もう少し真面目に話してくれないかな!?
長い話になるからと、アリスがお茶を用意してくれて、それを受け取ってからリビングのデーブルでアリスと向かい合う。
「……どこから、話しましょうか……まずは私の正体から、ですかね」
「……」
「私は、カイトさんと同じで『別の世界』からこの世界に来た存在です……まぁ、カイトさんの居た世界とは別の世界ですけどね」
「……うん」
アリスが異世界から来た存在であるという事は、今までの言い回しなどを思い出してみると、十分納得できる。
俺達の世界からここに来れるんだから、他の世界から来る事が出来ない道理はないし、これに関してはさほど驚かなかった。
だけど、次の言葉には驚いた。
「そして私は……『人間』です……いえ、人間だったが、正しいですね」
「ッ!?」
どういう事だろう? 少なくともアリスの身体能力や魔力は、人間としての限界を遥かに凌駕している。
ノインさんのように人間から魔族に転生したという事だろうか? いや、そう決めつけるのは早い。アリスの話を聞こう。
「……私の居た世界は、今のこの世界より少し文明は劣ってて、エルフ族とかドワーフ族は居なくて、人間だけの世界でした」
「……俺が居た世界と似たような感じかな?」
「ええ、そうですね。ただ、違うのは……魔物がこの世界よりずっと多くて、冒険者やギルドが沢山ありましたね」
アリスは昔を思い出すようにゆっくりと、かつて居た世界の事を話す。
漠然とだけど、アリスの居た世界は……俺がこの世界に召喚されるまでに想像していた、ファンタジーな異世界のイメージなんじゃないかと思う。
「私はその世界で『相棒』と二人で冒険者をしていました……まぁ、自分で言うのもなんですけど、当時の私って弱くて、才能もなくて……精々中堅下位が良いところでしたね」
「……え? アリスが?」
「ええ、魔法のある世界だったので魔法も使えましたけど、そっちの実力もさっぱりでした」
「……」
正直想像が出来ない。俺にとってアリスは、それこそこの世界でも頂点に近い力を持つ存在で、なんでも出来る才能の塊のように思っていた。
しかしアリスは、自分の事を才能が無くて弱かったと語る。
「ただ、まぁ、私達の世界には才能を覆す魔法……『心具』という力がありました」
「心具?」
「魔物のように強い体もなく、鋭利な牙も持たない人間が、それらに対抗するために生み出した魔法……『己の心を武器として造り出す魔法』です。術者の心の在り方が強ければ強いほど、心具も強くなりますし、人の心に限界が無いように、心と共に成長していく武器です」
「……な、なんか凄そうな……」
「あはは、字面だけみると凄そうですが、私の居た世界では冒険者は9割方この魔法を使えましたよ……心具は術者の心そのもので、人それぞれ形状や能力が違いました……ちなみに私の心具は、カイトさんが昨日見たヘカトンケイルです」
アリスの心具、ヘカトンケイル……あの流星みたいな光がアリスの周りを渦巻いていたやつの事か、なんかバトル漫画の特殊能力みたいでカッコいいな。アリスの心具はどんな能力があるんだろう?
っと、そんな疑問を浮かべると、アリスはそれを察したように微笑みを浮かべて説明をしてくれる。
「私の心具、ヘカトンケイルは……私が大切に思い、相手も私を大切に思ってくれている……そんな絆を紡いだ相手の能力を、一時的に使用する事が出来るものです」
「す、すごっ……」
「ヘカトンケイル単体には、なんの戦闘力もありません……一人じゃなにも出来ない、けど絆を紡げば紡ぐほど強くなる……あの頃の私らしい能力ですよ」
本当に主人公みたいな能力……う~む、やっぱり男の子としてはこういうのはテンションが上がる。
「さて、話は戻りますが……冒険者だった、私はずっとある人物を探していました」
「ある人物?」
「はい……『幼い頃に生き別れた妹』です」
「ッ!?」
「あっ、ちなみに深刻な事情がある訳じゃなくて、両親が離婚して、私が父に、妹が母に引き取られただけです」
「……」
もしかしてここが話の核心かと思ったが、全然そんな事はなかった……う、う~ん。なんだこの肩透かしを喰らった感じ……
「まぁ、姉である私が言うのもアレですが、うちの妹は天使でしたね! もう、物凄く可愛いですし、才能にあふれてますし、それでいて奢らない性格の良さ! 私の妹は世界一の美女! リアルエンジェルでしたね! 私が男なら絶対結婚してました!! というか妹は小さい頃『お姉ちゃんのお嫁さんになる』って言ってくれたんですよ! ちなみに、再会した時も言ってくれました! もう、その時の仕草の可愛いのなんのって……」
「……あ、アリス?」
「……あっ、失礼。つい……」
……シスコンだった。しかも結構重症な感じで……身内の贔屓目とか言うレベルじゃない。
なんか、アリスの事を知りたいとは言ったけど、これに関しては知りたくなかったなぁ……
あとサラリと話してたけど、妹さん……再会した時もアリスの嫁になるとか言ったの? そっちはそっちでヤバいシスコンな予感がする。
「こほん……まぁ、冒険者をしながら妹を探してた訳なんですけど、ある時その妹が結構大きな国で、近衛騎士をしてるって話を聞いて、相棒と一緒にその国まで旅をしました……あっ、相棒って言っても女ですよ? 私はちゃんとカイトさん一筋ですからね!」
「……う、うん」
なんでちょいちょい、ボケを入れるんだ? いや、もしかしたらわざと暗い雰囲気にならないように、所々でおどけているのかもしれない。
「まぁ、その道中も猛犬みたいな騎士見習いに弟子にしてくれって追いかけ回されたり、大量殺人犯の神父を助けたり、七星魔獣とかってワンダフルな化け物と戦ったりしたんですが……まぁ、それは置いておいて」
なんか一つ一つが物凄く濃そうなエピソードなんだけど!? くそぅ、物凄く気になる……特に大量殺人犯の神父……今度また改めて聞いてみよう。
「実はその時、妹の居る国では、ある悪党が『邪神降臨』って儀式を行って、国を滅ぼしてやろうって裏でこそこそしてたみたいで……妹とその仲間は、その悪党の配下とかと戦ってたんです」
「お、おぉ……」
「詳しい事は知りませんけど、邪神を降臨させるにはその国の王族の血が必要とかで、攻め込んできた悪党達と妹達は激しい戦闘を繰り広げました。しかし、悪党どもは強く、妹達は次第に追い込まれて行きました」
「……す、凄く気になる。それで?」
なんか、二つの舞台で戦いが繰り広げられてたみたいで、続きが非常に気になり、アリスに続きを催促する。
アリスはまるで焦らすように、たっぷりと間を開けてから話を続けた。
「……悪党の幹部を倒し、疲労している妹達の所へ、ついに親玉が姿を現しました……満身創痍の妹達、そんな妹達を守ろうと犠牲になろうとした女王! 妹の目から涙が零れ落ちた瞬間……私の登場ですよ!!」
「な、なんて完璧なタイミング……」
「いや~あの時の私は客観的に見ても、超カッコ良かったですね。月を背に、くそカッコイイBGMと共に、颯爽と降り立ったわけです……まぁ、実際は室内だったんで、月とか見えなかったですけど、ついでにBGMも脳内です」
「おぃ……」
台無しである。大事な事なのでもう一度言うが、台無しである。
なんで一番盛り上がる所で、変なボケ入れてくるんだか……
「まぁ、それで……結果としては、正義は勝つって事で、私が勝利したんですよ」
「う、うん。物凄く端折ったな……」
「ここで、妹が私に駆け寄り熱いキスでもしてくれればハッピーエンドだったんですが……世の中そうそう上手くいかないもんなんですよ」
「……今度はなにが?」
「実は戦いのどさくさで、その親玉は女王の血を手に入れてしまっていまして……自分の命を触媒にして、邪神を呼び出しやがりました」
「ッ!?」
こ、ここに来て邪神とやらの登場。もう字面からして凄そうではあるが、実際アリスの口調が緊迫してきているので、かなりヤバい事態だったんだろう。
ま、またしても気になってきた……早く、続き……
「今になって思えば、その邪神はそこまで凄い力は持ってなかったです。この世界で言えば、上級神の一番下あたりですかね? でも、私達人間にとっては凄まじい脅威でした」
「……」
「その邪神は復活して、即座に……」
「即座に?」
「……あっ、茶菓子無くなりましたね。追加取ってきます!」
「え? ちょっ、アリス!? 続きは!?」
物凄く良いところで話を無理やり区切り、アリスは茶菓子を取りに台所に向かってしまった。というかお前が本気出せば、一瞬で台所ぐらい往復できるだろうが!? なに普通に歩いてるの!?
拝啓、母さん、父さん――アリスの口から語られる過去の出来事、まずはアリスが経験した冒険の話で、かなり凄い戦いを乗り越えてきたみたいだ。まぁ、それはいいんだけど、せめて――もう少し真面目に話してくれないかな!?
???「引きってのは重要です。次回、邪神との絶望的な戦いの中、正義の魔法少女アリスちゃんが覚醒!? そしてついにパーフェクト美少女アリスちゃんに悲劇が……待て、次回!」
シリアス先輩「おい……シリアスどこ行った?」
???「シリアス? 知らない子っすね」