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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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正面から押し通ってみせる



 俺をフィーア先生には会わせない。この先へは通さないと……そう告げたノインさんは、戦闘の構えになるわけでもなく、甲冑の仮面を外し……日本刀を脇に置いてから、地面に三つ指をついた。

「なにを……?」
「お願いします。快人さん、どうかこの件にはもう関わらないでください」

 土下座の姿勢のまま、悲痛にすら感じられる声で関わらないでくれと言ってくるノインさん。
 もちろんそれで「はい、そうですか」と納得することはできないが、地面に頭を擦りつけるようにして嘆願する姿の前に、ロクな言葉なんて出てこなかった。

「……理由を聞いてもいいですか?」
「……貴方がフィーアと話せば……彼女は深く傷つきます」
「……どういう、ことですか?」
「貴方は、クロム様を救ってくれた……そのことに関しては、心から感謝しています。しかし、同時に貴方は……『フィーアが出来なかったことを、成し遂げてしまった存在』でもあるんです」

 そう告げられると、反論の言葉は浮かばない。あくまで俺は、クロを救おうとして救ったわけではない。それでも、結果からみれば長い呪縛から彼女を解き放つことができた。
 それはむしろ誇らしく思うが……なるほど、フィーア先生にとって俺の存在は……自分の無力さを感じるものでもあるってことか……。

「……フィーアは、もう何百年も……ずっとずっと苦しみ続けてきました。涙を流しながらいまは亡き被害者に謝り続け、ずっと自分を追い込みながら贖罪を続けてきたんです」
「……」
「フィーアはもう許されてもいいはずです。なのに、彼女は贖罪を辞めない。フィーアは自分自身を永遠に許さない。ずっと苦しみ続ける……だから、もう、これ以上フィーアを追い詰めないでください。どうか、そっとしておいてあげてください……お願いします」
「……」









 『教会のある通りから離れ』、アテも無く足を進める。
 頭には先程のノインさんとのやり取りが、ずっと浮かんで離れない。
 ……俺の見通しは、甘かったのかもしれない。

 フィーア先生を上手く説得して、クロと会わせることができれば……それで解決するんじゃないかって思ってた。
 でも、確かにそれはフィーア先生を大きく傷つけてしまうかもしれない。いま以上に深い苦しみの中につき落してしまう可能性もある。
 出来るだけ穏便に片付けたいって思ってた。だけど、ノインさんはそんな俺の前に立ちはだかった。フィーア先生に接触しようとすれば、ノインさんとの衝突は必至……穏便になんて片付くわけがない。

 もう、いいんじゃないかな? 俺はどうせ部外者なんだし、フィーア先生とクロを会わせたいなんて、独りよがりの我儘でしかないんじゃないか?
 クロも、フィーア先生も……会わないって言ってたんだから、首を突っ込む必要なんてない。

 諦めてしまえばいい……なのに、くそっ……なんで、こんなにもやもやするんだ。
 もう、本当にどうすればいいか、わからな……。

「はい! まいどあり『超激辛クッキー』だ」
「……んっ」

 俯きながらトボトボと歩いていると、そんな声が聞こえてきて、反射的に顔を上げる。
 すると、見覚えのある方と目が合い……その相手は、心底嫌そうに顔を歪めた。
 知り合いなのにここまで辛辣な反応をするのは……間違いなく、以前ハイドラ王国に行った時に知り合った災厄神……シアさんだ。

「……シアさん」
「……ちっ」

 この容赦ない舌打ちである。
 シアさんはそのまま俺をジロリと睨むと、苛立ったような口調で口を開く。

「……なんだその、不抜け切った顔は……見ていてイライラする。理由があるんなら、言ってみろ……どうせくだらない話だろうが、聞くだけ聞いてやる」
「……」

 怒気満載の声ではあるが……あれ? これ、もしかして「浮かない顔してるぞ、どうしたんだ? よければ相談に乗ろうか?」ってこと?
 あ、相変わらず分かりにくい優しさ……。

「え、えっと、では、少し相談してもいいですか?」
「……ちっ」
「……え? あ、いや、無理にとは……」
「なにをしてる、さっさと来い。そこの広場にベンチがある……私は暇じゃないんだ。手短に話せ」

 う、うん。やっぱりなんだかんだ文句言ってても、ちゃんと話は聞いてくれるらしい。

 俺はシアさんに連れられ、近くにある広場のベンチへ移動し、シアさんと並んで座ってから……今回の件について話し始めた。
 シアさんが何処まで知っているか分からなかったので、最初にそれとなく「フィーア先生という医者について」と茶を濁しながら話しだしてみた。すると、「ああ、元魔王のことか」と返ってきたので、シアさんは事情を知っていると認識して全てを話すことにした。









 フィーア先生のこと、クロのこと、ノインさんのこと……俺がどうすればいいか分からないということ。
 その全てを話し終えると……シアさんは、心底つまらなそうな顔を浮かべる。

「……馬鹿か、お前は? 初代勇者も呆れ果てた大馬鹿だが、お前はもっと酷い」
「うぐっ……い、いや、俺だって馬鹿なことを考えてるってのは……」
「そうじゃない。人間風情が、どこまで思いあがる気だと、そう言っている」
「なっ!?」

 シアさんは冷たい目で俺を睨みつけながら、厳しい一喝を浴びせてくる。

「お前は、自分が救いたいと思った相手……その全てを救えるとでも思っているのか? 思い上がるな。お前は矮小な存在だ。お前一人じゃ、ロクなことなんて出来やしない」
「……それは、俺だって……」
「分かっているというなら、なぜお前は『一人』でここに居る?」
「え?」
「……お前は矮小だ。だが、お前はその気になれば、この世界の根底を変えることすら出来る力を持っているはずだ。なぜ、それを使わない?」
「……そ、それは……」

 シアさんはつまり、こう言いたいみたいだ。なぜ六王や最高神の力をアテにしないのかと……なぜ、周りに助けを求めないのかと……。
 正直、今回の件に関しては……六王は皆当事者であり、フィーア先生とも家族……だから、この件には関わらせたくなかった。
 それはなぜか? ああ、そうだ……どうあっても、フィーア先生を傷つける結果になるって、ノインさんに言われるまでもなく分かっていたからだ。

 っと、そんなことを考えていると……不意に胸倉を掴まれ、シアさんが俺を睨みつけてきた。

「……甘ったれるな。お前は初めから部外者で、その上問題はかなりデリケート……穏便な解決なんてないんだよ」
「っ!?」
「なら、どうする? あくまで小奇麗なままで、平和的な解決を~と偽善者面をするか? それとも、泥にまみれても……己の我を押し通すために牙をむくか? お前自身で考えろ!」
「……シアさん」
「お前は清く平和的な聖人か? それとも、我儘で醜い獣か?」

 そう告げてシアさんは俺の胸倉から手を離し、ベンチから立ち上がる。
 その光景をぼんやりと眺めながら……不思議と俺の頭の中では、もやもやしたナニカが晴れていく気がした。

 そうだ。シアさんと言う通りじゃないか……俺は初めから部外者で、発端なんて俺の我欲……クロとフィーア先生に仲直りして欲しい、クロの悲しむ顔が見たくない。そんな身勝手な欲望だ。
 なら、どうする? これは俺の我儘で、それを貫き通すには障害がある……答えなんて決まっている。

「……長く話し過ぎたな、後は勝手に悩め」
「シアさん!」
「うん? まだなにかあるのか?」

 その場から去ろうとしていたシアさんを、大きな声で呼びとめる。
 そしてシアさんが振り返えると、俺は即座に立ち上がって頭を下げた。

「ありがとうございました!」
「……ふむ、つまり、そういうことか?」
「……はい。どうやら俺は我儘で醜い獣の方だったみたいです。俺はフィーア先生とクロを再会させたい……いや、『無理やりにでも再会させます!』」
「なら、六王の力を借りるのか?」
「……いえ、六王の力を借りないことは最初に決めました。最高神に関しても、どこまでフィーア先生と関わりがあるのか分からない以上、助けは求めません」
「それは、まぁ、ずいぶんと我儘なことだ……なら、どうやって初代勇者を突破する?」

 試すような口調ながら、どことなくその言葉には優しさがあった。
 まるでこれから俺が言おうとしていることは、すでに分かっているとでも言いたげに……。

「俺一人じゃノインさんを掻い潜ってフィーア先生の元には辿り着けません……だから、お願いします! 力を貸して下さい!」

 一度顔を上げてからもう一度深く頭を下げ、シアさんに力を貸してほしいと伝える。
 シアさんがフィーア先生と直接の面識はなく、あくまで知っているだけと言うのは先程聞いたし、実力も申し分ない。
 そんな俺の頼みを聞いたシアさんは、少し沈黙した後……どこか楽しげに口を開いた。

「……ふんっ、さっきまでよりはマシになったな」
「……じゃあ」

 シアさんの声を聞いて顔を上げると、シアさんは微かに口元に笑みを浮かべた後、俺の方に手を差し出してきた。

「いいだろう、『カイト』。私は慈悲深い女神だ……力が欲しいと頭を下げるなら、応えてやろう!」

 そうして初めて俺の名前を呼び、シアさんは協力を快諾してくれた。

 拝啓、母さん、父さん――どうやら俺は清く正しい聖人でもなければ、諦めの良い世渡り上手でも無いみたいだ。己の我儘を貫き通し、フィーア先生をクロの前に引きずり出す……そう、話は単純。ノインさんが立ちふさがるなら、俺は――正面から押し通ってみせる。



シア先輩は作中でも貴重な、快人を叱りつけてくれるヒロイン。実際とっても優しい。
+注意+
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