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最後のお礼には驚いたよ



 さて、ここで一つデートとはどんなものであるのかというのを語りたい。尤も、俺もけっして経験豊富というわけでもないし、語れるのは一般論程度ではあるが……

 デートとは一般的に異性と……ごく一部同性である場合もあるが、一緒に食事、ショッピング、観光や映画鑑賞、遊園地などを楽しむ内容である事が多い。

 ただあくまでそれらは過程でしかなく、デートの主目的とは互いの感情を深めたり愛情を確認する事だろう。


 つまり極端な話外出しなくても立派なデートであり、短時間であっても間違いなくデートである。

 なぜこんな事を急に考え出したのかというと、俺の現在の状況が原因だろう。

 互いの関係を深める事が主目的であれば、現在の俺も間違いなくデートしていると言える筈……言える筈なんだが……


「ふあぁぁぁぁ」

「……あの、フェイトさん? そろそろ自分で動きません?」

「やだぁぁぁ~」

「……」


 クッションに寝転がったままだらけるデート相手の手を引っ張って移動……クッションは浮遊しているので重さは感じないが、なんだか台車を引っ張っている気分になる。

 こうもっと、なんか、手を繋いでドキドキしたりとか、相手の歩幅を気遣ったりとか……そういうのってないのかな?


「……あの、フェイトさん? なんですかその大きく開いた口は?」

「食べさせて~」

「……」

「あむっ、あ~美味し~」


 屋台で見かけた食べ物を食べようと言う事になれば、デート相手は寝転がったまま口を開け、そこにこぼさないように食べ物を運んであげる。

 おかしいよね? イベント的には「あ~ん」のやつだよね? アイシスさんの時とか凄く緊張したんだけど、そういうの全く無いんだけど!?


「いや、フェイトさん……流石に飲み物は無理じゃないですか? 起きてください」

「大丈夫、大丈夫、ちゃんとこぼれないように運命操作してるから」

「その労力はもっと別の場所に回すべきじゃないですかね!?」


 あげく飲み物まで寝転がったままで飲もうとする。

 重要な事だが、この世界にペットボトルなんて物は無いので、飲み物を買う場合は薄い木のコップで渡される。

 まぁ、それが原因だとは思うが露店で買う飲み物は、俺の居た世界に比べて結構割高だ。


 ともかく、そんなコップでさえも、だらけたまま飲もうとするフェイトさん……これ、本当にデート? 介護とか介助じゃなくて、本当にデート?


「……フェイトさん、これ、デートなんですよね?」

「え? そうだよ~」

「……」

「あ~え~と……」


 ガックリと肩を落としながら呟く俺の姿を見て、フェイトさんは珍しく困ったような表情を浮かべた。

 そして、ようやく寝転がった状態から上半身を起こし……クッションから降りた……え? クッションから降りた?


「いや~ごめんね。ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったよ。怒ってる?」

「え? いえ、怒ったりはしてませんが……」


 『はしゃぎ過ぎた』? え? いや、俺にはだらけてるようにしか見えなかったけど、アレはしゃいでたの!?

 驚く俺を前にして、フェイトさんはなにやら一人納得したように頷いた後、ガシッと俺の手を握ってきた。


「私ばっか楽しくても駄目だよね~って事で、仕切り直しだね!」

「え? ちょっ!? フェイトさん!?」

「じゃ、改めてれっつご~」


 そして物凄い力で俺を引っ張りながら歩きだしてしまう。

 状況についていけない俺は、唖然としたまま引きずられるようにフェイトさんの後を追った。








 デートの仕切り直しと告げてから、フェイトさんはクッションをどこかへしまい俺の手を握りながら街を歩いていた。

 不思議なもので、先程まではフェイトさんを移動させるために仕方なく手を引いていた筈なのに、こうして改めて手を握られるとなんだけ急に気恥ずかしくなってくるものだ。


 ちなみに最高神であるフェイトさんが、ただの人間である俺と歩いてなんかいたら大騒ぎになりそうなものだが、フェイトさんは運命を操作して自分を最高神だと認識できなくしているらしい。

 以前クロがデートの時に使用した認識阻害魔法と似たようなもので、これがある限り街の人達にはフェイトさんがごく普通の女の子としてしか認識でしなくなるらしい。

 クロの認識魔法は直接会話をした相手には正体が分かったが、フェイトさんの運命操作はフェイトさんが許可しない限り直接話してもフェイトさんだとは認識できないので、上位の能力みたいな感じだ。


「おっ、カイちゃん、アレ食べようよ」

「……なんですか? あの滅茶苦茶デカイの……」

「え? 確かカイちゃんの世界から伝わった料理だよ……イカリングてやつ!」

「俺の知ってるイカリングと違う……」


 ニコニコと笑いながらフェイトさんが指差したのは、家の屋根ほどありそうな巨大な輪の形をしたもので……どうやらあれはイカリングらしい。

 アレがイカリングだとすると、元になったイカはクラーケンとかそんな感じの化け物だろう。本当にこの世界の食べ物には驚かされてばっかりだ。


 屋台でそのイカリングを注文すると、小さく切り分けられて渡される……まぁ、サイズ的にそんな感じだとは思っていたが、これはイカリングじゃなくてイカフライといった方が正しい気がする。


「ん~美味しいね~」

「ええ、身がしまってて美味しいです」

「あっ、そうだ! カイちゃん、カイちゃん!」

「はい?」

「それっ、あ~ん!」

「むぐっ!?」


 呼ばれて振り返ると、次の瞬間物凄いスピードでフェイトさんが手に持ったイカを俺の口に叩き込んできた。

 あまりにもスピード感あふれる「あ~ん」である。衝撃でのけぞってしまった……うん、やっぱりなんか違う。


「おっ、アレも食べてみよう! カイちゃん!」

「え? ちょ、まっ……」


 しかしそんな俺の様子はお構いなしで、フェイトさんはどんどん俺を引っ張っていく。

 振り回されると言う言葉がここまでしっくりくる状況も中々ないだろう、だらけていた時とは別の意味で大変である。


 だけど、まぁ……フェイトさんが楽しそうなのは、良い事ではあるかな……








 どれぐらいの時間が経っただろうか、行動的なフェイトさんは信じられない程エネルギッシュであり、それはもう振り回された。

 屋台で食べ歩きをしたかと思えば、劇? に興味を持ってそちらに向かったり、かと思ったら服を見に行くと言い出したり……途中でやっぱやめると言いだしたり。


「いや~遊んだね~」

「……はぁ……そ、そうですね」

「楽しかった~」


 すっかり疲れ果てて広場のベンチに座り込んでいる俺の前では、ご満悦無様子のフェイトさんが再び取り出したクッションに乗って笑顔を浮かべていた。

 ほ、本当に疲れたけど……フェイトさんは楽しかったみたいだし、明るいフェイトさんに振り回され、俺もなんだかんだで大変だったけど楽しかった。


「ん~いい時間だし、そろそろ戻ろっか?」

「了解です」

「じゃ、運んで~」

「……」


 どうやら元気モードは完全終了したらしく、フェイトさんは赤紫色のバックツインテールを揺らしながら甘えた声を出してくる。

 もうそのだらけっぷりは諦めたので、俺はもう一度溜息を吐いてから立ち上がり、フェイトさんを引く為に近付く。


「あっ、そうそう忘れてた」

「え?」

「これは、今日のお礼ね……ちゅっ」

「ッ!?」

「ふふふ、また一緒に遊ぼう……ね?」


 近付いた瞬間、フェイトさんがふと上半身を起こし、お礼だと呟いた後素早い動きで、俺の頬に口付けをしてから離れた。

 その突然の行動に唖然とするが、フェイトさんは気にした様子もなくクッションの上でだらけている。

 いや、よく見たら……ほんの少しだけ、注意してみなければ分からない程ではあるが……頬に朱がさしていた気がした。


 拝啓、母さん、父さん――フェイトさんとのデートは、予想通りというかなんというか、本当に振り回された感じだった。でもなんだかんだで楽しんでもらえたみたいで良かったと思う。ただ、その――最後のお礼には驚いたよ。

 




フェイトがだらけて甘えて、引っ張ってとか食べさせてと言ってくるのは、実は愛情表現……


ハイドラ王国編もまもなく終わり……そして、アリス編が始まります。

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