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嫌いじゃない



 夕食時が近付いたタイミングで飛び込んできたフェイトさん。

 本人の言いたい事を要約すると、仕事を頑張ったので褒めてくれとそういう事らしい……何度も思ってる事だけど、本当にこの方最高神?


「……あの、フェイトさん?」

「うん? な~に?」

「……この状況は、一体……」

「私は今カイちゃん成分を補充してるんだよ!」

「……そ、そうですか……」


 さて現在の俺の状況はというと、本当になぜこうなったのか分からないんだけど……フェイトさんが俺の膝の上に座り、俺の両手をがっちり抱えている。

 この体勢になる事で、一体俺からどんな成分が抽出されるのかは分からないが、この状況が大変よくないものだというのは分かる。


 膝の上に感じる柔らかな感触は勿論、前にホールドされた……図らずも抱きかかえるようになっている体勢では、腕にフェイトさんの大きな膨らみも当たっており、ジリジリと理性が金網で焼かれているみたいだ。

 しかし抵抗しようにも、俺とフェイトさんの力の差は歴然であり、先程から手も全く動かない。


 そんな俺の心境を知ってか知らずか、フェイトさんはご機嫌な様子で、思いっきり俺にもたれかかってだらけている。完全に椅子扱いである。

 まぁ、いつもみたいに強引に危険な行為に及ぼうとしてこないだけ、普段よりましなのかもしれないが……


「……えっと、仕事お疲れ様です」

「ホントね~なんでこの世に仕事なんてものがあるんだろう……やだな~明日もまだ仕事だよ。明日がこなけりゃいいのに」


 なんか夏休み最終日の学生みたいな台詞を言っているが、これでも一応神界の偉い方である。俺が心配する事ではないかもしれないが、本当に大丈夫か?

 しかし、なんでフェイトさんはここまで頑なに仕事を嫌うんだろうか? 例えば俺と比べれば知識も作業スピードも桁違いだろうし、それこそ本気になればすぐに仕事なんて終わるんじゃないかな?

 いや、まぁ、俺は神界での仕事がどんなものかは知らないので、フェイトさんの能力があっても時間がかかるのかもしれないけど……


「フェイトさんは、なんでそんなに仕事が嫌なんですか?」

「……だって『つまらない』もん」

「つまらない……確か、前に神界に行った時も同じような事言ってましたね」

「そだよ……全部思い通りに出来るなんて、本気でつまらないし、心底大嫌いだね。だから全くやる気が出ないよ」


 そう言いながらフェイトさんは軽く指を振り、机の上にあった水差しを近くに持ってくる。

 そしてその水差しの中に、どこからともなく取り出した赤ワインを注ぎ始める。


「普通は口に出す必要ないんだけど、分かりやすいように言うね……『混ざらない』」

「ッ!?」


 フェイトさんがそう呟くと、水差しに入れられた赤ワインは、まるで油みたいに水に混ざらず綺麗に分離する。


「……『混ざる』……『分離する』……『容器に戻る』」

「……」


 フェイトさんがそう言って一言告げる度に、分離していた赤ワインは水に混ざり、かと思ったら再び綺麗に別れ、そして最後は物理法則を無視して元の瓶に戻った。


「……カイちゃんはさ、私の能力知ってたっけ?」

「運命を操る……ですよね?」

「う~ん、それでも間違いじゃないけど、正確にはちょっと違うかな? 運命を司る……私はその気になれば、本来あり得ない運命すら『造り出す』事が出来るんだよ」


 運命を操るでも相当なチート能力だが、どうやらフェイトさんの持つ力はそれ以上らしい。

 本来ならあり得ない運命すら造り出す……酒瓶から注がれた赤ワインが、逆再生みたいに酒瓶の中に戻る……そんな本来ならあり得ない現象ですら、フェイトさんは造り出す事が出来るらしい。

 流石神というべきか、常識なんて軽々覆す……まさに権能だ。


「だからさ、私にはこの世界の殆どの事は思い通りに動かせる。私の持つこの力は、シャローヴァナル様の力の一端……だから、本気を出せば時空神や生命神ですら、私の力には抗えない」

「……フェイトさん、その目……」

「前に一度見せた事あるよね? 私は本気で能力を行使する時は、シャローヴァナル様と同じ目の色に変わるんだよ。というか、こっちが本来の色で、普段は強力すぎるから抑えてるだけなんだけどね~」


 フェイトさんがそう言って苦笑すると、シロさんと同じ金色に変わっていた目が、元の赤紫色に戻る。

 どうやら普段の赤紫色の瞳は、世界の法則すら捻じ曲げる自分の力を押さえている証拠らしい。

 フェイトさんが本気になれば、クロノアさんやライフさんすら抗えないが、基本的に本気で力を行使する事は無く、かつての神界と魔界の戦いで使ったきりらしい。


「……前に言った通り、私がこの世界で思い通りに出来ない存在は、たった4つだけ……シャローヴァナル様、冥王、シャルたん……そして、カイちゃんだね」

「……俺にはシロさんの祝福があるから、ですよね?」

「だね。だからさ、最初にカイちゃんを見つけた時は……嬉しかったなぁ~すっごくテンション上がってたよ。『ソウルフレンド』なんて言ったのは、シャルたん以来だしね」

「……」


 後で聞いた話ではあるが、俺とフェイトさんが初めてあった時……フェイトさんは自分の近くに人間が近寄れないように、運命を操作していたらしい。

 だからこそ出会った時には、周囲に全くと言って良いほど人影が無かった訳だ。


 そしてフェイトさんはそのまま少しの間沈黙した後、ゆっくりと口を開く。


「……ねぇ、カイちゃん。聞いても良い?」

「え? はい。なんですか?」

「……正直に答えて欲しいんだけど、私の事嫌い? 疎ましい?」

「……へ?」


 それは、いつも明るく飄々としているフェイトさんからは想像もできない程、弱々しい声だった。

 だからこそ、だろうか? 俺は特に考える事もなく、素直に自分の意見をこぼしていた。


「……いえ、別にそんな風に考えた事は一度もないですよ」

「……本当に?」

「ええ、フェイトさんは困った方だとは思ってますが、嫌いだとか疎ましいとか思った事は、一度もないです」

「あはは、そっか~」


 俺の言葉を聞いたフェイトさんは、どこか楽しそうに笑顔を浮かべた後、掴んでいる俺の腕をギュッと抱えた。


「じゃあ、もういっこ質問……ほら、私の体ってちっちゃいけどさ、カイちゃんにとって私みたいなのって、『欲情する対象』になる?」

「ぶっ!? な、なにを……」

「いいじゃん、教えてよ~」


 完全にいつものテンションに戻ったみたいで、フェイトさんはのんびり楽しげな声でとんでもない事を聞いてくる。

 その質問に動揺しつつも、グリグリと俺の胸に後頭部を擦りつけてくるフェイトさんに押され、諦めに似た感じで口を開く。


「……なり……ますけど……」

「ふふふ、そっか~成程ね~」


 なんかこれはヤバい流れかもしれない。特に体勢がまずい……逃げ道を塞がれている。

 この状態でいつもみたいに来られたら、逃げきれないかもしれない。

 そう考えながら俺が体を固くしていると、フェイトさんは俺の考えを察したのか顔だけ俺の方に向けて無邪気な笑顔を浮かべた。


「そんな、身構えなくても、今日はもうなにもしないよ~」

「え?」

「今日はもう、十分満足だしね。あ~カイちゃん暖かいなぁ~クッションより全然気持ちが良いよ」

「……え、えっと……」


 フェイトさんは完全にだらけモードに移行したらしく、俺にもたれかかり、とろけたチーズみたいにぐだっとする。

 よくは分からないが、機嫌は非常に良いみたいで、このまま寝てしまうんじゃないかと思うぐらいリラックスしている。


「……カイちゃん」

「え? はい」

「カイちゃんは、本当に面白いね~」

「……うん?」

「思い通りに出来ない、思い通りに行かない……でも、優しくって楽しくて、ん~やっぱり最高に好みだね。絶対カイちゃんに養ってもらおう! そうしよう!!」

「……」


 拝啓、母さん、父さん――フェイトさんはなんというか、相変わらずは相変わらずだったけど、少し仲良くなれたみたいで、今まで見た事のない側面も見せてくれた。まぁ、なんだかんだで、やっぱり――嫌いじゃない。





冥王様「……ギリセーフかな? カイトくんに襲いかかろうとしたら躾してたけど……」

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― 新着の感想 ―
恋人がモテ過ぎるのも困ったものですね冥王様w
[一言] 「ええ、フェイトさんは困った方だとは思ってますが、嫌いだとか疎ましいとか思った事は、一度もないです」 これリリアさんとほぼ同じセリフ……やはり似た者同士……
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