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『戦い終えて』



 快人とノインがアリスの料理に舌鼓を打っているころ、シンフォニア王国の教会前では、集まっていた者たちが解散し始めていた。

 アリスの分体からフィーアの一件が解決したことを伝えられ、そこに居た者たちはホッとした表情を浮かべる。


「うむ、見事成し遂げおったか……う~む、やはりあの男……ワシ好みじゃな。のぅ、リリア嬢……あの者、ハイドラ王国に連れ帰ってよいか?」

「駄目です」

「そ、即答か……う~む、残念じゃ。まぁ、よい。無理強いはワシの流儀ではないしのぅ……ところで、リリア嬢? お主、以前より大分強くなっておったな?」

「そうでしょうか? ラグナ陛下に言われると、本当にそんな気がしますね」


 状況が一段落した頃合いを見計らい、ラグナは顔馴染みであるリリアに話しかけ、リリアも苦笑を浮かべながら答える。

 彼女達はかつて刃を交えたことがある間柄であり、天才であるリリアがいままで慢心せずに鍛錬を続けられたのも、ラグナという自分以上の強者の存在があったからこそだった。


「謙遜せずともよい。いやはや、若者の成長というのは早いもんじゃ……こりゃ、その内リリア嬢に人界最強の名を持って行かれそうじゃ」

「ラグナ陛下こそご謙遜を……いまの私では、貴女様には敵いませんよ。運も味方して、引き分けに持ち込めれば上出来ですね」

「ほほほ……なんなら、いまから一戦交えてみるか?」

「私は構いませんが……ラグナ陛下、お仕事はよろしいので?」

「うぐっ……そ、それは……」


 以前戦った時よりも成長しているリリアを見て、武人としての血が騒いだラグナは手合わせを提案したが、リリアは穏やかな口調で聞き返す。


「……また、こっそり抜け出してきたのでは? いまごろ、部下の方々が必死に探しているのでは?」

「む、むむ……ワシは、もうさっさと王位を降りたいんじゃが……ぐぅ……はぁ、帰るか。あまり遅くなっては、またネチネチと小言を言われてしまう」


 リリアの想像通り、ラグナはなにも言わないまま王城を抜け出してきており、いつものこととはいえ……いや、いつものことだからこそ、部下に小言を言われるのは分かっていた。

 ラグナはガックリと肩を落として溜息を吐いた後、大槍を担ぎ直し、手を振りながら去っていった。


 その後姿を見送った後、リリアは近くに待機していたルナマリアとジークリンデに話しかける。


「……私達も、帰りましょうか」

「はい……しかし、えっと、お嬢様? 今回はいったいなんだったんですか? フィーア先生が関わってるのは、分かりましたが……詳しい事情がよく」

「実は私も詳しくは知らないんですよ……まぁ、カイトさんが戻ってきたら聞いてみましょう」

「う~ん、なんでしょう。この状況、布陣、集まった方々……そしてカイトさんも関わっているということは……またリリが気絶するような事態なのでは?」

「……不吉なことを言わないでください、ジーク。まぁ、大丈夫です。もうカイトさんは六王様とも最高神様とも会って、災厄神様とも簡単に今回挨拶しましたし、ラグナ陛下とも今回の件で知り合った……もう、他にとんでもないことなんてあるわけないですよ」


 不安そうに告げたジークリンデの言葉を受け、リリアはまるで自分に言い聞かせるような言葉と、少し引きつった笑みを浮かべる。


「……実は生き残っていた魔王が、フィーア先生を狙っていた。とかかもしれませんよ?」

「ふふふ、魔王が生きていたりなんかしたら大事ですね……でも、それだとゼクス様たちと戦う理由がありませんから、たぶん冥王様絡みなのでは?」

「あ~それが一番可能性が高そうですね」


 実はニアピンだったルナマリアの発言を、リリアは笑い飛ばし、アニマ達にも声をかけて屋敷へと戻っていった。

 ジークリンデの不吉な予感が、後に現実のものとなるとは思わないまま……。










 リリア達や魔族が帰った後、最後まで残ったゼクスとシアが軽く言葉を交わす。


「……しかし、やはりミヤマ殿は凄いですな。貴女様を始め、これだけ多くの味方を得るとは……」

「別に私はアイツの味方じゃない。というか私は、アイツのことは『嫌い』だ」

「おや? そうなのですかな? しかし、その割にはずいぶん熱心に手助けされていたようですが?」

「……馬鹿馬鹿しい。あの人間が力を貸してくれと頭を下げるから、協力してやっただけだ」

「それはミヤマ殿を好ましく思っているということではありませんか?」


 快人を嫌いだと告げるシアに、ゼクスは好ましく思っているからこそ力を貸してくれと頼まれて応じたのではないかと聞き返す。

 するとシアは大きく溜息を吐いた後、ゼクスに背を向けて歩きだしながら口を開いた。


「……死霊の大賢者。一つ教えておいてやる」

「はて?」

「感情なんてものはな、単純なプラスマイナスじゃないんだよ。好きの反対が嫌いじゃない……世の中にはな『嫌いだけど好き、好きだけど嫌い』っていう、ややこしい感情もあるんだよ」

「……ふむ……では、貴女にとってのミヤマ殿は?」


 ゼクスの問いかけに、シアは一度足を止め……振り返らないままで、口元に微かに笑みを作って呟く。


「……まぁ、いまのところギリギリ及第点ってところだな。次があるなら……また手を貸してやってもいい」

「ほぅ、それはそれは……要するに、口では色々言いつつも好ましく思っているのでは?」

「……いまの話をどう聞いたら、そういう発想になる?」

「いえ、どう聞いても、貴女様がミヤマ殿を評価しているとしか聞こえませんでしたが……ああ、なるほど!」

「……うん?」


 明らかに苛立った口調に変わるシアに対し、ゼクスはあくまで飄々とした口調で話しながら、ふとなにかを思い付いたように手を叩く。


「……アレですな。これは、噂の『ツンデレ』というやつですな」

「……は? 違う。なに言ってるんだお前……」

「嫌い嫌いといいながら、実は……というやつですな」

「そんなわけあるか!? 私はアイツが嫌いだと……」

「でも、好きでもあるのでしょう?」

「なぁっ!?」


 先程までの落ち着いた様子から一変……いや、上級神筆頭という仮面がはがれたシアは、慌てた様子でゼクスの言葉を否定する。

 しかしゼクスは、愉快そうに笑いながら、なおも言葉を続ける。


「いや~ミヤマ殿は幸せ者ですな。災厄神様にも好かれているとは……」

「う、うう、うるさい! 違うって言ってるでしょ!? 死ねっ! くされ骸骨!!」

「お、おや!? ちょ、ちょっと!?」


 みるみる顔が赤くなっていったシアは、いつの間にか取り出した大鎌を手に、踵を返してゼクスに向かう。

 デリカシーの無いリッチに、制裁を加える為に……。



 


シリアス先輩「なんだろう、この……自分自身に裏切られた感……」

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― 新着の感想 ―
[一言] そういや最近新しい形のツンデレを見たな… お前ウザい!!(でも好き) お前うるさい!(でも好き) V〇uberはいいぞォ…( ≖ᴗ≖)
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