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自分の力で掴み取れたからだと思う



 キツイ……息はどんどん荒くなり、脇腹にも嫌な痛みが襲いかかってくる。

 ただでさえ広い闘技場を一周というコースで、その上数多くの障害物を突破しながら走るとなると……もはや中盤の終わりに差し掛かるころには、かなり疲労が溜まっていた。


 ルービックキューブの課題があった時は一度逆転できたが、その結果メギドさんの闘争心には火がつき再逆転、いまはかなりの差をつけられてしまっている。

 それでもまだ、ギリギリ……射程距離……。


 俺はスタートからいままで、ずっと終盤のコースを見ながら走っていた。どんな障害物があるのか、どのルートを通れば最短なのか……それを考えながら術式を組み上げていった。

 そもそも俺とメギドさんでは基礎体力が違う。走る速度は俺の方が早くても、俺にはその速度をスタートからゴールまで維持するスタミナなんてない。

 だから、そう……『こうなることは分かっていた』……。


 メギドさんが先行し、俺がそれを追う。俺に勝機なんてのは……一つしかなかった。

 オートパイロット……俺だけが魔法を使えるこの勝負で、最大最強の切り札。それだけが、俺が唯一メギドさんを上回れる可能性があるカード。


 だけど、この切り札は諸刃の剣……自分でいうのもなんだが、俺の魔力量はへっぽこだ。どれだけ絞り出しても、コースの半分すらオートパイロットを維持することはできない。

 だからこそ、追いつける差で終盤まで辿り着けるかどうか……そこが勝負の分かれ目だった。


『さあ、コースも残り三分の一以下となり、終盤戦に突入です! 以前リードはメギドさん。カイトさんを大きく引き離しています!』


 ……きた。ここだ! メギドさんとの距離は追いつけるかどうかギリギリ、魔力が持つかどうかも……微妙な距離。

 けど、勝算があるだけマシだ。


「……オートパイロット」


 キーとなる言葉を口にした瞬間、俺の体は俺自身のコントロールから外れ、一気にスピードを上げた。

 疲れが消えるわけではない、痛みも感じる。だけど、その全てを無視してオートパイロットは、強制的に俺の体を稼働させる。


『おおっと!? カイトさんがここで急加速! 一気に次の関門へ向かいます! そして待ちうけるのは、飛び石Ver2!』

『飛び石好きだねノーちゃん』

『やっぱり定番ですからね。ただ今度のはかなり大きく、コースも複雑。メギドさんもそこそこ時間がかかっていました! 果してカイトさんは……って、なんとっ!?』


 走るフォームは陽菜ちゃんを参考にした。障害物を突破する動きは……前に最高の手本が居た。

 二度目の飛び石……俺の体が迷いなく足場に飛び移り、足だけでなく手も使いながら突破していく。


『こ、これは、メギドさんの動き!? い、いえ、身体能力が上の分、メギドさんより早い!!』

『……戦王の動きを参考にしたんだろうね。そりゃ、運動経験が豊富で自分と同じ身体能力の相手は、参考にするには最適だろうけど……そんな簡単じゃない。……本気、出してきたってことかな?』

『おっと、次の壁上りも凄まじい速さ! コレは素晴らしい! メギドさんとの距離をどんどん縮めていきます! ついに追い詰められた草食獣が、肉食獣に牙をむいた!!』


 草食獣って……いや、まぁ、メギドさんが肉食獣だとするなら、俺は草食獣で間違いないだろうけど……。

 

 そして肉食獣と例えられたメギドさんは、走りながら俺の方に一度視線を向け強烈な笑みを浮かべ、大声で叫んだ。


「カイトォォォ!! いい、いい速さだ! 最高じゃねぇか! こい! 俺の首に喰らいついてみせろ!!」


 追い上げられているはずなのに、メギドさんに焦りなどはまったくない。むしろ楽しくて仕方がないと言った表情だ。

 本当に根っからの戦闘狂……だけど、まぁ、いまは俺も……喰らいつくつもりではある。


 足は悲鳴を上げている。息苦しさも凄まじい。それでも俺の体は止まらない、無理やりに最高のパフォーマンスを引き出し続ける。

 体が壊れないように調整しているとはいえ、この痛みはキツイ……体は動き続けながらも、頭には様々な考えが浮かび上がってくる。


 なんて俺はこんなに頑張ってるんだろう? もういいじゃないか? このまま続けてもメギドさんには追いつけないかもしれない。そもそも、六王であるメギドさんに勝とうとするのがおかしいんだ。負けでいいじゃないか……と、そんな考えを必死に押し込め、オートパイロットを発動し続ける。


 最初は負けられない勝負なんかじゃなかった。ただのお遊び、流されて参加しただけだった。


『さあ、メギドさんは最後の関門である綱渡りを越え、残りはゴールまで一直線! カイトさんも、最後の関門に差し掛かりましたが……この距離は厳しいか?』

『最後の直線はかなり長いけど、戦王との距離の差は……厳しいね』


 だけど、そう……いろいろな人に協力してもらった。エデンさん、パンドラさん、イリスさん……そして……。


「ご主人様! 頑張って!!」


 その声は、熱気と歓声に包まれた闘技場の中でも、不思議とハッキリ聞こえた。自動的に動いているはずの足に、なんとなくではあるが力が入った気がした。


 その声が、チラリと見えたアニマの姿が本当に最後のジョーカーを切る勇気を与えてくれた。


 綱渡りの関門を突破し、大きく距離をあけられながらも最後の直線に辿り着いた。

 その瞬間、俺は一度オートパイロットを解除し、同時にキーとなる言葉と共に再発動させる。


「オートパイロット……リミットリリース!」


 これは、出来れば使いたくはなかった。だって、死ぬほど痛いし……けど、相手はメギドさんなんだ。リスクも負わずに勝てる相手なんかじゃない。


 リミットリリース……それは、オートパイロットの『俺の体が壊れる動きをしない』という制限を解除するキーワード。

 かつて、ブラックベアだったころのアニマと戦った時に使用したのと同じ力……。


 発動した魔法により、俺の体は桁違い力を発揮する。


『な、なんと!? ここでカイトさんが爆発的なスパート! 速い、速い!!』

「なにっ!?」


 リミッターが外れた俺の体は、凄まじい力で地面を蹴り、先程までの倍以上の速度で走り出す。

 急加速によりどんどんメギドさんとの距離を縮める俺の姿を見て、流石のメギドさんも驚愕した声を上げる。


 だけど……痛い!? 痛いイタイ!? なんか足からブチブチとか、おおよそ人間の体からしていい音じゃない音聞こえたんだけど!?

 てか骨も絶対折れた!? まぁ、骨が折れようが魔力で強制的に足が動くんだけどね!?


 ああ、でも、体が悲鳴を上げて、その分だけ追いついて……ようやく、なんで俺がこんなに頑張っているかも理解できた。

 アニマたちの協力を無駄にしないために負けられないというのも、もちろんあるが……たぶん、俺はそれ以上に……。


『ゴールまであと僅か! もはや差は殆どありません!!』


 メギドさんは、本当に凄い。このレースは俺の有利な課題も多かった。ルービックキューブなんてその最たるものだ。

 初めて体験するものもあっただろう。それでもメギドさんはしっかりクリアして、先行していた。


 オートパイロットの参考にするため、メギドさんの動きを見ていて……その洗練された体運びに、感動すらした。

 メギドさんは力だけじゃない、知識も技術も……妥協せず磨きあげる本物の強者。本当に凄い人だと思う・……そしていま、その相手となんの因果か、こうして戦っている。


 だから、だろうか……勝ちたい。その焼けつくような闘志にあてられ、俺の心にも火が付いたようだ。


 メギドさんが凄い人で、心から尊敬できる紛うこと無き強者だから……そんなメギドさんに勝ちたい。初めに会った時みたいな、シロさんの祝福のお陰でとかじゃなくて……自分の力で!


「ぐっぅ!?」


 メギドさんを追い抜き、ゴールまであと少し……そんなタイミングで、魔力が切れかかる。

 足元から力が抜け、体が崩れ落ちていくのがスローモーションのように見えた。


 駄目だ、まだ切れるな……もう少しあと数歩だけ……体中から、魔力を絞り出せ! 勝つんだ!! メギドさんに、勝つんだぁぁぁぁ!!


 崩れかけた足に再び魔力が通い、持ち直した。


『ゴォォォル! いま、激しいデットヒートを制して、カイトさんがゴール!! って――ちょっ!?』

『カイちゃん!?』


 ゴールした。メギドさんに勝った! そんな感情が浮かび上がると同時に、オートパイロットは完全に解除される。

 そうなると、『最高スピードの状態で、足が動かない』という恐るべき状況であり、俺の体は前のめりの形で放り出される。


 これは、地面に顔から大分するやつか……絶対痛い……まぁ、そもそも世界樹の果実ありきの自爆特攻だったので、覚悟の上ではあるけど……出来ればあまり痛くない方が……。


 地面に顔からぶつかるのを覚悟して目を閉じた。しかし、直後に感じたのは顔がぶつかる痛みではなく、ふわりと優しく抱きしめられる感触だった。


「……え?」

「はぁ……また無茶して……」

「……クロ?」

「もぅ、カイトくんは本当にしょうがないね」


 いつのまにか俺を抱きとめていたクロは、呆れたような表情で俺の足に手をかざす。

 すると、俺の足が光に包まれ、先程までの痛みがすっかり消え失せた。


「……けど、まぁ、おめでとう。頑張ったね」

「……ありがとう」

「……でも、あとで叱るからね」

「……え?」


 クロに抱き締められたままで、ゆっくり視線を後方に動かすと、ゴールに立つメギドさんが、柔らかい微笑みを浮かべながら手を叩いていた。


「さっ、カイトくん。メギドと観客が待ってるよ……行っておいで。勝者らしく、堂々とね」

「……ああ」

 

 拝啓、母さん、父さん――メギドさんはすごく手加減してくれてたし、コースも俺に有利なものだった。完全勝利というわけではないかもしれないけど、それでも、心に湧き上がる感動は大きい。それはきっと、さまざまな手助けがあったとはいえ、この勝利を――自分の力で掴み取れたからだと思う。

 




窮地に声援が届く、アニマが完全にヒロインポジ。クロはどっちかって言うとヒーローポジ……あれ?


今日はちょっと更新早め、就寝も早め……明日の仕事も早め。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そろそろアニマの攻略が始まりそうだねぇ。その次にルナマリアさん辺りか?
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