番外編・エイプリルフール大作戦~失敗する作戦~
朝の陽ざしに目を開けて、ベッドの上で上半身を起こすと……なんか、窓の前に腕を組んで窓からの光を背に不敵な表情を浮かべている不法侵入者がいた。
「答えろ、快人。4月1日は何の日だ!」
「……え? エイプリルフール」
「違う! 4月1日は、世界シリアスの日だ! さっき私がそう決めた!!」
「じゃあ、俺が知るわけがないですよね!?」
寝起きに未知の情報を叩きつけてくるのは止めて欲しい。なんか、寝覚めが悪くなる気がする。
まぁ、それはともかくとして目の前に居るのは、なんか年に一回ぐらいの頻度で唐突に表れるシリアス先輩である。
悪い人ではないのだが、なんか謎が多いというか……総じてよく分からない方というのが率直な感想である。
「……なるほど、確かに作中時間軸だとまだ4月1日というわけではないだろうし、混乱する気持ちも分かる。誕生日回からの経過を考えると、年末ぐらいか? ともかく、戸惑うお前の気持ちは凄くよく分かる」
「……いやたぶん、ビックリするぐらい俺の気持ちは通じてないかと……」
俺のいまの気持ちは「なに言ってるんだこの人?」である。混乱も戸惑いもあるかもしれないが、それは時間がどうこうではなくシリアス先輩の発言に対してである。
なんだろうこの気持ち、寝起きだけどいますぐ「おやすみ」って言ってもう一度寝たくなってきた。
「だが考えてみて欲しい、第二部に入ってから実質作中の時間は、創作などでよくある不思議時空に突入したと考えていい。だとすれば、季節や月など些細な問題だろう」
「ふぁぁ……なんですか、不思議時空って?」
「ほら、なんかよくあるじゃん。作中の登場人物とかは進級したり、年齢が上がったりしてないのに季節は巡って行ったり、クリスマスとか正月とかの季節イベントは何度も来る感じのやつ」
「あぁ、そういうのよくありますよね。なんとか時空とかって名前が付いたりしますっけ……眠っ……先輩、コーヒー淹れますけど、飲みます?」
「めっちゃ興味無さそうな反応しやがるコイツ……あっ、コーヒーはありがたくいただきます」
正直さすがにもう何度も会ってると慣れてくるというか、シリアス先輩の話は7割スルーしてるぐらいで丁度いいと思う。テンションの乱高下が凄いのもそうだが、唐突にわけの分からないことを言い出すので、真剣に聞いていても混乱するだけなので要点だけ抑えておけばオッケーだ。
「……それで、シリアス先輩は今年も例の出入り口が無くて、一年に一回だけ外に出れるっていう……聞くだけならほぼ拷問みたいな部屋から来たんですよね? 今年はどうするんですか?」
「ふっ、よくぞ聞いてくれた。思えば私はいままで受動的にシリアスを求めていた。だが、それでは駄目だ! 今後はもっと能動的にシリアスを求めようと思って、その第一歩として今回は事前に準備をしてきたわけだ」
「準備? なんのですか?」
「これを見ろ!」
「……なんですか、それ?」
シリアス先輩が取り出したのは、水晶っぽい球体で出来た地球儀のような形の手のひらサイズの道具で、魔法具のようにも見えるが、どこか機械チックなデザインでもある不思議な感じの品だった。
「簡単に言えば転移魔法具みたいなものだ。私のとこによく来てるヤヴェ神のやつに作らせた」
「……ああ、なんかお菓子になった先輩をよく食べるっていう?」
「最近はなんか、事前にどう変化させるかを操作した上で食ってくるようになりやがった。全知全能なんだから、そんな手間かけるなら自分で完成品を出せばいいのに、なぜ私を頑なに食べるのか……これが分からない」
「先輩、何度か言ってますけど、やっぱその人だいぶヤバいですって……借りとか作るべきではないのでは?」
「いや、だからお前の関係者……いやまぁ、借りを作るっていうか、散々食べまくったんだからその借りを返してもらってる感じだから……ともかく! 快人、さっそく出発するぞ! 外出の準備はいいか!!」
「……いや、完全に初耳ですし、完璧に寝起きです」
なんかいきなり出かけることになってるんだけど、俺いま起きて寝起きのコーヒー一杯飲んだだけなんだけど!?
「むむっ、じゃあ、まぁ……手早く支度して」
「ああ、行くのは確定なんですね。でも、能動的なシリアスって言ってましたけど、どこ行くんですか? 行く場所によって用意とかも変わると思うので……」
「温泉だ!」
「……温泉とシリアスになんの関係が?」
「いや、別に温泉とシリアスはなんの関係も無いけど? なに言ってんの?」
「……先輩、ちょっと強めにビンタとかしていいですか?」
「お、落ち着け! これはちゃんと計算した上での選択なんだ。なぜ、温泉を目的地に選択したかというのは、この先に温泉回がやってくるからだ!!」
繰り返しになるが朝起きてすぐこのやりとりをしているわけで……ピコハンを取り出さなかっただけ、俺は優しい対応をしていると思う。
「……その、よく分かりませんが、温泉回に先駆けて温泉に行く感じですかね? いわゆる下見的な?」
「いいところを突いているが……惜しいな。私自ら温泉回を実行することで、温泉耐性を獲得してダメージを軽減する算段というわけだ。しかも、いまこの時間帯に誘ったのにも理由がある!」
「思いっきり朝ですけど、どんな意味が?」
「ふふふ、この早い時間から温泉街に向かうことで……番外編で夜の混浴までイベントを書くには話数が足りない。以前のように一話や二話程度延長したところで、入浴シーンにはたどり着けない! つまり温泉耐性を獲得しつつ、イチャラブイベントは回避する完璧な計算だ!! ふはは、残念だったな混浴王! 貴様の固有スキルを発動する機会はないぞ!」
「……いちおう聞きますが、混浴王ってのは誰の事ですか? 返答次第では、怒りますよ」
「……いや、でも、恋人全員とそれ以外も数人混浴してたら、十分混浴王では?」
「……」
ぐぅの音もでない正論である。そりゃ二桁の女性と混浴を経験してたら、そう呼ばれても仕方ないかもしれない。しかし、しかしである……。
「でもなんか、先輩に正論で黙らされるのは釈然としないので……ピコハンで一回殴りますね」
「なんで!? お前、いつの間にか私をアリスとかトーレと同じ、雑に扱っていい枠に入れただろ!?」
マキナ「なんで、皆私に温泉街を作らせるのか、それが分からない……あと、タイトルで既にシリアス先輩の作戦の失敗が確定してる」




