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悪は滅びた



 数日間アリスの家に泊まり、光の月13日目に俺はリリアさんの屋敷に戻って来た。

 結構久しぶりって気もするが、やっぱりなんか……帰ってきたって感じだ。


 ホッとするような気持を味わいつつ、屋敷の玄関の扉が……何故か勢いよく扉が開かれた。


「あれ? ルナマリアさん?」

「こ、これはミヤマ様!? お、お帰りなさい……ちょ、丁度良いところに!」

「……へ?」

「た、助けてください!?」


 飛び出してきたルナマリアさんは、ものすごく慌てているようで、悲痛な表情で助けてくれと告げ、俺の後ろに回り込んで隠れる。

 一体なにがあったのかと戸惑っていると、直後に屋敷全体が揺れるような怒声が響く。


「ルナぁぁぁぁぁ!!」

「ひぃっ!?」

「なっ!?」


 空気が震えるようなリリアさんの大声は凄まじい迫力で、名前を呼ばれたわけでもない俺までビクッとしてしまう。

 そして屋敷の扉から地獄の鬼もかくやというような形相で、怒りのオーラを纏ったリリアさんが現れた。


 い、いったいなにをしたんだルナマリアさん!? リリアさんが修羅になってる……こ、怖すぎる。


「『あの部屋』には入るなと何度言えば……いえ、そもそも、入っただけならまだしも……よくも、あんなことを!」

「お、落ち着いてください、お、お嬢様……じ、事故です! 事故なんです!!」


 なんだ? あの部屋? 入っただけならともかく? 本当になにをしたんだ? いったいどうすれば、あの優しいリリアさんがここまで激昂するんだろう?


「よくも! 私の『テンペストドラゴンの模型』を壊しましたね!!」

「も、申し訳ありません!? ワザとではないんです!!」

「……へ?」


 え? なに? なんて言った、いま? ドラゴンの……模型?


「今日という今日は許しませ……ん……よ?」

「……え、え~と……」


 リリアさんは怒りのままにこちらに近付いて来ていたが、途中で俺の存在に気付いたのか硬直した。

 大変気まずい沈黙が俺とリリアさんの間に流れ、リリアさんの顔に大量の汗が流れ始める。


「……か、カイトさん? い、いつ、お帰りに?」

「え、えっと……ついさっきです。それで、その、ドラゴンの模型というのはいったい……」

「あっ、い、いえ、な、なんのことでしょう? ど、ドラゴンの模型? ちょ、ちょっと、すぐには、心当たりがありませんね!?」

「……」


 ……リリアさん、誤魔化すのが下手過ぎる。視線が左右に高速移動してるじゃないか……嘘付けない人だなぁ……。

 し、しかし、リリアさんがドラゴン好きというのは知っていたが、まさか模型も持っていたとは……けど、俺は半年近く屋敷で生活してきたけど、そんなもの一度も見たことが無いような。


「……お嬢様の趣味です」

「ルナッ!?」

「え? リリアさんって、これといった趣味は無いって……」

「ええ、本人としては隠しているつもりらしいです……」

「ま、待ちなさい、ルナ。なにを言うつもり……」


 俺の疑問にルナマリアさんが答えると、リリアさんは目に見えて動揺し始める。


「……お嬢様の執務室の隣には『隠し部屋』がありまして……そこに、こっそり、ドラゴンの模型とか鱗をコレクションしています」

「……ルナ。命令です。ただちに黙りなさい……へし折りますよ」

「ひぃっ!?」


 へし折るって、なにを? いや、深く詮索はしないでおこう……恐ろしいから。


「り、リリアさんに、そんな趣味があったんですね……」

「え? あ、ち、違うんです、カイトさん!? あ、あくまで、ほんの少し……数点だけ収集した程度で……」

「……ちなみに昨日までの時点でコレクションの数は『300点』です」

「……ルナ、本当に黙りなさい。それ以上余計なことを言ったら、体のサイズが半分になるまで押しつぶしますよ」

「……りょ、了解しました! 以後発言しません!」


 とんでもなくドスの利いた声で告げるリリアさんを見て、ルナマリアさんは完全に俺の背中に隠れて沈黙した。

 流石のルナマリアさんでも、いまのリリアさんに逆らうことが出来ないらしい。


 し、しかし、このままじゃちょっといたたまれない……なにか、フォローを……。


「い、いいんじゃないですかね? そういう趣味が持てるってことは、それだけ余裕があるってことですし……」

「そ、そうでしょうか? その……げ、幻滅したりしませんか?」

「え? なぜですか?」

「いえ、その、しゅ、淑女らしくない趣味なので……」


 ああ、なるほど、女性らしさを気にして隠してたのか……別に気にする事無いと思うんだけどなぁ。

 頬を染め、チラチラとこちらの様子をうかがってくるリリアさんを見て、俺は肩の力を抜いて微笑みを浮かべてから口を開く。


「そんなことないですよ。趣味なんて人ぞれぞれなんですから、なにも恥ずかしがることなんてないです。それに、俺もドラゴンはカッコいいと思いますよ」

「そ、そうですか……か、カイトさんがそう言ってくださるなら……安心しました」


 リリアさん、可愛い。ホッと胸を撫で下ろす仕草がとにかく可愛い。本当にこの人は、いい意味で年上らしくないというか、普段のしっかりしている姿とこういう姿のギャップが魅力だと思う。


 そこでふと、ランダムボックスで手に入れたドラゴンの模型のことを思い出した。アリスの情報では、リリアさんが欲しがってた物らしいし、丁度いいタイミングだからここで……。


「そ、そういえば、リリアさん。こんなものを手に入れたんですけど……」

「……え? なっ!? そ、それは、まさか……ランダムボックス初期ロット限定のエンシェントグラウンドドラゴンの模型!? ど、どこで手に入れたんですか!? 教えてください! お願いします!!」


 なんか予想を遥かに超える勢いで喰いついてきた!?


「お、落ち着いてください……アリスの店で、たまたま手に入れたんですが……よろしければ、差し上げますよ」「え? えぇぇぇ!? い、いいんですか? ほ、本当に? だ、だってこれは、初期ロット限定で、もう手に入らない貴重な……」

「ええ、俺が持っていても仕方ないので……大事な恋人にプレゼントということで」

「……か、カイトさん……」


 微笑みながら告げると、リリアさんは感極まったように目に涙を浮かべ、震える手でその模型を受け取る……リアクション大袈裟すぎませんかね!?

 そして、受け取った模型を大切そうに胸の前で抱きしめ、幸せそうな笑顔を浮かべてくれた。


 その愛らしい姿に見惚れつつ、リリアさんが喜んでくれて、俺自身も嬉しさがこみあげてくる。

 するとそのタイミングで、背中から小さな声が聞こえてきた。


「さ、流石はミヤマ様……怒り狂ったお嬢様をこうもアッサリ……このルナマリア、感服しました」


 ……別にお前のためにやったわけじゃねぇよ、駄メイド。

 う、う~ん。リリアさんが喜んでくれたのは良かったけど……隠し部屋に侵入して、事故とはいえリリアさんの大事な模型を壊したルナマリアさんを、このまま無罪放免というのも納得できない。

 うん、ほら、リリアさん俺の恋人だし……優先するなら当然そっちだよね。


 そんなことを考えつつ、俺は視線を動かし……大きく息を吸い込んで声を出す。


「ベル~! ルナマリアさんが遊んでくれるらしいから! 思いっきり遊んでもらうといいよ!!」

「……へ? え? み、ミヤマ様!? な、なにを……」

「ガルァァァァ!」

「へぁっ!? ま、待って……な、なんで普段全然懐いてない癖に、そんな全力疾走でこっちに……あっ、そうか、ミヤマ様が指示を出したから……あっ、あぁ……みぎゃぁぁぁぁ!?」


 指示を出すと同時に、俺は素早くルナマリアさんから離れる。

 状況に付いていけていないルナマリアさんは、猛烈なスピードで向かってくるベルを見て、顔を青くして逃げ出した。


「ベル……そのまま、2時間ぐらい追いかけっこしておいで~」

「ガゥ!」

「み、ミヤマ様!? そ、そんなご無体な……ど、どうか慈悲を……って、うぉぉぉ早ぁぁぁぁ!?」


 必死の形相で逃げるルナマリアさんだが、ベルにはちゃんと遊ぶようにって指示を出してる。ベルは賢い子だから、ちゃんと加減をしてくれる。

 つまり、ギリギリルナマリアさんが逃げられる、適度な速度で追い続けてくれるだろう。


 叫びながらこちらにSOSを送るルナマリアさんだが、完全に自業自得なので無視をして、いまだに幸せそうな顔をしているリリアさんを連れて屋敷の中に入った。


 拝啓、母さん、父さん――久々に帰って来た屋敷で、さっそく遭遇した厄介事。いつも通りのルナマリアさんの悪戯だったが、上手く処理できたと思う、うん、つまり――悪は滅びた。

 




リリア:趣味・ドラゴン関係品の収集(本人は隠しているつもり)


後言い忘れてましたが、次の番外編はエイプリルフールです。ちょっとやりたいネタがあるので……

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― 新着の感想 ―
[一言] 模型の修復なら天才美少女のアリスちゃんに頼めば直してくれるべ。
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