リリウッドさん」
『いえ、カイトさんに怪我がなくて良かったです』
ちなみに俺やリリアさん達のことは、リリウッドさんが守ってくれたので被害はない。
ところで、シロさん? 俺の心の声、聞こえてますよね? その黒歴史をすみやかにこちらへ渡していただきたいのですが?
(条件があります)
……やっぱりそうですよね。そんな気はしてました。嫌な予感しかしないですが、言ってみてください。
(六王祭の七日目をどう過ごそうかと悩んでいます)
……えっと、それはつまり……。
(六王祭の七日目をどう過ごそうかと悩んでいます)
コレってアレだよね? つまり俺の方からそれを言えということだよね?
(六王祭の七日目をどう過ごそうかと悩んでいます)
し、シロさん……その、もし、シロさんさえ良ければなんですが……。
六王祭の七日目、俺を一緒に回って……。
(デート)
……俺とデートしていただけたら、嬉しいのですが?
(快人さんがどうしてもと頼むのであれば、一考するのもやぶさかではありません)
ど、どうしてもシロさんとデートしたいんです。お願いします。
(仕方がありませんね。そこまで言うのであれば、デートをしましょう)
……ものすごく負けた気分である。どうやらシロさんは、俺の方から誘うというシチュエーションに拘っているみたいで、白々しいまでの誘導……恐ろしい方だ。
(デートが楽しいものになると、私もついこの粘土細工を快人さんにプレゼントしてしまうかもしれません)
……が、頑張ります。
というか、一つだけ聞きたいんですが、なんでそこまで……。
(快人さんは私をないがしろにしています)
う、うん? な、なんのことでしょうか?
(快人さんは『地球神を誘った』のに、現地へ向かう時に私を誘ってくれませんでした)
いやいや!? 無理でしょ! だって、リリアさん達も居るんですよ? シロさんが登場したりしたら、リリアさんなんて完全に気絶コースじゃないですか!?
(快人さんは『一つ下の階に泊まっている』私に会いに来てくれませんでした)
完全に初耳ですからねそれ!? え? ていうか、シロさん中央塔に泊まってるの!? 神域から来てるんじゃなくて!?
(快人さんに『添い寝』をするために泊まりました。ですが、昨夜はクロのせいで隙がありませんでした。温泉への転移も『阻止』されました)
驚くべき新事実!? なにをしようとしてるんですか貴女は!? というか、俺の知らないところでそんな攻防があったの!?
(ちなみに『地球神も同じことを狙っていました』。そちらも、クロに阻止されていましたが……)
クロ本当にありがとう!! 今度絶対なんかお礼するから! その調子で残る六日間も阻止してください!!
(クロばかりずるいです)
いや、ずるいと言われても……デートはちゃんと楽しんでもらえるように頑張るので、そっちの方は勘弁してください。理性が死にますからね。
(むぅ)
可愛らしく拗ねられても、流されるわけにはいかず、その後しばらくシロさんの説得に労力を割くことになった。
拝啓、母さん、父さん――激しい戦いが終わり、ある意味これで初日も一段落かなと思ったんだけど、そんな中で告げられた驚愕の新事実。どうやら、昨晩から俺の知らない――水面下で戦いが繰り広げられていたらしい。
元々七日目を快人と回ると言う事を条件にスポンサーとなったシロですが……創造神様は、どうしても快人の方から誘って欲しかったみたいです。可愛い。




