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アイシスさんの勝ちでいいと思ったよ



 どうして、こんなことになったんだろう?


「前々から貴女とは一度、決着をつけるべきだとは思っていたのですよ」

「へ~そのまま逃げててくれればいいんすよ? 負けたくないのでしたら……ねぇ?」

「ふふふ、本当に面白いですね。貴女は見事な道化ですよ、シャルティア」

「あはは、あまりカッコいいこと言わない方がいいんじゃないっすか? 滑稽ですよ? アインさん」

「……ふふふ」

「……ははは」


 両者笑顔ながら、俺の前で火花を散らすアインさんとアリス。どちらも背後に般若でも背負ってるんじゃないかという雰囲気で、俺の背中には冷たい汗が流れる。

 クロでさえも迂闊に口を挟めないのか、オロオロと二人を交互に見ている。


「……カイト……お茶……どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 しかしその中で、アイシスさんだけは平常運転。可愛らしい笑みを浮かべながら俺の前に紅茶を差し出してくれた。







 そもそもことの発端は、ほんの少し前……1時間ほどクロの膝枕で眠った後、一緒に宿泊施設に戻ってきた時に起った。

 アイシスさんも合流し、皆で夕食を食べることになったわけなんだけど……。


「それではクロム様、私は夕食を用意します」

「うん。よろしくね~」


 そう、ごく自然な流れでアインさんが夕食を作るために台所に向かおうとしたタイミングで、いつの間にか現れていたアリスが呟いた。


「……なんなら私が作りましょうか? カイトさんの好みは熟知してますからね」

「……シャルティア? それはつまり、私への挑戦と受け取っても構いませんか?」

「へ? いや、別にアインさんに喧嘩売ったわけじゃないですよ。アインさんなら凄く豪華で美味しい食事を用意してくれるでしょうし、私は楽しみです……まぁ、豪華ならいいってもんじゃないっすけどね」

「……ほぅ?」


 その辺りから、なにやら不穏な空気が流れ始めた。たぶん、初めに火花が散ったのはこの瞬間だと思う。


「……なかなか面白い冗談です。貴女は、メイドである私より上だと、そう言いたいわけですね?」

「いえいえ、そんなことはないですよ~まぁ、カイトさんに食べてもらう料理を作るという点では、私の方が上でしょうけど……」

「……あ、アイン? しゃ、シャルティア?」


 クロも二人の様子を察したのか、フォローを入れようとしたが……もう遅い。


「な、なぁ、クロ? この二人って、仲悪いの?」

「そんなことないよ! っていうか、喧嘩なんて初めてだよ!? 普段なら、シャルティアはここまで意地になったりしないし……」


 どうやらアインさんとアリスの仲が特別悪いというわけではないらしい。クロの話だと、こういった空気になっても、アリスの方が引くらしいが……今回は俺が関わったことで、アリスの方も意地になっているらしい。

 ……どうしよう?







 そして現在、目の前には料理番組で使うような調理台が二つ用意され、それぞれアインさんとアリスが立っている。正に料理対決といった感じだ。


「……そのような食材で大丈夫ですか? シャルティア」

「……食材が豪華ならいいってもんじゃないんすよ。私はカイトさんの好みは完璧に把握しています! かつて『ピーマンを食べて泣いた』エピソードまでバッチシです!」

「なんで知ってるんだよっ!?」


 本当に俺のプライバシーどこいった! なんでたびたび、黒歴史が拡散されてるんだよ!?

 おかしい、アインさんとアリスの対決のはずなのに、なんでこっちにダメージが来てるんだ? こら、保護者クロも、諦めた顔で俺の隣に座って、ベビーカステラ食べてる場合じゃないだろ!?


「……ファイ……」


 そしてアイシスさんもなんで審判みたいなことしてるんですか!? もうこの流れついていけないんだけど!?

 

 アイシスさんの声と共に、両者一斉に動き出す。

 瞬きほどの間に大量の食材を切り、複雑そうな下ごしらえをしていくアインさん。何本もの包丁を華麗に使い分けながら調理していくアリス。

 正直どっちも早すぎて見えないんだが、たぶん互角の攻防……なのかな?


「……やりますね。シャルティア、流石私が互角と認めた存在です」

「アインさんこそ、流石っすね……流石、メイドです」


 ……まぁ、色々言いたいことはあるが……さも当然のように、メイドという言葉を超人という意味で使うなよ。そんな化け物アインさんだけだからね。


 よくは分からないが、なにやら互いを認め合い白熱した戦いが繰り広げられているみたいだ。

 それを眺めている俺の前に、スッと白い容器とスプーンが置かれる。


「……はい……カイト」

「え? アイシスさん? コレは?」

「……グラタン……カイトのために……作った……よ」

「あ、ありがとうございます……あれ?」


 なにかがおかしい気がする。さっきまで審判のようなことをしていたアイシスさんが、なぜさも当然のようにグラタンを差し出してきたんだろう?

 というか、このグラタン……いったいいつの間に作ったんだ?


「……カイトが来るから……作ってた」

「ああ、なるほど……だからアイシスさんは、後から合流したんですね」

「……うん」


 この宿泊施設に到着した時点でアイシスさんの姿がなかったのは、俺のためにグラタンを作っていたからみたいだ。

 うん、コレはアレだ……嬉しい。食べないという選択肢はない。


「……はい……あ~ん」

「……これで、完成で――アイシス!?」

「こっちもできま――なんですって!?」


 アイシスさんがニコニコと笑顔でスプーンを差し出してきたタイミングで、アインさんとアリスも調理を終え……アイシスさんを見て驚愕に目を見開いた。


「ちょ、ちょっと、アイシスさん? そ、それはいったい……」

「……グラタン」

「いえ、そうではなくて、あの、私とシャルティアの勝負は……」

「……皆の分も……あるよ?」

「「……そ、そうですか……」」


 どうもアイシスさんはアインさんとアリスの勝負をいまいちよく理解していなかったみたいだ。確かに直接的なことは言わず、どちらも遠回しの嫌味みたいに言ってたけど……。

 そして、純粋なアイシスさんの笑顔に二人共毒気を抜かれたのか、ガックリと肩を落とした。


 それを見ていたクロが、どこからともなく青い旗を取り出して宣言する。


「……これは、う~ん……アイシスの勝ち!」

「……なにが?」

「カイトくんへの夕食対決」

「……うん? ……よく分からないけど……勝った」


 コテンと首を傾げながら告げた後、アイシスさんはアインさんとアリスの方を向いて、可愛らしい笑顔を浮かべる。


「……シャルティアとアインも……食べよ? ……一緒に食べると……もっと……美味しい」

「……了解ですよ。ところで、アインさん、その料理美味しそうっすね? 食べさせてください」

「……構いませんよ。その代わり、貴女の料理も食べさせていただきます」


 裏表の無いアイシスさんの願いを受け、どちらともなく苦笑した後で、アリスとアインさんも椅子を用意する。そしてアインさんはクロの方にチラリと目を動かし、クロが頷いたのを確認してから席に座った。

 もちろんクロもベビーカステラをしまって、アイシスさんの作ったグラタンを笑顔で食べ始めた。


 拝啓、母さん、父さん――思わぬことから始まったアインさんとアリスの料理対決だけど、結局決着はつかなかった。ただ、なんだかんだで楽しそうな二人を見ていると、クロの言う通り――アイシスさんの勝ちでいいと思ったよ。





戦王「……え?」

界王「……あれ?」

竜王「……ワシらは?」

戦王・界王「お前は無理だ」

竜王「……解せぬ」



なお、アハトが以前言っていたようにアインがメイドなのは自称で、クロからの認識は家族です。

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[一言] アリスの発言のおかげ?で思い…出した…!!( ꒪꒫꒪)
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