表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
287/2395

『襲来する脅威、抜き放つ真の力』



 光の月8日目。待ちに待ったアリスとのデートの日……い、いや、本当に楽しみだった。素で忘れてたような気もするが、その辺は是非無かった事にしてもらいたい。

 

「さぁ、出発ですよ! 豪華なランチとディナーの食べ放題が、私を待っています!」

「……こら、なにサラッと食べ放題とか、図々しいオプション付け加えてるんだ?」

「で、カイトさん。どんなお店に行くんすか?」

「……コノヤロウ」


 鮮やかなスルー、流石は幻王回避スキルが半端じゃない……ぶん殴りたい。

 ちなみにアリスにはデートでお洒落をするとか、そういう色気的なものより食い気を優先するらしく、格好はいつも通りでちゃんと仮面も付けてる。安定の怪しさだ。

 ドレスコードのあるような店だと拒否されそうな服装だが、どうせそうなったら裏で配下動かして入れるようにするんだと思う。


「いくつか考えてみたんだけど、アリスは魚と肉ってどっちが好き?」

「余裕で肉ですね!」

「熱の籠った即答ありがとう……女の子としては、どうなんだ?」

「お上品さなんかじゃ、腹は膨れねぇんすよ」


 成程、普段から空腹に悩んでる奴の言葉だと重みが違う……まぁ、そもそも、その空腹の原因は自業自得なんだけど……


「そう言えば、店を探してる時に知ったんだけど、ここだと魚って結構高級品なんだな」

「この王都は海には面してませんからね。転移魔法が存在するにしても、荷車毎転送できるような高性能の魔法具を持っているのは、限られた商会だけです。飛竜便を使う所もありますが、多くは陸路での輸入ですからね」

「ふむ……」

「商売の戦略的な話になりますが、鮮度の良い魚を転移魔法で輸入できる商会としては、そのアドバンテージを生かして稼ぎたい訳です。結果として、ハイドラ王国とかに比べて魚は割高になってる訳です」


 シンフォニア王国において魚は少し割高、それは俺も店を調べている時に分かった。

 当初こちらの世界に来たばかりの頃は、その価格がこの世界での平均かと思っていたが、ハイドラ王国は魚がシンフォニア王国に比べてかなり安く、逆に果物類は割高だった。

 その辺も国ごとに特徴があるみたいで、少し面白くも感じる。


「まぁ、そういう国事情とは関係なく高価な食材もありますけどね~ドラゴンの肉とか」

「確か、数が出回らないんだったな」

「ええ、ドラゴンは一般の人族にとっては強敵ですからね」


 そう、俺の周りにはドラゴンでも余裕で倒せそうな人が多くて忘れがちだが、ドラゴンは強力な魔物であり、当然ながらその肉は貴重で高価な物だ。

 バーベキューの時に食べたが、ドラゴンの肉は意外なほど柔らかく、舌の上で蕩けるみたいで本当に美味しかった……また食べたいものだ。


「まぁ、残念ながら今日行く店はドラゴンの肉じゃなくて、エメラルドバードとかって言う鳥の肉なんだけど……」

「おぉぉ、エメラルドバードですか、それはまた随分な高級肉じゃないっすか、いや~楽しみですね! あっ、おかわり自由ですか! ありがとうございま……ふぎゃっ!?」

「いっとらん」


 隙あらば食べ放題オプションを付与しようとしてくるアリスにげんこつを落としつつ、いつも通りの間の抜けた様子に苦笑する。

 やっぱりなんだかんだで、アリスと居るのは楽しいし気楽だ。だからだろうか? 今日のデートも楽しくなりそうだ。


 そんな風に考えながら足を進めた……直後、景色が一変した。


「……え?」


 それは明らかに異常な光景、風景も足元も建物も……街行く人達でさえ、塗りつぶされるように消え、白色だけの空間に変わる。

 しかし異常な現象はさらに続き、白く塗りつぶされた景色にいくつもの色が走る。そして形成されたのは、まるでアニメやゲームでみた電脳空間に似た景色。少なくともこれは、この世界に存在する筈のない風景だった。


「発見」

「ッ!?」


 その異常な光景に茫然としていた俺の耳に機械音声のような声が聞こえ、途端に背中にゾクリと寒気が走る。

 慌てて視線を動かすと、そこには……天使が居た。

 それは比喩ではなく、文字通りの天使。背中に何枚もの純白の羽が見え、ギリシャ神話とかそういうのでみた覚えがある、肩から斜めに流すような白い服に身を包んだ、恐ろしいほど美しい存在。


 光り輝いているようにさえ見える短めの金髪、虹色? いや、極彩色というのだろうか、いくつもの色が混ざり合ったような瞳。

 身長は150㎝くらいだろうか? かなり小柄に見えるが、纏う雰囲気がそうさせるのか、その体躯からは考えられない程の存在感が溢れている。


 聖書に登場する天使、そう表現するのが適切だろうか? 男なのか女のかはパッと見では分からなかったが、その姿は目を離せないほどに麗しい……が、どうしようもなく不気味だった。

 それは、シロさんに初めて会った時のような……全く感情が感じられない感覚。向こうの底は全く見えないのに、こちらは心の奥底まで見透かされているような、言いようのない圧迫感。


「カイトさん! 下がってください!!」

「ッ!?」


 ただ目の前に現れただけ、それだけで圧倒されていた俺の前に、アリスが今まで聞いた事が無いような緊迫した声で叫びながら飛び出す。

 しかし、その得体のしれないナニカは……アリスよりも……


「邪魔」

「しまっ!?」

「アリスっ!?」


 たった一言……その天使が一言告げた瞬間、アリスの体が光に包まれ……消えた。

 なんだコイツは? なんだこれは……

 まるで心の底が凍てつくみたいな感覚を味わい、俺は先程感じていた筈の圧迫感を忘れて叫んだ。


「アリスに……なにをした!」

「……!?」


 怒り……そう、それは身を焼くほどの憤怒の感情。

 目の前の存在が、俺など歯牙にもかけぬ程強大だと言う事は分かっている。叫んだが最後、俺の存在なんて跡形もなく消し飛ばされるかもしれない……それでも、叫ばずにはいられなかった。

 俺の叫びを聞いた天使は、微かに眉を動かした後淡々と告げる。


「負傷、皆無。空間、外部、距離、一万km、強制、転移」

「ッ!?」


 やけに意味を理解しづらい喋り方だったが、アリスが無事で強制的にこの空間の外に転移させられた事は分かった。だが、それに安堵すると同時に、驚愕した。

 今、この天使は一万kmと言った……それは、この世界においての距離の単位ではなく、俺の世界での単位。

 なんだ、コイツは? 本当に何者なんだ?


「……疑問」

「……え?」


 驚愕する俺の前で少しの間沈黙していた天使は、なぜか軽く首を振った後で、訳の分からない事を言い始める。


「汝、凡人、特異性、皆無」

「……」

「能力、脆弱、魔力、矮小、容姿、平凡……不可解」

「……」


 分からない。本当に理解できない。なんで俺は突然現れた天使に貶されているんだろうか?

 しかし、嫌な目だ……まるでお前にはなんの価値もないと、そう告げられているような、冷たい目……本当に一体、なにを……


「再度、確認」

「ッ!?」


 そして天使は淡々と告げながら、俺に向かって片手を伸ばし、俺に体に触れようとして……なぜか途中で手を止め、俺から視線を外した。


「驚愕……力量、誤認?」

「……え?」


 俺ではなくどこか別の方向を見つめながら、力量を見誤ったと、そう取れる言い回しで呟いた直後、その天使が見つめていた方向……空間に大きな亀裂が生まれる。

 そして、その亀裂から……アリスが姿を現した。


「アリス!」

「心紡ぎ、鎧と成す――心紡ぎ、刃と化す――心紡ぎ、翼を生む――」

「ッ!?」


 戻ってきたアリスの口から、まるで空間全体に響くような、明確に力の籠った言葉が発せられる。

 そして、アリスは言葉と共に顔の仮面に手をかけ、それを外して投げ捨て、凄まじい激情の浮かぶ瞳で天使を睨みつける。


「――我が心の刃はここに! ――絆を紡げ! ――『ヘカトンケイル』!!」


 命ずるように発せられた言葉により、その瞬間、この異様な空間に数多の光が満ちた。





シリアス先輩「……え?」←デート終わるまで暇だと思って寝てたら、唐突にシリアス展開が始まってて出遅れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この頃はまだ、不意打ちシリアス展開に叩き起こされてたりしたんだっけ。最新話周辺ではもう....
[一言] なんかもうこれ以上喋るとシリアス先輩より恥ずかしい事になりそうだから黙っとこ…(((((*´・ω・)トコトコ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ