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口は災いの元だと思う



 時間をかけて再起動したアリスと共に、芸術広場(仮称)に到着する。

 中央に噴水のある大きな広場で、アリスから聞いた話の通り露店とはまた雰囲気の違う賑わいだった。


 噴水の近くに座り、ハープのような楽器を奏でている吟遊詩人。広場の一角で筆を持ち、賑わう広場の風景を描いている画家。なんかよく分からない彫像を作っている彫刻家といった感じに様々で、こうして見ているだけでも結構面白い。


 アリスの話ではこの広場において、人形劇は割とポピュラーな催し物らしい。


「ゴーレム操作の要領で出来るので、割と簡単ですし、魔法による演出も入れやすいですからね。大体どれも10分前後の短い劇ですよ」

「ふむふむ」


 そう言いながらアリスは、手のひらサイズのゴーレムを作り、軽く動かしてみせる。

 成程……言われてみれば、葵ちゃんがゴーレムの術式を組んでるのを見た事があるけど、人形劇にも応用できそうな気がする。

 それに魔法の演出まで加わるとなると、結構派手な感じじゃないだろうか? なんだか、俄然見るのが楽しみになってきた。


 少しテンションが上がるのを自覚しつつ、アリスにさっそく見に行こうといいかけたところで、アリスの口が忌々しげに歪んだ。


「……カイトさん、やっぱ別の場所にしません?」

「え? なんで?」

「……暑苦しいのがいるので……」

「暑苦しいのって――なっ!? なんだ、今の音!?」


 何故か心底嫌そうに呟くアリスに聞き返そうとしたタイミングで、爆弾でも落ちたような轟音が響く。

 そしてその音がした方向を見ると、巨大な鉄の塊? いや、鉄かどうかは分からないが、物凄く巨大な金属を、素手で削っている人物がいた。


 腰の下辺りまである長い髪は、ライオンのたてがみかと思う程荒々しく跳ねまくっており、その真っ赤な色も相まって、燃え盛る炎のようにさえ見える。

 身長はクロノアさんより高く2m近くあり、褐色の肌は見るだけで分かる程鍛え抜かれた筋肉に包まれている。

 しかしゴリラのように膨れ上がった筋肉という訳ではなく、洗練され無駄なく整えられている感じだ。


 好戦的な笑みを浮かべながら、金属塊を殴る男性……いや、女性? 中性的な顔に好戦的な笑みを張りつけたその人物は、ひとしきり金属塊を殴り終えてから手を引く。

 すると殴られた金属は、まるで羽ばたく鳥のような形に変わっており、なんとも個性的な芸術に茫然とする。


 なんか物凄くインパクトのある方だ……アリスと知り合いなのかな?


 そんな疑問が頭に浮かぶと同時に、その人物はこちらを振り返り……驚いたように目を見開いた後、豪快に笑う。


「おぉ! カイトにシャルティアじゃねぇか!」

「……え?」

「こんなとこで会うなんざ、奇遇じゃねぇか! なにしてんだ?」

「え、ええ!?」


 なんだ? この方は俺の事を知ってるのか? で、でも見覚えは無い……こんなインパクトのある方、絶対一度見たら忘れない筈だ。

 その方の正体が分からず首を傾げていると、隣から舌打ちと共にアリスの声が聞こえてくる。


「シャラップですよ。赤ゴリラ……ハウス」

「あ゛?」

「なにしてんだって、それはこっちの台詞ですよ。なにしてんすか『メギドさん』……」

「えぇぇぇ!?」


 え? この方、メギドさん!? マジで!? い、いや、確かに言われてみれば面影が無い訳でも……いや、やっぱり違いすぎる!

 

「め、メギドさんなんですか!?」

「うん? おぉ、そういや『人化した姿』はみせた事がなかったな!」

「え? じ、人化?」

「高位の魔族なら、姿を変えるぐらいは簡単ですよ。まぁ、本来の姿から変われるサイズに、上限や下限はありますけどね」


 た、確かに人化の魔法って定番の一つだと思うけど、実際にあの悪魔みたいな見た目のメギドさんが、キツメの美人になってるのを見ると、衝撃は大きい。

 しかしそんな驚きを気にした様子も無く、アリスはメギドさんに話しかける。


「で、ここでなにしてるんすか?」

「あん? 見て分からねぇか? 芸術してんだよ」

「ゴリラさん、いっぺん鏡で自分の姿見てきて下さい。芸術からは程遠い見た目してますからね」

「よく分からねぇが……『創造力だって力』だ! なら、それを磨くのは当り前の事だろうか?」

「あ~成程」


 失礼かもしれないがアリスの言葉には完全に同意だ。メギドさんに芸術は……ちょっとどころか、大分似合わないと思う。

 いや、確かに鳥の彫像は見事なものだけど……構図がなんか違うもんなぁ、完全に作る側じゃなくて壊す側の見た目だし……


「……」

「カイトさん、信じられない気持ちは分かりますけど……メギドさんって、性格はアレですけど、頭も相当良いですからね」

「そうなの!?」

「ええ、この方は……なんて言うか鍛錬マニアといいますか、分野問わず己を鍛えまくってるんですよ」

「おぅ! やっぱ、力を磨くってのは良いよな!!」

「まぁ、見ての通り……頭は良いけど馬鹿ですね。頭が痛くなるぐらい馬鹿です」

「おい、こら……」


 軽快に会話をするアリスとメギドさんを、茫然と見つめる。

 う、うん。なんとなく理解出来はしたけど、まだ頭が追いついていない。


「それで、お前らはなにしてんだ?」

「ふふふ、聞いて驚いてください! ラブラブデートです!」

「あ゛? デート?」

「そ、その通りです。なので、邪魔せず、すみやかにゴーホームして下さい」


 自分で言っておきながら恥ずかしくなったのか、アリスは微かに頬を染めつつメギドさんに邪魔だから帰れと、ストレートに告げる。

 メギドさんの方はそれを気にした様子も無く、顎に手を当て考えるような表情を浮かべる。


「……ふむ、ってぇことは、アレか? シャルティアとカイトがなぁ……なんだカイト。クロムエイナもそうだが、胸も背もちみっこい奴が良いのか? まぁ『胸はクロムエイナよりシャルティアの方が少しだけ大きい』けどよ。大して変わらねぇし……アレだな! 『ロリコン』ってやつだな!」

「がふっ!?」

「あぁ、まぁサイズは自由に変えられるみてぇだが……元があのサイズだしな!」

「ごふっ!?」


 もしかしたら、いつかは誰かから言われるのではないかと思ってはいた。いくら実年齢が俺より遥かに年上でも、見た目的にはそう取られても仕方ないと……覚悟はしていた筈だった。

 しかし、まさか、メギドさんからそれを宣告されるとは思わなかった。


 だが、そこで俺以上にメギドさんの言葉に反応した存在が居た。


「誰が背も胸もちみっ子ですか! 誰がっ!! 上等だゴリラ、そのたてがみ全部むしり取ってやる!」

「うん? おぉ! なんだ、喧嘩してくれんのか? いいぜ、最高じゃねぁか!!」


 メギドさんの元のサイズから考えれば仕方ないとは思うが、ちみっ子扱いされたアリスは、親指を立てて首を切るサインをする。

 しかしまぁ、そこは戦闘狂のメギドさん、戸惑うどころか嬉しそうな表情を浮かべ、深紅の髪が黒く染まっていく……臨戦態勢だ。


 まさかこんな所で六王同士の喧嘩が勃発するとは、予想外にも程があったが……その予想外は、メギドさんにも起る事になった。


 アリスと戦う為に場所を変えようとしていたメギドさんだが、それより早くメギドさんの肩にポンッと、小さな手が置かれる。


「……ねぇ、メギド? ボクが、なんだって?」

「……く、くく、クロムエイナ!?」

「胸も背も~の後は、なんて言ったのかな?」

「あっ、いや、違う! さっきのアレは別に……」


 突如現れたクロを見て、先程までの好戦的な表情はどこに消えたのか、メギドさんは顔から滝のような汗を流しながら、明らかに怯えた様子でクロに弁明しようとする。

 しかし、クロはソレを許さず、静かに……しかし、有無を言わせぬ口調で告げる。


「……ちょっと、ボクとお話ししよ? ね?」

「……すまん……いや、申し訳ありませんでした」


 その言葉と共に、メギドさんは怒れる破壊神に連行されていった。

 アレはあかん、クロ……修羅みたいな顔してた。メギドさん、死ぬんじゃなかろうか?


「……とりあえず、デート再開しようか?」

「そうっすね」


 連れ去られたメギドさんの冥福を祈りつつ、気を取り直してアリスとのデートを楽しむ事にした。


 拝啓、母さん、父さん――人化の魔法というのは、あるかもとは思ってたけど、実際見ると衝撃的だった。しかしまぁ、それはそれとして――口は災いの元だと思う。





シリアス先輩「フェイント!? だと……」


【拳を引いた方が、強いパンチが打てる】


シリアス先輩「これが絶望か……」

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― 新着の感想 ―
よく考えたらリリウッドも人化の魔法ってことになるのかな それとも精霊は別枠なのか
[一言] あれ?メギドさんの服装の描写してたっけ? 吾輩の脳内ではメギドさんは革のビキニ鎧みたいなのが浮かんだからそれで通したけど|ω' )
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