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理性を削る温もりとの戦いを



 風呂場でのハプニングのせいもあり、非常に気まずい空気の中、俺は割り振られた部屋に戻ってベッドに横になる。

 今日は本当に色々あったし、特に風呂場でのハプニングもあり、精神的に疲れているからぐっすり寝られそうだ。

 一夜明ければ、アリスの方もいつもの調子に戻るだろう……そこは信頼してる。だから今はぐっすりと休むことにしよう。


 ぼんやりと、そんなことを考えながら、俺は部屋の明かりを消して瞼を閉じた。







 ……そして、2時間が経過した。


 ぜ、全然寝付けない。なんでだ? もう時刻は深夜1時、普段ならとっくに寝ている時間だし、一日歩いたおかげで、体にはいい感じに疲労もあるはずなのに……何故か、全く眠れる気がしない。

 いや、何故かじゃないな……原因は分かり切っていた。


 そう、目を閉じ、心を空にしようとしても……先程の光景が……一糸纏わぬアリスの姿が脳裏に焼き付いていて、落ち着かない。

 もしかして、俺……溜まってるのかな? 違う……とは、言い切れない。


 思えば、デートの最中にも結構その手の話題が出たし、自分でも気付かないうちに、悶々としていたのかもしれない。

 昼に冗談でアリスの手を引き、宿屋街へ向かおうとした時……アリスの抵抗は弱々しいものだった。もしかしたら、あそこで強引に引っ張っていってたら……アリスと……。


 そんな考えが頭によぎった瞬間、再び脳裏にアリスの裸体が思い浮かび……俺は寝転んだ体勢のまま、自分の頬をグーで殴った。


 なに考えてるんだ俺は!? いくらアリスがほとんど抵抗しなかったからって、本人が心の準備が出来てないって言ってるのに、無理やり欲望を優先しようなんて最低の行為、アリスに失礼だろ!!

 そうだ、これはアレだ。デートが楽しかったせいで、ドーパミンとかアドレナリンとかが分泌されてて、眠り辛くなってるだけだ!


 無心だ。無心になれ……そう、今は心を空にして、眠りにつくんだ。


 布団を頭からかぶり、必死に眠ろうと試みる俺に対し、現実はどこまでも非情であり……直後に聞こえた控えめなノックの音に、心臓が口から出るかと思うほど驚いた。


「……カイトさん、起きてます?」

「あ、アリス? お、起きてるけど……」

「……入ってもいいですか?」

「え? あ、ああ……」


 どうしよう! 本人きちゃった!? お、落ち着け、別に変な意味じゃないはずだ。なんか用事があって来ただけだ。そう、きっと緊急を要する用事があるはずなんだ……。


 ドキドキとやけに大きく鳴る胸に手を当てながら、ベッドから起き上がり、灯りを付けてからドアのかぎを開ける。


「……こ、こんばんは……」

「……」


 そして、現れたアリスの姿を見て、言葉を失った。

 アリスは薄い水色のゆったりとした寝巻を着ていて、水玉模様で少し大きめのシャツとズボン。そして頭には三角帽を被っていて、なんというか、色んな意味でドストライクだった。


 ちょっと、アリスさん? 本気出し過ぎじゃないですか? マジで、ちょっと、可愛すぎるんだけど!?

 寝巻がアリスのウェーブがかった金髪に映えており、大きめのシャツの隙間から鎖骨の部分が垣間見え、異常なほどに可愛い。


「……カイトさん?」

「……はっ!? あ、いや、ごめん。どうしたんだ?」


 完全に見とれてた。コイツ、本当に仮面外すと、ゆるふわロングの金髪に青い目……もの凄く正統派で整った容姿だよなぁ。

 本人がたびたび自称してる美少女ってのも、誇張じゃないと思う。

 

 おっと、思考を切り替えろ。アリスがこれから大事な用件を言うはずだ。きっとなにか緊急の事態が……。


「……その『一緒に寝てもいいですか?』」

「……え? ごめん、なんだって?」


 イッショニネテモイイデスカ? なにかの呪文だろうか? 残念ながら魔法知識の少ない俺では、一体なんの魔法かは分からないんだけど……。


「だ、だから、カイトさんと、一緒に寝たいんです」

「……」


 どうやら未知の魔法というわけではなく、聞こえた言葉通り、一緒に寝ないかということらしい……良かった。

 いや、待て! なにもよくないだろ!? むしろ非常にヤバい……こんな殺人的に可愛い格好したアリスと、同じ布団で眠る? いやいや、無理だって、流石にこれは断らないと、俺の理性が……。


「……その、少し『寂しくて』……駄目……ですか?」

「いや、構わないよ。俺も丁度寝ようと思ってたところだし」


 ……駄目でした。いや、これは仕方ない。だって、あんな寂しそうな顔で言われたら、断れるわけがない。

 ぐっ、だ、大丈夫だ。まだ、まだ耐えられるはずだ……俺の理性は、まだ、死んではいない。









 カーテンの隙間から差し込む微かな月明かりだけの薄暗い室内。一人で寝るには大きいが、二人寝るには少し小さいサイズのベッドで、現在俺はアリスと向かい合って布団に入っていた。


「……ごめんなさい。わがまま言って」

「いや、でも、どうしたんだ急に?」

「あ~いえ、その、今日のデート……本当にすごく楽しくて、それで……ちょっと、カイトさんに甘えたくなっちゃいました」

「……」


 ここでアリスからのジャブ、もといストレート……このはにかむような笑顔は凄まじい威力であり、俺の理性がガツガツと削られている。

 初撃からレッドゾーンに突入しそうな理性を必死に奮い立たせ、アリスの方を向いて苦笑する。


「あっ、そうだ! カイトさん『腕枕』してもらったりしたら、駄目ですかね?」

「……ぜ、全然大丈夫だ。ど、どんとこい」

「ありがとうございます。じゃあ、失礼して……」


 しかし、ここで更なる追撃が俺を襲う。

 理性の糸がノコギリで削られているような、そんな感覚を味わいつつも、アリスの要望を了承する。

 するとアリスは嬉しそうに俺の手を持って動かし、宣言した通り俺の腕に頭を乗せる……さ、さっきより顔が近くに!?


「……あ、あはは、ちょっと恥ずかしいですね。でも、これも……一度やってみたかったんです」

「……憧れてたこと、全部叶えるんだったっけ?」

「はい。また一つ叶っちゃいました……幸せ、です」

「そ、そそ、そうか……」


 ねぇ、やっぱワザとじゃない? ワザと俺の理性を崩壊させようとしてない? もう本当にヤバいんだけど、腕にアリスの体温を感じてるし、吐息が顔に当ってるし……。


 そしてアリスも俺も沈黙し、薄暗い闇の中で、俺達はジッと見つめ合う。

 まるで吸い込まれそうなほど美しいアリスの目を見つめ、なんだか交わる視線が熱くなっていくような気がした。


「……あ、あの、カイトさん……いまさらですけど、コレって……凄く恥ずかしい状況ですよね」

「う、うん。確かに凄くいまさらだけど……」

「……あの……キスだけなら……その……いいですよ?」

「……え?」


 小さく聞こえてきあ声に、反射的に聞き返す。アリスは恥ずかしそうに顔を赤くしながら、それでも俺を見つめたまま言葉を続ける。


「……まだ、そういうのは、ちょっと勇気がでないですけど……キスなら……いえ、その、キス……して欲しいんです」

「……アリス」


 頭が痺れるように熱い。アリスから目を離せない。

 もう既に二度キスはしたはずなのに、どうしようもないほど緊張してしまうのはこのシチュエーションだからだろうか?


 微かに震える手をアリスの頬に当て、俺は真っ直ぐにアリスの瞳を見つめたままで顔を近づける。

 アリスも瞳は閉じず、キスしやすいように少しだけ顔を傾けて近付いてきて、数秒の後……俺達の唇が重なる。


「んっ……」


 柔らかく、どこか甘いようなアリスの唇。アリスの瞳に映る俺の姿が、やけに鮮明に見えた。

 そのまま数秒唇を重ねていると、意識したわけでもなく……熱に導かれるように、俺の舌がアリスの閉じた唇を軽くノックする。


「んんっ!?」


 それに気付いたアリスは大きく目を見開き、驚愕したような表所を浮かべた。

 そして俺が自分の失態に気付き、顔を離そうとすると……アリスの手が俺の首の後ろに回され、先程までより強く唇が押し付けられ、同時に……俺の舌を導くように、薄く口が開かれる。


「……んちゅ……ぁっん……ちゅ……」


 吸い込まれるように俺の舌はアリスの口の中に入り、温かく甘いその口内を味わおうと動きだす。

 初めはされるがまま、抵抗せずに俺の舌を受け入ていたアリスだが……少しすると、俺の舌に導かれるように、彼女の舌も動きだし、舌同士が絡まり淫靡な音を立てる。


「ん……ぷぁ……んゅ、ちゅぅ、じゅっ……はぁっ……ちゅっ……」


 いったいどれぐらいそうして、互いの唾液を交換し合っていただろうか? 長い、本当に長いキスを終えて、顔を離すと、俺とアリスの口の間に銀色の糸が見えた。

 そしてアリスは放心したような、トロンとした表情を浮かべていたが、少し経って回復してきたのか、顔を真っ赤にする。


「……あぅぅぅぅ」

「そ、その、ごめん……つい」


 恥ずかしさが湧きあがってきたのか、真っ赤な顔を俺の胸に埋めるアリスに、つい反射的に謝罪の言葉を口にする。


「……だ、大丈夫です……ビックリしましたけど……気持ち良かった……です」

「うっ……」

「そ、その……えっと、カイトさん」

「う、うん」

「きょ、今日はここまでで……ゆ、許して下さい」

「あ、ああ、大丈夫……アリスに無理をさせるつもりはないから」


 腕の中にあるアリスをそっと抱きしめ、安心させるように優しく言葉をかける。この際、下半身だけは少し離しておくのを忘れてはいない。

 俺の腕に抱かれたアリスは、潤む目で俺を見上げながら、小さな声で呟いた。


「……ごめんなさい……あまり、長くお待たせはしませんから……私に勇気が出る日まで……少しだけ……待っててください」

「うん。焦らなくていいから……」

「……はい。ありがとうございます」


 その言葉を最後にアリスは目を閉じ、少しして、俺に身を預けたままで穏やかな寝息を立てはじめる。

 俺を信頼しきっているその表情を見ながら、俺は……静かに徹夜を覚悟した。


 拝啓、母さん、父さん――ここまで理性が限界に近づいたのは初めてかもしれない。いや、むしろ若干崩壊していた気さえする。しかし、まぁ、アリスは待って欲しいと言った。俺を信じていると言いたげな表情も浮かべていた。ならば、俺は乗り越えるだけだ。この――理性を削る温もりとの戦いを。





ディープキスまでなのでセーフ。

感想返信が間に合ってないですが、次の休日には追い付きますので、少々お待ちを。


そしてアリス編も後数話で終わりですかね。

その後はバレンタイン番外編を掲載し、数話挟んだ後で、皆大好きシア様が活躍する(かもしれない)六王祭前という名のフィーア編です。


シリアス先輩「ガタっ!?」

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― 新着の感想 ―
腕枕はする方も、腕にかかる適度な重みと温もりで幸せを感じるんだよ・・・・・・あの時は幸せだったなぁ(過去形)( ;∀;)
[一言] おお…あの恥ずかしがり屋のアリスがデイープなチッスを…!!:;(( ⸝⸝⸝˙-˙⸝⸝⸝ ));:
[一言] アリス可愛いすぎる(尊死
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