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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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バレンタイン番外編~アニマ&イータ&シータ~

本日十四話目。


 木の月13日目。明日にバレンタインを控え、今日チョコレートを作る女性も多い。
 そして、とあるキッチンでも三人の女性がチョコレート作りに勤しんでいた。

「む、むぅ……」
「やっぱり、イータはガサツ。そんな廃棄物みたいなチョコをご主人様に渡すなんて……駄目。作り直し」
「く、くぅ……シータ、貴様。少し、料理が得意だからと言って調子に乗って……」
「違う。少しじゃない。私の方がイータより『圧倒的』に料理は上手い。これは純然たる事実」
「ぐ、ぐぬぬ……」

 挑発的に話すシータの言葉を受け、イータは額に青筋を浮かべるが……教わっている立場なので、あまり文句も言えずに口を歪める。
 シータの方は滅多にないイータが逆らえない状況を楽しんでいるらしく、意地の悪い笑みが浮かんでいる。

「そもそも直前になって苦戦してるのが間違い。もっと早くから練習しておくべき。イータには計画性も無い」
「ぐぅぅ……くそっ……返す言葉もない。悪いが、もう一度作り方を……」
「……先生」
「……なに?」
「人にものを教わる時は、それなりの態度がある。先生、教えてください……でしょ?」
「こ、こいつ……水を得た魚のように……」

 ニヤニヤと笑みを浮かべるシータを、歯を食いしばりながら見つめるイータだが……実際シータに教わらなければ、彼女だけではチョコレートをまともに作れない。
 主人である快人に贈るチョコ……当然美味しい方がいいに決まっている。

「……お、お願いします……せ、先生……」
「よろしい」
「くそっ……覚えていろよ……」
「なにか言った?」
「な、なんでもありません」

 悔しそうに告げるイータを見て、シータは満足げに頷き調理を再開する。
 屈辱を快人への想いで抑え込み、恥を忍んで教えを乞うイータだが……既にブチ切れそうな状態で、そう長く持つはずもなく……何度目か、毒の混ざった口調で注意され……。

「こ、この、もう我慢ならん! 人が下手に出てれば調子に乗って……表へ出ろシータ!」
「……上等」

 即座に喧嘩に発展し、それぞれ槍と盾を取り出すが……忘れてはいけない。この場で作業をしているのは『三人』であるということを……。

「減らず口を叩けないように――いっ!?」
「ぎゃんっ!?」
「いい加減にしろ、大馬鹿共が!!」
「「あ、アニマ従士長……」」

 イータとシータの頭に高速でゲンコツを叩き込み、空気が震えるような怒声を放つアニマ。
 その怒気に気圧され、二人は殴られた頭を押さえながらアニマの前で膝をつく。

「ご主人様にお贈りするものを作っているというのに……貴様等には、ご主人様の従者としての自覚が足りん!」
「は、はい。申し訳ありません」
「ご、ごめんなさい」
「まったく……イータ、シータの毒舌はお前が一番よく分かっているだろう。いちいち喧嘩腰になるな!」
「は、はい」
「シータ、お前もいちいち挑発しながら指導するな。教えるならしっかりとやれ!」
「わ、分かりました」

 アニマは二人を叱りつけ、その後で指示を出してから自分の調理に戻る。
 その後姿を見て、イータとシータは顔を見合わせ……一度逸らしてから、もう一度顔を見合わせる。

「……イータ。その、ごめん」
「いや、私の方こそ短気だった。指導を頼む」
「うん。任せて」

 イータとシータは、喧嘩するのも早ければ仲直りするのも早い。
 仲直りをして微笑みあい、再び調理を開始する姿を横目で見ながら、アニマはフッと優しげに微笑んだ。

「そういえば、アニマ従士長も料理は得意なんですか?」
「いや、どちらかというと不得手だ」
「そうなんですか……でも、凄く……手際いい」
「まぁ、ジーク殿に指導を賜ったからな。しっかりと備えはしてきた」

 アニマはバレンタインのために親交のあるジークリンデに、数ヶ月前から調理を教わっていた。
 アニマのなによりの長所はその愚直さであり、苦手な料理も一心不乱に練習し続けることにより、チョコレート作りだけならかなりの腕前になっている。

 そこでふと、アニマはなにかを思い出したようにイータの方を向き、ニヤリと微笑む。

「まぁ、そういう点では……前日になって~というシータの言葉にも一理ある」
「うぐっ、か、返す言葉もありません」
「ふふふ、シータも自分のチョコレート作りが遅れるようなら、自分が指導を引き継いでやるから、声をかけろ」
「はい。ありがとうございます」
「イータも、筋は悪くないんだ。もう少し一つ一つの作業を丁寧に行ってみるといい」
「はっ!」

 快人の従者になって数年。アニマは努力家な部分をしっかりと発揮し、今では立派なまとめ役となっており、快人にも頼りにされていて、それを心から誇りに思っている。
 だからこそ、快人と婚姻を結んだ今も、快人を「ご主人様」と呼び従者であり続けようとしている。

 尤も……彼女がいま作っている大きなハートのチョコレートを見れば、アニマの心に宿る想いが主と従者という枠組みを大きく超えているのは、簡単に想像できるし、彼女自身も自覚している。

「それでも、それを笑って嬉しいと言ってくれるご主人様だから……自分は、この過ぎた想いを隠さなくて済んでいるんですけどね」
「……え? アニマ従士長? なにか言いました?」
「いや……通常の仕事もあるんだ、手早く済ませるぞ」
「「はい!」」

 思わず呟いた言葉は、幸運にも『二人には』聞こえなかったみたいで、アニマは少しだけ顔を赤くして調理を再開する。

 そしてそんなアニマの立っている位置のすぐ近く、キッチンの扉の先では……なにか飲み物でも飲もうと、キッチンに入ろうとしていた快人が、照れたように頬をかき……背を向けてその場から去っていった。
 その口元は、本人は気づいていないだろうが……幸せそうに笑っていた。



こういう偶然聞いちゃった系好き。
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