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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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戦うべきなのかもしれない



 三つ目の闘技場。そこはコロシアムというよりは、道場のような形をしていた。
 挑戦権のスタンプ十個というのはそこそこ時間がかかるみたいで、まだ他の挑戦者らしき姿も見えない。

 アニマと一緒に静けさを感じる闘技場の中に入ると、その中央で正座をしている方を見つめた。
 座っているのでハッキリとは分からないが、身長は2mぐらい。着物に似た服を着た青髪の女性。

「……よくぞ参られたミヤマ殿」

 ひとつ前の闘技場であったコングさんとは真逆の、冷たさを感じる静かな声。
 女性はゆっくりと立ち上がり、俺とアニマの方を向く。

「我が名はイプシロン……『絶氷』のイプシロンと呼ばれている。以後お見知りおきを」
「あ、宮間快人です。こっちは、俺の代理でアニマといいます」
「ふむ、承知した。アレコレと雑談をするのは得意ではない。さっそく本題に入らせてもらう。アニマ殿、こちらに触れられよ」

 イプシロンさんはそう告げ、バッカスさんのところで見たのと同じ水晶玉を取り出す。
 アニマは俺の前に一歩出て、その水晶玉に触れる。

「……ふむ、数値は『八十万』か……なかなかのもの、子爵級レベルとお見受けした」

 あ、アニマ強っ!? えっと、俺が『三』だったから……俺の20万倍以上強いんだアニマ……まぁ、世の中には水晶玉が壊れるような、理不尽の塊も存在してるわけだけど……。

「では、ルールを定めよう。貴殿が我に一撃でも攻撃を当てることが出来たらクリアとする。そしてハンデとして、我は片腕と片足を使用せず、魔力を用いた攻撃も行わない。魔力を用いた防御は行うので、注意してもらいたい。また移動制限も加わるが……我は元よりこの場から動くつもりはないので、問題はないだろう」
「……」

 イプシロンさんの言葉を、アニマは静かに聞いている。かなりハンデが付くみたいだが、それに対する文句なども無いみたいだ。
 アニマはイプシロンさんの説明を聞き終えた後、一度俺の元に来てから呟く。

「……自分とて、馬鹿ではありません。かつて住んでいた狭い森ならともかく、この世界において己以上の強者がゴロゴロと存在しているのは理解しています。彼女も、私と比べれば遥かに格上……自分の弱さが嫌になります」
「卑下する必要はない。貴殿とて、世界では上から数えた方が早い実力者だ」

 色んな意味でコングさんとは対極の方だ。イプシロンさんは格下であるアニマを馬鹿にする様子も無く、どこからともなく取り出した薙刀を片手で持って構える。

「ご主人様、行ってきます。必ず貴方に勝利を……」
「アニマ、頑張って……でも、無理はしないように……」
「はっ!」

 決意を込めた言葉と共にアニマはイプシロンさんと向かい合い、両手を構える。そして、俺が邪魔にならない位置へ移動したのを確認し……戦いが始まった。







 正直、俺は心のどこかで戦王五将を見くびっていたのかもしれない。
 ここまでの二戦は、ひとつの世界の頂点であるエデンさんに伯爵級最強のパンドラさんが戦ったからこそ、圧勝という形で終わった。頭ではそう理解しているつもりだったが……目の前の光景には、驚いている。

「……ぐっ……はぁ……はぁ……」
「……」

 荒い息を吐きながら片膝をつくアニマの前には、開始位置から一歩も動いていないイプシロンさん。実力差は、俺の目から見ても分かるほど……圧倒的だった。
 アニマがどれだけ攻撃を仕掛けても、イプシロンさんは片手に持った薙刀一本で捌き切ってみせた。

 防御魔法は使用すると言っていたが、イプシロンさんはここまで一度も魔法など使用していない。技量も、魔力も違いすぎるのか、アニマは突っ込むたびに弾き飛ばされ、地面を何度も転がっている。
 子爵級と伯爵級……違いは一つのはずなのに、ここまで差があるのか……。

「アニマ! もう、それ以上は……」
「だ、大丈夫です! まだ、自分は……」

 イプシロンさんからはアニマに攻撃を仕掛けていない。それでも、アニマはすでにボロボロと言ってよかった。
 弾き飛ばされて地面に叩きつけられ……それが何度も繰り返され、いまは口元からは血も流れている。
 正直、もう勝ち負け云々より、アニマが傷を負うのを見ていられなかった俺は、負けでいいから止めてくれと伝えようとしたが、それはアニマの強い声で遮られる。
 そんなアニマに対し、イプシロンさんは氷のような冷たい表情で告げる。

「……これ以上は無駄だろう。貴殿の実力は十分に理解した。あまりにも若く、技量は未熟……それでは、我に刃は届かん」
「ぐっ……」
「加減はしている。とはいえ、ダメージは溜まっていよう? 事実、立つことも難しかろうて……」
「……」

 イプシロンさんの言葉に、アニマが悔しそうに頭を垂れる。その動きを敗北を受け入れたと認識したのか、イプシロンさんは静かに薙刀を降ろした。
 しかし、直後に静かな、それでいて強い意志の籠った声が聞こえてきた。

「……奪い、殺し、喰らうだけの日々だった……」
「……」

 背を向けようとしていたイプシロンさんは、その言葉に動きを止め、視線をアニマに向ける。

「……ある時、自分は『ひとりの人間』と戦った。自分と比べれば、脆弱極まりない肉体。爪も無く、牙も無く、弱く脆い身一つで、自分に挑んできた人間がいた」
「……アニマ」

 その言葉が誰を指しているのかなんて、考える必要も無い。俺のアニマの出会いは、確かにその戦いだった。

「守るべき者を背負い、遥か格上に挑むその人間の目には強い光が宿っていた……強いと思った。勝てないと思った……その目に……心に……憧れた!」
「……」
「自分は弱い。憧れたその人間に仕えても、目立つのは不甲斐なさばかり。自分より強い者は山ほどいて、自分より賢い者も沢山いる。それでも! ご主人様は、自分を必要だと言ってくれた!」

 その言葉と共に、アニマは体に力を込めて立ち上がり、再び両手を構える。

「ご主人様に仕えること、ご主人様の進む道を切り開くこと……それは自分の誇りだ! 諦めるなど、ありえない!!」
「……ほぅ」
「生憎、自分は賢い戦いなど出来はしない……いま、届かぬのなら! 届くまで挑むだけだ!!」

 不屈の意志を込め、アニマは強く一歩を踏み出す。イプシロンさんはソレを見て、感心したような声を上げたが……構えない。
 そして、少しして、イプシロンさんは薙刀を手元から消した。

「見事……貴殿の勝ちだ。スタンプを渡そう」
「……は?」

 アッサリと告げるイプシロンさんの言葉に、アニマは肩透かしを喰らったようにキョトンとする。
 それはそうだろう、いままさにこれからだって空気だったはずなのに……どういうつもりなんだ?

「な、なにを言っている!? 自分はまだ……」
「……次の貴殿の攻撃は、我に届く。そう確信した」
「なっ!?」
「間違いなく、次の貴殿の攻撃は我に一撃を与えるだろう。しかしそれは『捨て身の一撃』……貴殿が大きな怪我を負うことは、ミヤマ殿も望まぬだろう。その一撃を、貴殿にダメージが無いように捌き切る自信が無い。それは即ち、我の力量不足……それだけの話だ」

 と、ともかく、戦いは終わったってことかな? なら……。

「アニマ!」

 俺は茫然としているアニマの元に駆け寄り、マジックボックスからあるだけ世界樹の果実を取り出す。

「アニマ、怪我を治療しないと!」
「え? ご、ご主人様!? じ、自分は軽傷……」
「とにかく食べて!!」
「は、はい!?」

 俺の剣幕に押されたアニマが、慌てて世界樹の果実を一つ食べる。それによって、あちこちにあった小さな傷が治って行くのを見て、俺はホッと息を吐いた。

 それから、再三に渡りアニマに他に怪我が無いかと確認していると、イプシロンさんが微かに微笑みを浮かべる。

「貴殿の主は、貴殿のことが余程大切と見える……幸せ者だな」
「……うっ、あぅ……」
「さて、ミヤマ殿。スタンプカードを」
「あ、はい」

 イプシロンさんに促されてカードを取り出し、そこにスタンプを押してもらう。
 それが完了すると、イプシロンさんは真っ赤な顔で俯いているアニマの方を向き、静かな声で告げた。

「……今回の決着に納得がいかぬのなら、『千年後に再戦』しよう。貴殿は若く才に溢れている。千年後であれば、ハンデなど無くとも、互角の戦いができるであろう」
「……わかった。イプシロン殿、千年後に再度挑戦させてもらう」
「……楽しみにしているぞ、未来の強者よ」

 それだけを告げ、イプシロンさんは一度俺に頭を下げてから闘技場の中央に向かっていき、最初と同じように正座をして目を閉じた。
 なんというか、カッコいい方だ。うん、コングさんとは全然違う。

 拝啓、母さん、父さん――アニマが戦ってる間、気が気じゃなったし、ここまでずっと助けられてばかりだった。エデンさん、パンドラさん、アニマ……代理にずっと任せて、これでメギドさんの元に辿り着いて……本当にいいのだろうか? アニマがボロボロになりながらも、アレだけ頑張ってくれた。なら、俺も主として……せめて、一度ぐらい――戦うべきなのかもしれない。



ゴリラとは違うのだよ。ゴリラとは……。

そして次回。主人公(作中最弱)VS戦王五将四体目。

~おまけ(前の続き)~
親戚の天然お姉さん:シロ
近所の優しい独身OL:リリウッド
駄目な従妹:フェイト
近所のゴリラ:メギド
怖い:エデンママン
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