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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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幸せな思い出を形に残した



 光の月17日目。リリアさんから聞いた話ではあるが、この光の月というのは元々は『地の月』という名前だったらしい。
 一年の真ん中が地の月、一年の終わりが天の月という感じだったんだが、初代勇者の功績を称えるということで、地の月から光の月へと昔名前が変わったらしい。
 まず、間違いなくノインさんは悶絶したことだろう。自分の名前が暦になるなんて、投身ものの恥ずかしさだと言える。

 なぜ今そんなことを思い出したかというと、現在俺は初代勇者であるノインさん縁の地へと向かっているからだった。

「……カイト……大丈夫? ……疲れて……ない?」
「大丈夫ですよ。今日はいい天気ですし、気持ちいいですね」
「……うん……晴れてて良かった……雨だったとしても……『雲消し飛ばした』……けど……晴れて……嬉しい」
「そ、そそ、そうですね!?」

 サラッと雨天の場合は雲を消し飛ばして結構してたと告げるのは、俺と手を繋ぎながら歩くアイシスさん。
 そう、昨日リリウッドさんに提案した通り、今日はアイシスさんとデートすることになり、一緒に出かけていた。

 勇者祭の準備があると言って断られる可能性も考えてはいたが……ハミングバードを送ったら、2秒で「行く」と返事が来た。
 そして現在は二人で、王都からは少し離れた高原をのんびりと歩いている。

 今回の目的は、以前アイシスさんと約束した思い出の収集……本に出てきた場面に実際に行ってみて、記念品を持ち帰る。
 アイシスさんは色々と希少な品も採取していたみたいだが、今回は俺が初めてということで、比較的簡単に手に入るものを取りに行くことになった。まぁ、早い話がピクニックみたいな感じだ。

 目的の品は初代勇者の冒険が書かれた本に載っていた花で、以前クロとのバーベキューで見たライトツリーに近い性質を持ち、夜になったら発光する「ナイトフラワー」だ。
 この花は日当たりのいい高原によく群生しているらしく、見つけるのは簡単らしい。

「……カイト……今日……お弁当……作ってきた……後で……一緒に……食べよう?」
「おぉ、それは凄く楽しみです。ありがとうございます」
「……ふふふ……うん……どういたしまして」

 今日は白を基調としたデザインで、フリフリのいっぱいついたゴシックドレスを着ているアイシスさんが、俺の言葉に嬉しそうに微笑む。
 その可愛らしい笑顔に癒されつつ、急ぐわけでもないのでのんびり雑談を交えながら歩いていく。

「そういえば、六王祭の準備、色々大変みたいですけど、疲れてないですか?」
「……うん……大丈夫……私は……物作りは……上手じゃないから……リリウッド達に迷惑かけてる……けど……いっぱい頑張る……カイトにも楽しんでもらえるように……頑張る」
「な、なるほど……が、頑張ってください! 応援しています!」
「……うん!」

 あれだ、俺は今リリウッドさんの気持ちがよくわかった。この健気な感じ……文句なんて言えない。
 アイシスさんが一生懸命頑張ろうとしているのは、それはもう痛いほど伝わってくるし、こういう行事に関われるのが嬉しいという気持ちもわかる。
 俺は、心の中でリリウッドさんの冥福を祈りつつ……アイシスさんを遠回しに説得することは諦めた。

「……ふふ……」
「アイシスさん、楽しそうですね?」
「……うん……カイトとデート……楽しい……会話も……見える景色も……なんでもないことが……全部……全部……幸せ」
「……アイシスさん」

 あぁ、もう! なんでこの人はこんなに可愛いかな! そんな幸せそうに笑われたら、反射的に抱きしめたくなってしまう。
 というか、うん。別に恋人なんだしそれぐらいいよね? セーフだよね? うん、セーフだ……抱きしめよう。

「……あっ」
「……」
「……カイト?」
「あっ、すみません。つい……」
「……ううん……嬉しい」

 強く抱きしめれば折れてしまいそうな、華奢なアイシスさんの体をすっぽりと腕に納める。
 アイシスさんは特に抵抗したりすることはなく、むしろ幸せそうに頬を赤くして俺に微笑みかける。

 なんでもないことが幸せ。たしかに、アイシスさんのいう通りだ。
 アイシスさんの些細な仕草一つ一つが、どうしようもなく愛おしい。
 抱きしめる俺の手にそっと手を添える仕草も、こてんと頭を俺の胸に当ててくる仕草も、可愛らしくてたまらない。

「……アイシスさん」
「……カイト」

 そのまま美しい赤い瞳を見つめながら名前を呼べば、アイシスさんは俺の名前を呼んで目を閉じる。
 それがごく自然なことのように、俺達の唇は触れ合い、互いの幸せだという思いと愛情を伝え合う。

 なお、この後も似たようなことをしてたびたび立ち止まり、進行が大幅に遅れたのは言うまでもない。







 途中でお昼休憩をはさみつつ、ことあるごとに立ち止まっていたので、予定よりかなり遅れてナイトフラワーの群生地に到着した。
 辺り一面に広がる色とりどりの花々……まるで、花の絨毯のように見えその場所で、俺はアイシスさんの肩を抱きながら座っていた。

「……昼に見ると、普通の花って感じですね」
「……うん……でも……暗くなると……すごく……綺麗」
「なるほど……どうします? 日が落ちるまで数時間ってところですけど……」
「……カイトが……嫌じゃないなら……しばらく……こうしてたい」
「ええ、もちろん。喜んで」

 俺の方に頭を乗せながら、甘えるように囁くアイシスさんの声。周囲を花に囲まれたこの場所で、こうして並んで座っていると、本当にいい雰囲気って気がする。
 アイシスさんも同じ気持ちみたいで、時間を惜しむように俺の手に自分の手を重ね、指を絡めながら体ごともたれかかってくる。

 鼻孔をくすぐる花の香り、少し視線を下げればアイシスさんの綺麗なうなじがドレスの隙間から見えて、妙にドキドキする。
 しかしそのドキドキも、決して居心地が悪いようなものではなく、なんていうのか、胸の奥から痺れるような温かさが湧きあがってくる感じだ。

 そのまま俺とアイシスさんは、周囲の花々が夜の訪れと共に幻想的に輝くまで、一時も離れることなくくっついていた。
 そして名残惜しみながら、ナイトフラワーを収集し……今日という日の思い出を形に残した。

 余談ではあるが、「……カイトと一緒に作った思い出……すごく……嬉しい」とはにかむアイシスさんがあまりにも可愛らしく、再び抱きしめて深くキスを交わした結果、想像以上に帰宅が遅くなったのはご愛敬だ。

 拝啓、母さん、父さん――やっぱりアイシスさんは凄く可愛くて、愛おしくて、こんな人が自分の恋人だと思うと、本当に幸せだと実感する。そんな温かな想いを感じつつ、今日、アイシスさんとの――幸せな思い出を形に残した。



シリアス先輩「もっ……マジムリ……アイシスヤメテ……ツラィ……」
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