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心に引っかかる気がする



 一夜明け、アリスが作ってくれた美味しい朝食を食べた後で、俺とアリスは軽く遊んでいた。


「……おっ」

「おっと、レベルアップですね。ふふふ、追い上げますよ~」


 アリスが回したルーレットの目が4を示し、駒を四つ動かすとレベルアップマスだったようで、アリスは明るい笑みを浮かべる。

 現在俺とアリスがプレイしているのは、俺の世界でも見覚えのある……いわゆる、すごろくだった。


「しかし、よく出来てるなぁこの……『勇者すごろく』だっけ?」

「ええ、すごろく自体はカイトさんの世界から伝わってきましたけど、この勇者すごろくは広く浸透しましたね。今では、大抵の子供なら一度は遊ぶ定番品です」


 この勇者すごろくは、初代勇者の旅を再現したものらしく、駒を進めて魔王を倒せば上がりという……ノインさんが悶絶しそうなすごろくである。

 駒にはレベルがあり、レベルアップマスに止まることで上昇する。道中の魔物マス等でレベル判定があり、レベルが低いと戻されてしまったりする感じで、中々に楽しい。


 しかも小さなものではあるが演出用魔水晶が搭載されているらしく、所々で魔物の鳴き声が聞こえたり、光による演出があったりして、結構手が込んでる。

 大人から子供まで楽しめそうだ。


「しかし、こうしておもちゃにまでなってるのを見ると、改めてノインさんって尊敬されてるんだって実感する」

「そりゃあ、彼女はこの世界の英雄ですからね。少数人で魔王を打ち破り、世界を平和にした……分かりやすいヒーローですよ」

「……それで思い出したけど、ノインさんのパーティーって、確か魔法使い、槍使いと……万能な盗賊って、本に書かれてたんだけど……あんまり詳しいことは載ってなかったなぁ」


 以前クロに勧められて買った本には、ノインさん……勇者ヒカリの名前は記載されていたが、それ以外のパーティメンバーは、魔法使い、槍使い、盗賊と職業で書かれていて、名前は載っていなかった。

 意図的な書き方だったので、なにか理由があるんだろうとは思うが……折角ここに、当時を知るアリスが居るんだし、それについて尋ねてみることにした。


「……ああ、それは政治的な処置ですね。割と広く知られていることですが……初代勇者のパーティーメンバーの一人は、現ハイドラ国王なので……国家間の力関係に配慮して、記載しないのが暗黙の了解みたいになってるんですよ」

「へぇ……確か、マーメイド族なんだったっけ?」

「ええ、ラグナ・ディア・ハイドラ……槍使いですね」

「……なんか本には『荒れ狂う大河を槍で割った』って書かれてたけど……」

「史実ですよ。そのぐらいの力はありますよ」


 流石、初代勇者のパーティーメンバー。相当凄い人なんだろう。


「……他のメンバーは?」

「えっとですね。『森の奇跡』と呼ばれたエルフ族の魔法使いで、現エルフ族長老のフォルスさん……そして、正体すら分からない『謎の天才美少女盗賊』のハプティちゃんですね!」

「……え? アリスって、初代勇者の旅に同行してたの?」

「さぁ、なんのことでしょう? 私は謎の天才美少女盗賊ハプティちゃんとは、なんの関係もないですよ~」


 いや、絶対お前だろ……たぶん姿を変えてメンバーに潜り込んでいたんだろう。確かにアリスなら、そのぐらいのことはやってのけても不思議ではない。


「……なぁ、アリス」

「はい?」

「俺、ずっと疑問だったんだけど……いくら当時は六王が動きにくい状況だったとはいえ、お前なら……魔王を始末した上で、人界に根回しをすることも可能だったんじゃないのか?」

「……まぁ、否定はしませんよ。ヒカリさんみたいに三界の友好条約と結ぶのは難しかったでしょうが……魔王軍を始末するだけなら、いくらでも方法はありました。人族が勝ったように偽装するのも、まぁ、できたでしょうね」

「……」

「では、なぜそれをしなかったか……ここから先の話は、他の人には話さないで下さいね」

「分かった」


 これから俺が……いや、世界のほとんどの人が知らない真実を話す。そしてそれは、秘匿しておいてくれと、そう前置きをしてからアリスは話しだす。


「……当時、私達六王が魔王に手を出せなかった……いや出さなかった理由は、二つです。一つは、カイトさんも知っての通り、人界へのパイプ不足ですね」

「……」

「そしてもう一つは……私達のトップである『クロさんがソレを躊躇していた』からです」

「……クロが?」

「……魔王はですね……クロさんの『家族』なんですよ」

「なっ!?」


 アリスの告げた言葉は、本当に衝撃的な内容だった。魔王がクロの家族? じゃあ、魔王はクロに離反して、戦いを挑んだってことなのか?

 いや、なんだか、アリスの表情を見ていると……そうじゃない気がする。


「……正直、魔王が人界に侵略したのは、私達にとっても完全に予想外でした。そんなことをするような性格の子じゃなかった。私達……クロさん以外の六王にとっても、魔王は妹分みたいな存在でした。他者を思いやる優しい心を持った子で、クロさんのことを本当の母親みたいに慕ってたんです」

「……そう……なんだ」

「だからこそ、なにかとても大きな事情があるんじゃないかって……六王同士の話し合いでも、対応について、意見が割れました」

「……」

「名前は伏せますが『ぶん殴って連れ帰ればいいだろうが』、『……だめ……きっと……理由が……ある』、『しかし、ここまでのことをしておいて、なんにも手を打たぬというのもまずかろう?』、『ならばまずは、原因を探るべきではありませんか?』、って感じでしたね」

「なんとなく、誰がなに言ったかは分かる気がする」

「まぁ、『いや、もう、世界に混乱招くなら、さっさと殺せばよくないっすか?』……とか言う、空気読まない幻王もいたらしいですけどね。幻王最低っすね!」

「お前だ、お前!!」


 非常に真面目な話かと思えば、途中でふざけながら自虐ネタを入れてくるアリスに、やや呆れながら続く言葉を待つ。


「……まぁ、最終的に勇者……ヒカリさんが現れたことで、様子見ってことで落ち着きましたけどね」

「……『アリス以外』がって、ことか?」

「ええ、その通り……私は、分体をこっそりヒカリさんの旅に同行させました。ヒカリさんが魔王を上手く処理できないと判断すれば、即座に手を下す為に……まぁ、結局ヒカリさんが倒したんですけどね」

「……それで、魔王は……」

「……生きてますよ。詳細は出来れば聞かないでほしいですが……己の罪を悔いながら、今も贖罪を続けています」

「……そうか」


 それ以上言葉は出てこなかった。

 リリアさんから話を聞いた時は、魔王はどこか情けない奴で、勇者に倒されてめでたしめでたしと思っていたけど……どうも、そう簡単なことじゃないみたいだ。

 特に当事者でもあるクロは……どんな気持ちだったんだろうか? 分からない、けど、俺が気安く踏み込んでいい話題じゃないのは理解出来る。


 そんなことを考えている俺に向かって、アリスは優しい表情で微笑む。


「まぁ、カイトさんが気にすることはないですよ。これは1000年前の話で、もう終わったことですから……おっと、お茶が切れてますね。淹れてきますよ」

「ありがとう」


 確かに、アリスの言う通り……これはもう1000年前のことであり、当事者たちの中で解決しているなら、俺が関わるべきことじゃない。


 拝啓、母さん、父さん――アリスから勇者と魔王について、少し詳しい話を聞くことができた。アリスはもう終わったことだと、そう告げたけど……なんでだろう? なにか少し――心に引っかかる気がする。








 紅茶のポットを見つめながら、アリスは少し昔のことを思い出していた。


『いい加減にして下さいクロさん! 確かにあの子は誰も殺していないかもしれない。それでも便乗して攻め込んだ馬鹿共はそうじゃない! 御しきれてないのなら、あの子の責任でしょうが!』

『そうかも、しれない……でも……』

『どんな事情があるかまでは知りませんが……狂ってしまったのなら、始末して上げるのが慈悲ですよ』

『……シャルティア』

『……分かりましたよ。とりあえず、あの勇者があの子と対峙するまでは様子を見ます。それでも、どうにもならないと判断したら……私が全員殺します。それで、いいですね?』

『……うん。ごめん』

『……一言だけ、言っておきます。たとえ生き残ったとしても……正気に戻れば、後悔の火が心を焼き続ける……あの子に、救いの未来なんて訪れません』

『……』


 過去の会話を思い出しながら、アリスは用意したカップに紅茶を注ぎ……誰に向けてでもなく、一人静かに呟く。


「……あの子は永遠に苦しみ続ける。なら、もう、そっとしておいてあげるべき……そう、思ってたんですけどね」


 カップに注がれた液体に己の顔を映しながら、アリスは微かに笑みを浮かべる。


「……カイトさんならもしかしたらって、思っちゃいますね。いまもなお、己の罪に焼かれ続けているあの子にも……手を差し伸べてくれるんじゃないか……なんて、ちょっと、都合の良過ぎる期待ですかね?」


 己の恋人の優しい顔を思い浮かべながら、アリスは視線を窓に向けて遠い景色を眺める。


「……私は、ついさっき、ルーレットを回しました。カイトさんはきっと動く……他ならぬクロさんのことだから……さて、フィーアさん? 貴女には、カイトさんの手を取る勇気は……ありますか?」





快人が魔王生存を知りました。アリス編も後……3話か4話で終了です。

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