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ただいまと口にする事が出来た



 光の月4日目。突発的に連れ去られ、なんだかんだで5日近く……4泊してしまったハイドラ王国から、ようやく見慣れた屋敷へ帰ってこれた。

 フェイトさん、シアさん、ハートさんは神界への、もといクロノアさんへの報告があるらしくハイドラ王国で別れる事になった。

 フェイトさんは俺を屋敷まで送ると言い張っていたが、どう考えてもクロノアさんへの報告が面倒で逃げようとしているだけだったので、断って転移魔法で帰ってきた。


 屋敷に帰ってきて、まず初めにリリアさんへの報告と挨拶をする為に執務室へ行くと、部屋の中にはリリアさん、ルナマリアさん、ジークさん……いつもの三人が居た。


「おかえりなさい。カイトさん……ハイドラ王国はどうでした?」

「ええ、なんだかんだで楽しかったです。あっ、これお土産です」


 ハートさんが連絡をしてくれているという事だったので、リリアさんも俺に大事が無いのは知っていたみたいで、穏やかに微笑みながら出迎えてくれた。

 買ってきたお土産を渡しながら軽く雑談を交わすと、リリアさんは少しして真剣な表情に変わり、重々しい口調で口を開いた。


「……それで、ハイドラ国王とも遭遇したんですよね?」

「え? いや、してませんよ?」

「……え?」


 なんで一国の国王と遭遇してる事を前提で? い、いや、流石に今までの事を考えると文句も言えないが……で、でも、そう言われてみれば今回そういう出会いは無かったと思う。

 シアさんという神界の偉い方には出会ったが、ハイドラ王国のお偉方みたいな人は……あっ、もしかして……あのおじいさんが、国王だったりするのかな?


「……リリアさん、ハイドラ王国の国王陛下って、年寄りの男性ですか?」

「え? いえ、マーメイド族の小柄な女性ですよ。尤も、マーメイド族は長命種なので実際の年齢はかなりのものですが……」

「……じゃあ、やっぱり会ってないですね」


 どうやらハイドラ王国の国王は、マーメイド族の少女らしい……うん。今回ばかりは本気で心当たりが無い。


「ほ、本当ですか?」

「ええ、マーメイド族自体は、街中でたびたび見かけましたが……話をしたりはしてませんし、国王って感じの方はいなかったと思います」

「……」


 心当たりが無い事を素直に告げると、リリアさんは何故か大きく目を見開いて硬直した。

 そしてなんとか俺を見ては考えるような表情を浮かべ、それからゆっくりと視線を動かす。


「……ルナ!」

「はい……『脈は正常』です」

「……ジーク!」

「う~ん。熱もありませんね」

「ちょっと……」


 リリアさんの言葉と共に、ルナマリアさんが俺の脈を測り、ジークさんが俺の額に手を当てて熱が無いかを確かめる。

 そして二人の言葉を聞いたリリアさんは、顔を青くしていきながら、戦慄したかのような表情で呟く。


「……そんな、カイトさんが一人で出歩いて権力者と知り合ってこなかった? そ、そんな筈は……あり得ません!」

「お嬢様、私も同感です……これは、王宮から医者を派遣してもらった方が……」

「ふ、二人共落ち着いて下さい。いくらなんでも大袈裟です。ただ、カイトさんも慣れない地で疲労が溜まっているかもしれませんし、安静にして様子を見た方が良いかもしれません」


 ……なんだこの状況? なんで俺がハイドラ国王と会ってないのが異常事態みたいになってるんだ?

 おかしい、これはどう考えてもおかしい……リリアさん達の中で、俺はいったいどういう存在だと認識されてるのか、ちょっと小一時間問い詰めたい。


「……カイトさん、今日はもう休んだ方が良いんじゃないですか? 疲れが溜まっているのかもしれません……栄養のあるものを部屋に運ばせますので、安静にして……」

「いやいや、ちょっと、リリアさん? 別にどこも悪くないですから……そんな、本気で心配そうな顔しないで下さい!」

「で、ですが……」


 どうもリリアさん達の頭の中では、俺がハイドラ国王と出会わなかったイコール俺の調子が悪いと言う事らしく、特にリリアさんはオロオロと心配そうな表情で話しかけてくる。

 ……嫌味とかじゃなく、本気で心配してるのが性質悪い!? これじゃ、変に文句も言えない……ど、どうしよう、なんとか軌道修正を……って、そうだ!


「あの、リリアさん。ハイドラ国王にはあってませんが……上級神、災厄神様とは会いましたよ」

「……へ?」

「いえ、ですから、災厄神様とは知り合いになりました」

「……」


 そう、確かに今回ハイドラ国王とは会っていないが、神界のNO.5であるシアさんとは知り合った。

 仲良くなれたかどうかと聞かれれば、微妙な所ではあると思うけど……知り合いになった事は確かだ。

 それをリリアさんに伝えると、リリアさんはしばらく沈黙した後で、心の底から安堵した様子で溜息を吐く。


「……よ、良かった……いつものカイトさんですね」

「……」

「ええ、やはりミヤマ様はこうでなくては、変装してる偽物じゃないかと思いました」

「おいっ、こら、駄メイド……」

「え~と、ともかくカイトさんが元気なようで、良かったです。あとルナ、それはカイトさんに失礼ですよ」

「……ありがとうございます。ジークさん」


 俺の味方はジークさんだけである。うん、本当にジークさんだけは、ずっと一貫して俺の体調を心配してくれていて、この物凄くアウェーな空気の中では清涼剤のような存在だ。

 

「いや~本当にミヤマ様がいつも通りで良かったです。このルナマリア、心から嬉しく思いますよ。てっきり病気なのかと……おっと、普段の方がある意味病気やもしれませんでしたね。お嬢様?」

「い、いえ、私はそこまでは……」

「いやはや、流石はミヤマ様! 魔族、神族、人族、期待を裏切らずに誑し込んでくる手腕は、感嘆の一言です。モテる男は違いますね。次はどこで引っかけてくるのでしょう? そろそろ異世界からですか?」

「……」


 この駄メイドは、水を得た魚のように嬉々とした表情を浮かべてやがる。一発ぐらい殴っちゃ駄目かな? いや、殴ったところで避けられるか……

 俺をからかうような笑みを浮かべているルナマリアさんを睨みつつ、文句を言おうとしたが……それより先に、ルナマリアさんの鳩尾に鋭い拳が叩き込まれた。


「がふっ!?」

「いい加減にしなさい、ルナ……それ以上カイトさんをからかうようなら、私が許しませんよ」

「じ、ジークさん!」


 素早く悪魔に鉄槌を叩き込んでくれたジークさんは、正しく天使である。これは惚れ直す。


「い、いえ、別に私はミヤマ様をからかったりは、ほんの茶目っ気……あっ、いえ、嘘です! 申し訳ありませんでした! 謝ります、謝りますから、剣に手をかけないでください!?」

「……リリ、少しルナを借りますよ? ちょっとお説教してきます」

「ええ、ちょっとと言わず、ガッツリ叱ってきてください」

「お嬢様!?」


 なおも懲りずにふざけた事を言いかけたルナマリアさんを見て、ジークさんは本気で怒ったらしく……リリアさんに許可をとってから、ルナマリアさんの首根っこを掴んで引きずっていった。

 なんだろう、一瞬頭にドナドナが流れた気もするが……まぁ、ルナマリアさんの自業自得である。


「……カイトさん、申し訳ありません。私も取り乱してしまって」

「あ、いえ、普段俺がそれだけ色々気苦労をかけてるって事ですし……」

「ふふ、でも、私もジークと同感です。なによりカイトさんが元気に帰ってきてくれて、嬉しいです……改めて、おかえりなさい。カイトさん」

「はい。ただいま戻りました」


 先程の発言を謝罪してから、リリアさんは優しい笑顔を浮かべて俺の帰還を喜んでくれる。

 その笑顔は本当に暖かく、言いようのない安心感があって……なんだか心地良く感じた。


 拝啓、母さん、父さん――なんだかんだバタバタしたけど、やっぱりここは良いなって思うよ。リリアさんが優しい笑顔でおかえりと告げてくれ、本当に自然に――ただいまと口にする事が出来た。




リリア=今回は「よかった。いつもの快人だ」という気持ちが勝って気絶しなかった。

ルナマリア=隙あらばからかう。いいぞもっとやれ

ジーク=天使。

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[一言] ん?伏線かな?|ω' )
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