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情熱的な方だった



 アリスの屋台で高価だが美味しい料理を食べた後、ノインさんとしばらく雑談をしていると、ふとアリスが口を開いた。


「……おや? あっちの話が終わったみたいですね。じゃ、そろそろ片付けますね~」


 そう言ってトンカチを取り出し、俺達が席を立ったのを確認してから数度屋台を叩き、複数の木材に分解する。

 なぜトンカチで屋台が分解されるのかはまったく分からないが、そこはアリスなので深く気にしないことにしよう。


 アリスが木材を抱えて姿を消したのを確認してから、感応魔法の範囲を広げてみると……こちらに向かってくる魔力を感じることができた。

 この魔力は、フィーア先生一人かな? クロは来てないみたいだ……。


 そう思ったタイミングで、俺の目の前にクロからのハミングバードが現れ、それに触れると……「また、後でお礼を言いに行くね。ありがとう」という文字が浮かび上がった。

 そして俺が読み終って、文字が消えるのとほぼ同時に……こちらに向かって走ってくるフィーア先生の姿が見えた。


「ヒカリ! ミヤマくん!」

「フィーア先生、そっちの話は……え? ちょ、ちょっと、フィーアせんせ……」

「ミヤマくんっ!!」

「うわっ!?」


 フィーア先生は、俺達の姿を見つけると凄まじい速度に変わり、一瞬で俺達の前に移動し……俺の頭を抱え込むように抱きしめた……え?


「ミヤマくん、ミヤマくん!」

「フィ、フィーア先生!? い、いきなりなに……くるし……」


 俺の顔を胸に押しつけるように抱きかかえている……ということは、俺の顔は必然的にフィーア先生の豊かなふくらみに押し付けられるわけで……。

 肌触りのいい司祭服と柔らかな胸の感触が顔を包み込み、ハーブだろうか? 優しく心地良いナチュラル系の香りが鼻孔をくすぐる。


 突然の状況に慌てて抵抗しようとするが、当然の如く俺の力では抜け出すことはおろか、まともに動くことすらできない。

 ノインさんも状況についていけてないのか、あんぐりと口を開けて固まっているのが横目に見えた。


 そしてフィーア先生は、そんな俺の反応には気付いてないみたいで、抱きしめるだけでなく俺の頭に頬を擦りつけるようにくっつけてきた。


「ありがとう、ミヤマくん。ミヤマくんのおかげで……あぁ、もうっ! なんて言えばいいんだろう……分かんないよ。どうすれば、この感謝の気持ちを言葉に出来るのか、分かんないよ」

「と、とりあえず、いったんはなし……」


 感極まった様子でお礼の言葉を告げながら、俺を強く抱きしめ続けるフィーア先生。

 顔が圧迫されることによる息苦しさと、鮮明に感じる女性の柔らかな感触で、頭の中が熱にうなされるようにぼうっとしてくる。


「どうすればいいの? こんな一生かかっても返し切れないことをしてもらって……一生償わなくちゃいけない罪の他に、返し切れないほどの恩ができちゃった……嬉しい、嬉しいよぉ……」

「そ、それは、良かっ……でも、そろそろ……はなし……くるし……」

「へ? ああっ!? ご、ごめん!? 大丈夫? ミヤマくん」

「……は、はい。なんとか……」


 そこでようやく俺の声が届いたらしく、フィーア先生は慌てて俺の頭を開放してくれた。

 息を整えつつ顔を上げると、フィーア先生は真っ赤に泣き腫らした目に、さらに涙を浮かべながら、それでも心から幸せそうな表情で俺を見ていた。


「……はっ!? フィ、フィーア!? いきなりなにをしてるんですか!」

「ヒカリも、本当にありがとう!」

「へ? あ、ああ、はい。どういたしまして?」


 そこでようやく混乱から立ち直ったノインさんが抗議するように話しかけるが、テンションが最高潮のフィーア先生にすぐに圧倒される。

 ともかくいまのフィーア先生は幸せの絶頂に居るらしく、クロとの話が上手くいったことが分かった。


 フィーア先生はそのまま何度もノインさんにお礼を言った後、再び俺の方に向き直って深く頭を下げる。


「ミヤマくん、改めて本当にありがとう。いっぱい迷惑かけて、ごめんね」

「いえ……その、クロとの話は、上手くいったみたいですね?」

「……医者はこれからも続けていくつもりだから、クロム様たちの家に住むことは出来ないけど……クロム様が、いつでも遊びに来ていいって……私の家にも、遊びに来てくれるって……」

「……それは、本当になによりです」

「……うん。全部ミヤマくんのお陰だよ……」


 フィーア先生はそう言って目元を手で擦って涙をふいてから、俺の目を真っ直ぐ見つめて微笑む。

 長い苦しみから解放されたかのようなその笑顔は、とても美しく、輝いているようにさえ見え……。


「ミヤマくん、私、『ミヤマくんのこと、異性として好きになったよ』……」

「……へ?」


 ……う、うん? あれ? 聞き間違えかな? なんかいま変な言葉が聞こえた気がする。

 俺がフィーア先生が告げた言葉の意味をよく理解するより先に、ノインさんが慌てた様子でフィーア先生に話しかける。


「フィーア!? い、いきなりなにを言ってるんですか!」

「え? 私なにか変なこと言ったかな?」

「い、いや、だから……カイトさんのこと、す、すす、好きになったとか……」

「うん。だって、ここまでのことしてもらったんだよ? ずっと私に勇気がなくて出来なかった……クロム様と仲直りするって夢を叶えてくれた。あんな強引でカッコいいとこ見せられたら……そりゃ、惚れちゃうよ」

「ほ、惚れちゃうって……そんな……」


 も、もの凄くストレートな告白である。急展開で付いていけてないのに、顔だけはもの凄く熱くなってきた。

 ノインさんも唖然としているが、フィーア先生はまったく気にした様子もなく、さらに言葉を続ける。


「あっ、大丈夫だよミヤマくん。すぐに返事して欲しいとか、そういうことじゃないから」

「え、え~と……」

「ミヤマくんに言われてさ……もちろんこれからも償いは続けていこうって思うけど、同時に私もちゃんと幸せになりたいって思ったんだ」

「は、はぁ……」

「その気持ちに気付かせてくれた君のことが、本当に好きになった……でも、まだまだ、私は君に返事をもらえるほど立派な女性じゃないと思うんだ……だから、これから頑張るよ!」

「が、頑張るとは、なにをでしょうか?」

「もちろん、ミヤマくんに私のことを好きになってもらうように頑張るってことだよ! ふふふ、覚悟しておいてね。自分で言うのもなんだけど、私ってもの凄く一途でしつこいからね」


 恥じることなく自分の思いを伝えてくるフィーア先生に、俺もノインさんもただただ圧倒されてしまう。

 さ、流石は愛する相手のためだけに戦争を引き起こした方というべきか……なんていうか、もの凄く情熱的だ。


「あっ、でも先に聞いておきたいんだけど……ミヤマくん、私の見た目とか性格、好みから外れてたりしない? もし、嫌な部分があったら直すから、教えてほしいかな?」

「え? い、いえ、フィーア先生は、その……すごく綺麗で、素敵な女性だと思います」

「そう、かな? ふふふ、ありがとう。すっごく嬉しいよ」


 そう言いながら柔らかく笑った後、フィーア先生は一歩俺に近付いてから、再び口を開く。


「……じゃあ、君に好きになってもらえるように頑張るから……改めてよろしくね、ミヤマくん」

「は、はい……」

「ちゅっ」

「なぁっ!?」


 それは一瞬の出来事だった。俺に近付いたフィーア先生は、スッと流れるような動きで俺の頬に顔を寄せ、そこに軽くキスをした。

 一瞬で顔中に血が集まるのを感じ、俺は驚愕と共に言葉を失った。


「な、なにをしてるんですか、フィーア!?」

「へ? なにって……愛情表現?」

「こ、ここ、婚姻前に、せ、せせ、接吻など……」

「唇にはしてないよ? それはちゃんと、ミヤマくんに好きになってもらってからにするからね」

「そういう問題じゃありません!? は、はは、破廉恥です!」

「うん?」


 真っ赤な顔で叫ぶノインさんとは対照的に、フィーア先生は心底不思議そうに首を傾げていた。


 拝啓、母さん、父さん――色々あったけど、フィーア先生とクロの件も無事一件落着といった感じだ。まぁ、それはそれとして、フィーア先生って……その、なんて言うか、想像以上に愛情表現がストレートというか――情熱的な方だった。





フィーア編完! ではないです……まだクロとのいちゃいちゃが残っているので。


シリアス先輩「完で良いんじゃないかな!?」


活動報告にてキャララフ第四弾を公開しました。

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