一難去ってまた一難である
アリスから受け取った六王祭ガイドは、どこの辞典だと言いたくなるほど分厚く、六王祭の規模の凄まじさを物語っていた。
幸いここに居る面々は全員マジックボックスを所持しているので、そちらに収納した。
そしてこれ以上門の前で騒ぐのも迷惑なので、入場することになった。
「あちらで招待状の確認があります。同行者の方は、招待状保持者の後に続いて通過してください」
キャラウェイさんの説明を聞き、門番らしき人達がいる場所へと向かう。どうやら招待状のチェックはそれなりの人数で行っているらしく、あまり待つ感じではない。
すぐに俺の順番が回ってきたので、俺はマジックボックスから招待状を取り出して門番の方に見せる。
「はい……え? ブラックランク!? こ、こんな『冴えない奴』が!?」
「……」
いや、紛うこと無き事実ではあるけど……。
門番がつい反射的にといった感じでそんな言葉を口にした瞬間、俺の背後でジャキッと爪を研ぐような音が聞こえた。どう考えてもアニマである。
そして、俺がアニマを止めるために振り返ろうとしたタイミングで、轟音と共に門番が彼方へ吹き飛ばされ、先程まで門番が立っていた位置に、パンドラさんの姿があった。
「……あのゴミを、招待状確認の任から外す。外壁の掃除でもさせてろ」
「は、はい!」
パンドラさんは冷たい声で近くに居た別の門番に告げた後、ブツブツと呟き始める。
「……だから私は戦王様の配下を配置するのには反対だったんだ。対面的な配慮が必要とはいえ……やはり無理やりにでも、ミヤマ様にはうちの配下を当てるべきだった。礼儀のなってない獣の分際で、ミヤマ様に無礼を働こうとは……100回ほど切り刻んでおくべきか? いや、すり潰そう。いや、毒の方がいいか? ……死にそうで死ね無い毒を浴びるほど飲ませてやろう……指は全て切り落とそう、ミヤマ様の怒りが少しでも収まるように、公開処刑にするか?」
「……」
……コワイ。
小声でブツブツと呪詛のように呟くパンドラさんは、見た目の雰囲気もあって本当に呪いを賭けているようにさえ見えた。
「……はいはい、カイトさんが引いてるんで……ハウス」
「え? あっ、ちょっ……」
声をかけることができず茫然としていると、パンドラさんは保護者に連行されていった。
エデンさんとは違ったタイプの怖さだ……エデンさんなら、一切の情け容赦なく一発で消し飛ばすだろうけど、パンドラさんはジワジワ苦しめる感じか……絶対怒らせちゃいけない人だ。
「……大変なご無礼をいたしました。ミヤマ様」
「へ? あ、いえ……うん?」
連れていかれるパンドラさんを眺めていると、いつの間にか俺の近くに見覚えの無い方が現れていた。
燃え盛る炎のような紅蓮の長髪を、首の後ろで大きな三つ編みにしている女性……サソリの尻尾みたいに見える髪型と、黒色の鋭ささえ感じる釣り目。
クロノアさんと同じぐらいの高い身長も相まって、鋭い雰囲気が感じられる切れ目の美女は、俺に深く頭を下げて謝罪の言葉を口にした。
「配下の不始末、メギド様に代わって謝罪いたします」
「い、いえ、俺は気にしてませんので……あの、だから、あんま酷いこととかは……しないであげてください」
「寛大なお言葉、感謝いたします」
「は、はい……え~と」
この女性はメギドさんの配下みたいだけど、俺には見覚えがない。少なくとも、以前の宴会に参加していたメンバーにはいなかった。
誰だろう? と、そう思っていると……後ろから、イータとシータの驚愕したような声が聞こえてきた。
「……あ、『アグニ様』……」
「むっ? お前たちは……ああ、バッカスの配下だった双子か、いまはミヤマ様に仕えているらしいな?」
「は、はい!」
「そ、そう……です!」
アグニと呼ばれた女性が話しかけると、イータとシータは分かりやすいほどに緊張した様子で背筋を伸ばす。
「ふむ、以前より魔力が洗練されている。よいことだ……今後も奮励努力せよ」
「「はっ!」」
……うん、話にまったくついていけてない。
そう思っていると、アグニさんは俺の様子に気が付いたのか、再び軽く頭を下げてから口を開く。
「失礼。自己紹介がまだでしたね。名はアグニ。メギド様より『業火』の二つ名と戦王五将『筆頭』の地位を賜り、メギド様の配下をまとめている者です。記憶の片隅にでも、名を留めていただけたら光栄です」
「えと、宮間快人です。よ、よろしくお願いします」
騎士の礼のように片膝を地面につき、ハキハキとした口調で自己紹介をするアグニさん。
戦王五将筆頭ってことは……メギドさんの配下で一番偉いってことかな? な、なんかまた凄い人が……。
り、リリアさんは居ないのかな? もう先に入場しちゃった? うん、後で説明しよう……絶対にしよう。命が危ない。
「今回の無礼に関しては、また改めて謝罪を行わせていただきます。申し訳ありませんが、職務が立て込んでいますので、詳細な話はまた後ほど」
「は、はい」
「では、失礼いたします。確か……イータとシータだったか?」
「「はっ!」」
「命を賭してミヤマ様の盾、そして剣であり続けよ。お前たちは一時であれメギド様の配下だった。無様な行いをすれば、メギド様の名にも傷がつくということ……ゆめ、忘れるな」
「「はっ!!」」
鋭い目と威圧感のある声でイータとシータに告げた後、アグニさんはもう一度俺に頭を下げてから姿を消した。
うん、なんというか軍の隊長みたいな感じの人だったな……俺に対しては、メギドさんの知り合いということもあって丁重だったけど……イータとシータの様子を見れば、普段は相当厳しくて怖い人なんだと思う。
しかし、うん……なんか入場するだけで、また変な騒ぎに……俺って……呪われてるのかな?
「……なるほど、そういったトラブルがあって……戦王五将筆頭であるアグニ様とお会いしたと……」
「……はい」
「……もうやだ。ちょっと目を離すと、すぐこんなことに……」
「お嬢様、お気を確かに……」
アグニさんが去った後で、改めて招待状の確認を行って門の中に入った。そして合流したリリアさん達に門での一件を説明すると、リリアさんは頭を抱えて蹲った。いや、本当に申し訳ない。
「ミヤマ様はブラックランク……もっとも重要な来賓といっていいですからね。無礼があれば、立場のある者が謝罪に出てくるのも当然でしょうね」
「……俺としてはもっと普通でいいんですけどね」
キャラウェイさんの言葉を聞いて、俺は溜息と共に肩を落とす。
しょっぱなからあんな感じで、結構注目を集めちゃったし……出来れば、宿泊施設につくまで穏便に行きたいのになぁ……。
出来れば、もうこれ以上騒ぎになるようなことが起りませんように……お願いします。神様。
(なにかした方がいいですか?)
いえ、大丈夫です。貴女が動くといま以上の騒ぎになるので、妙なことは絶対にしないでください。
(分かりました)
よし、これで一つ厄介なのは封じた……封じれた……かな? 封じれてるといいなぁ……無理だろうけど。
まぁ、それでも流石にここから宿泊施設まで歩く間に、なにか起ったりはしないだろう。
「お~い。カイトく~ん!」
「……」
せめてもうちょっとぐらい平穏が続いてもいいんじゃないかな!? なんか冥王が笑顔で手を振りながら走ってくるんだけど!?
てか、周囲のザワツキ凄いけど、認識阻害魔法とかは!? 六王主催の祭りだから……使ってない?
拝啓、母さん、父さん――いよいよ六王祭の会場へ入場となったんだけど、どうも俺はトラブルというものに愛されまくっているらしい。門で遭遇した戦王五将筆頭のアグニさん。そして、満面の笑顔でこちらに向かって走ってくるクロ――一難去ってまた一難である。
【怖い保護者達の審議】
死王「死刑」
幻王「死刑」
幻王配下筆頭「死刑」
運命神「死刑」
冥王「デコピン(強)」
創造神「デコピン(中辛)」
地球神「原子分解(物理)」
主人公「恩赦希望」
死王「9割殺し」
幻王「精神破壊」
幻王配下筆頭「拷問」
運命神「拷問」
冥王「デコピン(弱)」
創造神「デコピン(さび抜き)」
地球神「原子分解(物理)、後ほど蘇生」




