六王祭が始まるのだと……
【重要なお知らせ】
モーニングスターブックス様より書籍化される当作品の発売日が決定しました!
発売日は6月22日です!
詳しい情報や、表紙の画像は活動報告に用意していますので、よろしければご参照ください。
ラグナさんは国王のため、開催式にも参加する予定らしく、少し雑談した後で去っていった。
その後リリアさんと共に開催式を待っていると、少し離れていたところに密集していた人達が、いきなり大きく割れる。
二つに大きく割れた人混みは一本の巨大の道みたいに見えた。そしてその直後、大きな声が聞こえてくる。
「き、来たぞ! 創造神様だ!」
その声が聞こえた瞬間、まるで示し合わせたかのように集まった人達が一斉に膝をつき頭を垂れた。
俺とリリアさんも周りに合わせて膝立ちで頭を下げ、祈りの姿勢になりつつ、少しだけ目を動かして様子を見る。
以前神殿でクロノアさんの登場を見た時、白い波のようだと思ったが……コレは、それとはレベルが違う。
シロさんの招待状ランクは間違いなくブラック、ゆえに神族ほぼ全員を連れてきたのだろう。それはもう、凄まじい光景だった。
先頭を優雅に歩くのは創造神であるシロさん。その後方に最高神の三方が並び、さらに後ろには白い法衣に身を包んだ神族が一糸乱れぬ足どりで従っている。
まさしくこの世界の頂点といった感じで、見ているだけで圧倒されるような感じだった。シロさんとある程度接し慣れている俺でさえ圧倒されるのだから、他の人達にとってはそれ以上に凄まじい緊張だろう。
隣に居るリリアさんが小さく震えているということは、相当の圧を感じているという証拠でもある。
シロさんはそのまま一定の歩幅で進み、途中で最高神以外の神族は立ち止まる。流石に神族と言えども、立ち入り制限は守らなければならないらしい。
そしてある程度まで進んでシロさんが立ち止まると、頭を下げていた人達も立ち上がり始め、俺とリリアさんもそれに従って立ち上がる。
「……すごい、創造神様。なんて、神々しい……」
「勇者祭以外でお姿を拝見出来るとは……ありがたや、ありがたや……」
そんな声が聞こえてくるのとほぼ同時に、シロさんはチラリと俺の方を見て、小さく手を振ってきた。
やめて!? その知り合い見つけたみたいな反応! いや、実際知り合いだけど、注目ヤバいから!?
シロさんが手を振った瞬間、周囲の視線がこちらに一斉に向いた。いや、マジで勘弁してください……リリアさん真っ青だよ。もうちょっとで気絶するよ?
ざわざわと少しずつ周囲が騒がしくなっていき、背中に冷や汗が流れ始めたが、運は俺達を見話してはいなかった。
俺達に対する疑問が言葉になるより先に、中央塔から大きな音が響いた。
そちらに視線を向けると、中央塔の一部がステージのように突き出してきていて、その上にはクロたち……六王の姿があった。
もっとも、マグナウェルさんはステージに乗るのは無理なので、首だけを中央塔の近くに伸ばしてきていたけど……。
「いよいよ開催式っすよ」
「……お前、なにやってんの? あっちに行かなくていいの?」
当り前のように俺の隣に現れるアリスに尋ねると、アリスは軽く溜息を吐きながら告げる。
「いえ、非常に不本意ですが……今回は『こっちが分体』です。本体アリスちゃんは壇上にいますよ」
「あっ、そうなんだ」
「ええ、流石に主催者の一人ですから、分体で参加するわけにもいきませんし……まぁ、でも安心してください! 世界中に散らばる『1800体』の分体を解除して、新たに作った私、『パーフェクト分体アリスちゃん』の性能は本体とほぼ互角です! バッチリカイトさんの護衛は務めますよ!」
「……つ、突っ込み所が多すぎる。1800!? お前の分体そんなにいるの!?」
いや、確かにハイドラ王国に居たり、店番してたり、それなりの数は居るとは思ってたけど……1800!?
「ええ、まぁ、ほとんどの分体アリスちゃんは姿を変えてますよ。というのも、分体アリスちゃんは配下が集めた情報を本体に送信する役割なので、あちこちに配置してます」
「な、なるほど……しかし、やっぱりすごいな、1800なんて数……」
「あっ、いや、別に自律思考とか情報統括とかの能力付けずに、本体が操作するなら『十万』くらいはいけますが……」
「……」
うん、駄目だ。こいつを俺の常識で測ってはいけない。普段がどんなに馬鹿でも、アリスは六王……人知を越えた存在なんだ。しかし、十万って、ひとり軍隊だな……。
「まぁ、今回この分体を作ったのは『ある実験』も兼ねてるんですが、それはおいおい……始まるみたいですよ」
「……お?」
アリスの言葉を聞いて視線を壇上に戻すと、クロが一歩前に進んで口を開いた。
「……皆、今日はボクたちの主催した六王祭に参加してくれて、本当にありがとう」
拡声魔法を使っているのだろうか? クロの声は大きく広場全体に響き渡る。
「いまから開催式を始めるわけなんだけど、その前に六王を代表してボクからお礼の言葉を伝えさせて欲しい」
普段の可愛らしいイメージとは違い、いまのクロからは王としての威厳のようなものを感じる。故に声も力強く、堂々としているように感じられた。
「今回の六王祭はボクたち六王だけで用意できたわけじゃなくて、いろいろ力を貸してもらった。魔界はもちろん、神界……人界のシンフォニア王国、アルクレシア帝国、ハイドラ王国……皆が力を貸してくれたおかげで、こうして今日を迎えることができた。本当にありがとう」
そうか、今回の六王祭にはシロさんや、人界の王達も協力してたのか……。
そんなことを考えていると、アリスが小さな声で話しかけてきた。
「……シャローヴァナル様は初めからスポンサーだったんですけどね。それに加えて人界にも協力を願いました。まぁ、対外的な処置ってやつです」
「……うん?」
「正直人員は私達の配下で足りますし、物資はシャローヴァナル様が協力してくれる以上使いたい放題です。でも、そのまま勧めちゃうと、人界が除け者になっちゃいますからね。あえて協力をお願いしました。三つの世界は対等ですからね」
「……なるほど」
アリスの説明を聞いて俺が頷くと、丁度そのタイミングでクロが一度言葉を区切る。そして周囲をゆっくりと見渡してから、再び口を開いた。
「さて、それじゃあ開会の宣言をする前に、少しだけパフォーマンスをさせてもらうね」
「……パフォーマンス?」
「まぁ、見てのお楽しみですよ」
拝啓、母さん、父さん――シロさんも到着し、いよいよ開催式の準備が整ってきた。クロが代表として力強い言葉で話をしていくのを見ていると、なんとなく実感する。いよいよ――六王祭が始まるのだと……。
ここで区切らないと長くなるので、今日はここまでです。




