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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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何故か観光してたよ

 漠然と凄い力を持った存在なんだろうな~程度の認識だった。
 でも確かに時々見せる全てを見通してるかのような表情や、アインさんやゼクスさんと言った高位魔族が絶対の忠誠を誓っている点、それに女神に直接祝福を依頼できる等、言われてみれば成程と思う部分もあるが――それでもまさか、クロが冥王だとは思わなかった。
 というか、仮にも魔界の頂点の一角があんなフラフラ出歩いてて良いものなんだろうか?

「……すみません。俺だけ別行動して」
「……」

 今だ半信半疑な思考を適当に切り上げ、俺は隣を歩く女性に頭を下げる。
 赤い髪を短く切り揃え、動きやすそうなズボンとノースリーブの上着を身に纏い、首に黒いマフラーを巻いた女性は俺の謝罪に無言で首を横に振る。
 彼女は『ジークリンデ』さんと言って、リリアさんに仕えている人で、現在買い物に来ている俺の案内兼護衛として同行してくれている。
 長い耳が特徴的なエルフ族の女性で、細身で美しい外見も相まって男装の麗人という言葉がぴったり当てはまりそうな、凛々しい方だ。
 エルフと言うと金髪のイメージがあったが、混血が多いこの世界においてはエルフ族も様々な髪の色をしているらしい。

 現在リリアさんの屋敷は、それはもう戦場と呼べるような凄まじい状態となっている。
 放心状態から復活した狂信者ルナマリアさんが指揮を取り、埃の一欠片も残さないと言わんばかりの大清掃が始まり、リリアさんも色々な人にひっきりなしに指示を出して大慌で来客を迎える用意をしている。
 魔界の頂点たる六王の一角が一貴族の邸宅を訪れるという異例の事態、正しく現在のアルベルト公爵家は修羅場であり、ぶっちゃけ俺や楠さん、柚木さんは邪魔でしかない。

 勿論優しいリリアさんがそんな事を口にする事は無いが、使用人含め全員が忙しく走り回ってる中でのんびりしていられる訳もなく、かと言って俺達に何か手伝えることがある訳でも無い。
 なので邪魔にならない様に俺達は街に買い物に出かける事にして、リリアさんに相談してみた所、やはりリリアさんは心配性な所があるのか、俺達三人それぞれに一人ずつ護衛をつけてくれた。

 とまぁ、観光という名目で戦場から逃れてきた俺と楠さんと柚木さんの三人は、最初は一緒に行動していたのだが、二人は衣服を買いに行きたいらしく下着等も購入する予定という事で、男の俺が付いていく訳にもいかず、集合場所と時間を決めて別行動となった。

「この辺は食べ物関係の店が多いんですね」
「……」

 周囲の店を眺めながら呟く俺の言葉に、ジークリンデさんが肯定する様に頷く。
 ちなみに先程からジークリンデさんが喋らないのは、別に俺を嫌っているからという訳ではない。彼女は喋らないのではなく喋れないらしい。
 なんでも以前は騎士団に所属していたらしいのだが、その際に魔物との戦いで喉に大きな傷を負って喋れなくなってしまったらしい。黒いマフラーの下には、今も大きな傷跡が残っていると聞いた。
 喋れないというのは案内兼護衛としては向かない様な気もするが、ジークリンデさんの実力はリリアさんの私兵の中でも随一らしく、元騎士団員という事もあって護衛には慣れているらしい。

 そして何よりありがたいのは、男性である俺に対して嫌悪感等の感情を持ってない点だ。リリアさんの忠告もあり、屋敷内での俺の立場は安定しているが、やはり未だに奇異の視線的なものを向けてくる人もそれなりにいる。
 まぁ、俺の立場は言ってみれば女子高に男子生徒が紛れ込んでるみたいな感じなので、仕方ないと言えば仕方ない。リリアさんもその辺りは理解しているので、今回のジークリンデさんの様に人選には注意してくれてるみたいだ。

「この辺は食べ物のお店が多いみたいですね」
「……」
「折角ですし、何か間食で食べられる様な菓子が買いたいんですけど、良い店とかありますかね?」
「……」
「あの三件目のお店ですか?」
「……」
「ああ、その手前の! ありがとうございます」
「……」

 喋れない相手が案内役では大変かもしれないとリリアさんには事前に謝られたが、俺としては全く問題無い。
 頷いたり身振り手振りを交えてくれたりするので、ハッキリ言ってシロさんより遥かに分かりやすい。
 まぁシロさんはシロさんでコツさえ掴めば話してて楽しい方ではあるのだけど、そこに至るまでの難易度が高い感じだ。
 それに比べてジークリンデさんは表情や仕草から感情が読みとりやすいので、コミュニケーションは取りやすい気がする。

「色々ありますね。ジークリンデさんのお勧めってあります?」
「……」
「ジャムですか? 色んな種類がありますけど、この辺の特産品だったり?」
「……」
「成程。見たことない色のもありますね。スコーンと一緒に買ったりすると良さそうですね」
「……」
「うん? おぉ、ジャムクッキーですか! 確かにこれは美味しそうですね」
「……」

 ジークリンデさんに案内された菓子屋で、間食用の食べ物を探す。マジックボックスという素敵なアイテムがあるので、賞味期限を考えなくて良いのはありがたい。
 そう言えばクロが以前ジャムの入ったベビーカステラを持ってきた事があったな~。あのジャムは美味しかったし、ジャムクッキーとかだとシロさんから頂いた紅茶にも合いそうだし丁度いいかもしれない。
 クロも甘いものが好きだって言ってたし、今度一緒に食べるのも良さそうだから、少し多めに買っておこう。

 ジークリンデさんに質問しながら、ジャムクッキーを何種類か選んで購入していて、ふとクロの言葉を思い出す。
 そう言えばクロは今日何か用事があるって言ってたけど、何してるんだろ? まぁ、冥王ともなれば色々忙しかったりするのかもしれないけど、今までの感じだと割と好き勝手してそうなイメージなんだけど……

 拝啓、母さん、父さん――冥王が来訪するという一大事で、リリアさん達は大慌てだけど、当事者である俺は――何故か観光してたよ。

























 爵位級の高位魔族――それは一定以上の力を持つと認められた存在の証明。高い能力を持つ事が、そのまま大きな地位を得る事に直結する実力主義の魔界において、その呼び名を得る事は大きな財産と言える。
 そしてそんな高位魔族の一端、子爵級の称号を得た魔族の一体は、今――絶望の中に居た。

 ほんの少し前まで視界いっぱいに存在していた配下の魔族達は、屍の様に地に伏し、まるで風が止む様に周囲から音が消えている。
 それは一瞬の出来事だった。煌びやかな飾りに彩られていた居城も、貯め込んでいた数多くの宝物も、高位魔族としての権威も威厳も――瞬き程の間に消え去った。
 何故こんな事に? 心の内に浮かんでくる疑問が震える口から外に出る事は無い。

 声を発する事が出来ないだけでは無い。恐怖に身体を震わせる事も、絶望のあまり意識を手放す事も、目を逸らす事すら――許されてはいなかった。
 何故ならそれらをこの空間の支配者が許可していないから……

「……元々、あたりは付けてたんだよね」

 静かな空間に鈴の様な声が響く。絶望に支配された魔族の視線の先には、暗闇の中で煌く金色の瞳。

「カイトくんにかかってた認識阻害の魔法。魔力の感じから、たぶん魔族が関わってるな~とは思ってたんだけど、誰かまでは分からなかった」

 きっかけはほんの些細な欲望からだった。
 別にその魔族は魔界の頂点に立ちたいだとか、そんな大それたことを考えていた訳ではない。
 ただ、今より少し高い地位に辿り着きたい。今より大きな富と権力を得たい。その為に、この世界には無い技術を得たかった……ただ、その程度の小さな野心は、その魔族に破滅を呼び込んだ。

「魔界の高位魔族が、人界の……それも異世界の人間に手を出す。コレってさ、結構面倒な問題だよね? だから早目に解決しておきたかったんだけど……カイトくんのお陰で、随分早く見つける事が出来て良かったよ」

 魔界には爵位級の高位魔族とて決して逆らう事が出来ない存在が居る。逆らう事は即ち、破滅に直結する程の……圧倒的な程に桁違いの力を持った存在が……

「普段こう言うのには協力してくれないんだけど、カイトくんに興味持ったからだろうね。今回は快く協力してくれた……君にとっては残念だったね。シロの『目』で探してもらった以上、誤魔化しは通用しないよ」

 一歩一歩、空間を飲み込む様な魔力を纏いながら、金色の瞳が近付いてくる。
 ゆっくりと、逃げる事も出来ない魔族に己の行いを後悔する時間を与える様に、あまりにも緩やかに歩を進め、冥王は魔族の前に立つ。

「……さて、悪いことしたら、どうするんだっけ?」
「……ぁ……ぅぁ……も……」
「うん?」
「……申し訳……ありませんでした……」

 あまりにも濃厚な死の気配。絶望という言葉すら生ぬるい程の恐怖。
 魔界の頂点たる存在の意向に背いた以上、その魔族にはもはや死ぬ自由すら与えられる事は無い。これから訪れるであろう死すら優しいと感じる程の罰を想像し、魔族は絞り出す様な謝罪の言葉を告げ、地面に頭を付ける。

「うん。じゃあ、今回はこれで許してあげる」
「……はい……え?」

 そして続けられた言葉を受けて――魔族は呆けたような声と共に顔を上げた。
 ハッキリ言って言葉の意味がすぐには理解できなかった。何故なら魔族は六王の意向に逆らった、些細な欲望から異世界の人間の一人に認識阻害の魔法をかけて孤立させ、その後に洗脳等を行って手駒にしようと策を巡らせた。
 いわばそれは魔界と人界の友好関係にヒビを入れる行為でもあり、許し等得られるわけがないと思っていたのだが……

「一応今回は、偶々とはいえボクが通りがかったから、認識阻害魔法かけただけで終わった訳だし、実害が出た訳じゃないからね」
「……は、はい」

 そう、ある意味魔族は不運でもあり幸運でもあったと言える。
 欲望のままに禁を犯し、それが六王にバレてしまったのは不運だったが……相手が六王の中で最も慈悲深いと言われる冥王であった事、そして異世界人を操ってその知識を得ようとしたが、最終的に計画は未遂で終わった事は不幸中の幸いだったと言える。
 ただし、あくまで『今回は』ではあるが……

「もう、周りに迷惑かけたり、悪い事しちゃだめだよ? 『次は無い』からね……」
「ひっ!?」

 そう、今回の件は許された。しかし次は無い……六王より直接この言葉を告げられる事の意味は、魔族であれば赤子でも理解出来る。
 今後この魔族は膨大な年月を六王に目を付けられたと言う恐怖を背負いながら、誠実潔白に生きなければならない。ほんの些細な悪事とて、次は許されない。
 ある意味これこそ、この魔族に与えられた罰なのかもしれない。人間とは比べ物にならない程長命な魔族にとって、この恐怖から解放される日はあまりにも遠いのだから……

「さてと、それでさ……人間の貴族に協力者もいるんだよね?」
「ッ!?」
「勿論……教えてくれるよね?」
「……は、はい。全て、御心のままに……」

 もはや逆らう意志さえ無く、魔族は青ざめた顔のまま、己の持つ情報の全てを吐きだした。









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