目を疑いたくなるような記念品の数々だった
風の月23日目。風の月も終わりが見えてきた日の昼下がり、俺と葵ちゃん、陽菜ちゃんの三人はリリアさんに呼ばれ応接室に向かっていた。
「どうしたんでしょうね? 急いできて欲しいなんて……」
「う~ん。普通に考えたらお客さんって事だろうけど……俺達三人に用があるお客さん?」
「思い浮かびませんね」
応接室に呼ばれているという状況から来客という事は想定できた。仮にこれが俺一人で呼び出されたり、二人の内どちらかだけが呼び出されたならまだ分かるが、俺達三人の共通の来客となると非常に限られてくると思う。
不思議そうに首を傾げる陽菜ちゃんに、同様に心当たりが無いのか怪訝そうな表情の葵ちゃん……実際俺も、なにが起こるのかと若干不安に感じていたりする。
応接室にはすぐ辿り着き、ノックをしてから室内に入ると……中には俺達を呼び出したリリアさんの他にも、ルナマリアさんとジークさんの姿もあった。
そして応接室にはもう一人、ネコミミの女性が居た……誰だろう? 全く見覚えの無い方だ。
「皆さん、急に呼び出してしまって申し訳ありません」
「い、いえ、リリアさん……俺達に来客ですか?」
「いえ、正確に言えば……私とルナとジークの三人も合わせて、六人への来客らしいです」
「「「え?」」」
リリアさんが告げた言葉を聞いて俺達はますます意味が分からず首を傾げる。
リリアさん、ルナマリアさん、ジークさん、葵ちゃん、陽菜ちゃん、俺……その全員に共通する用件とは一体……
するとそんな俺達の疑問に答えるように、ネコミミの女性が口を開く。
「戸惑いは尤もかと思います。順を追って説明させていただきますね……っと、その前に、私はキャラウェイ。子爵級の高位魔族です。今回は六王様方の使者として参りました。どうぞお見知りおきを」
「あ、はい。えと……宮間快人です」
「楠葵です」
「柚木陽菜です」
ネコミミの女性……キャラウェイさんと簡単に自己紹介をした後、ルナマリアさんが用意してくれた席に座る。
「さて、ではまず用件をお伝えしましょう。私は今回、六王様方より皆様への招待状を預かってきました」
「……招待状……ですか?」
六王達からの招待状を持ってきたと告げるキャラウェイさんの言葉を聞き、リリアさんが俺達を代表して聞き返す。
「はい。光の月24日目から30日目までの7日間。魔界において六王様が共同で行う祭り……六王祭が開催されます」
「ろ、六王様が共同で!?」
「……前代未聞ですね」
キャラウェイさんの言葉にリリアさんが驚愕し、ルナマリアさんも驚きを隠せない様子で呟く。
勿論それは俺達も一緒で、魔界のトップが共同で行うというという言葉に驚いて、言葉を失ってしまう。
そんな俺達に対してキャラウェイさんは、丁寧に説明を行ってくれた。
六王祭は今年が初めての開催であり、第一回目に関しては参加者を制限……六王から送られた招待状を持つ者のみに限定されるらしい。
そして祭りは7日間行われ、それぞれの六王が企画した祭りが順に6日間行われ、最後の7日目に関しては全ての六王が参加するとの事だ。
会場は魔界にある大きな島で、移動に関してはマグナウェルさんが用意した飛竜便にて無料で送迎してもらえるらしい。
「……ここまでのお話で質問等はありますか?」
「い、いえ、大丈夫です」
「では、皆様にこちらを……」
キャラウェイさんは俺達が六王祭についておぼろげに理解できている事を確認すると、綺麗に飾り付けられた封筒を取り出し、俺達に順番に手渡す。
「その封筒の中には六王様方からの招待状が入っていますが……招待状にはランクがあります」
「……ランク、ですか?」
「ええ、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ブラックの6種類存在し、ブラックが一番上となります。ランクの基準は単純で『六王の内、何体から招待を受けたか』によって決定され、ランクが高いほど特典が得られ、同時に『記念品』も豪華になります」
「……き、記念品、ですか?」
「ええ、今回は第一回の開催を記念して、招待客には招待を行った六王様より記念品が下賜されます。それらも含め招待状に記載されていますので、確認してみてください」
「で、では、まず私が……」
キャラウェイさんに促され、家主であるリリアさんがまず封筒を開く。
するとリリアさんの封筒の中から、白金色に輝く少し大きめのカードが出てきた。
「……素晴らしい。リリア様はプラチナランクの招待状ですか……5体の六王様から招待を受けているみたいですね」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、招待状を開いてみてください。中に貴女を招待した六王様の名前と、記念品の名称が書かれています」
「は、はい……え?」
キャラウェイさんに促されるまま招待状を開いたリリアさんは、そのまま完全に硬直し、少しして大量の汗を流し始める。
その反応が気になった俺達は、全員リリアさんの後ろに回り、そっと招待状を覗き込む。
リリアさんが持つ白金色の招待状には、キャラウェイさんの言葉通りリリアさんを招待した六王と記念品が書かれていたが……その内容が……
『死王:アイシス・レムナント 記念品:魔界北部の鉱山一山』
『界王:リリウッド・ユグドラシル 記念品:世界樹の果実』
『戦王:メギド・アルゲテス・ボルグネス 記念品:魔神のワイン一樽』
『幻王:ノーフェイス 記念品:聖剣エクスカリバー一本』
『冥王:クロムエイナ 記念品:最新式転移魔法具一基』
と、見るからにとんでもないものばかりだった。
「……な、なんですか……こ、これ……こんな……きゅ~」
「お嬢様!?」
そしてどれもヤバそうな記念品……いや、もう記念品とか言うレベルじゃない品々は、リリアさんの許容範囲を余裕で越えたらしく、リリアさんは目を回して気絶してしまう。
そんなリリアさんを気の毒そうに見つつ、次に封筒を開いたのはジークさん……ジークさんの招待状はブロンズで2体の六王から招待を受けているみたいだった。
『戦王:メギド・アルゲテス・ボルグネス 記念品:高級酒セット』
『幻王:ノーフェイス 記念品:ワイバーンの皮製財布』
っという感じだった。たぶんメギドさんはジークさんを褒めていたしその関係で、アリスは一緒に戦った縁で招待した感じかもしれない。
そしてルナマリアさん、葵ちゃん、陽菜ちゃんはクロから招待されていたみたいで、特にルナマリアさんは大喜びだった。
そして少しして気絶から復活したリリアさんと一緒になって、俺の方を……いや、俺が手に持つ封筒を凝視する。
「……か、カイトさんの招待状が怖いです」
「……リリアさんのも凄まじかったですけど、快人さんがアレ以上かと思うと……」
「か、快人先輩開けてみてください!」
「う、うん」
その皆の迫力に押され、俺がもっていた封筒を開くと……中からは高級感溢れる漆黒の招待状が出てくる。
「お、驚きました……まさかブラックランクとは……それは六王様全員から招待を受けたという証……今回、人界に送る招待状の内、ブラックランクはたった1枚しか用意してないと六王様からは伺っています……」
「え、えぇぇ……」
な、なんかとんでもない事になってない? おかしいよ、だってお祭りの招待受けてるだけだよ……いや、確かに六王全員と知り合いだけど……
そしてリリアさん達……どころかキャラウェイさんも俺の後ろに回り込み、全員に見つめられる中で、俺は恐る恐る招待状を開く。
『死王:アイシス・レムナント 記念品:禁術指定超古代魔導書10冊』
ちょっと待ってアイシスさん!? 滅茶苦茶ヤバそうな物が書かれてるんですけど!? それを受け取って俺はどうすればいいの!?
『界王:リリウッド・ユグドラシル 記念品:世界樹の苗』
苗!? いやいや、待て待て……育てろって事か? 世界樹を?
『戦王:メギド・アルゲテス・ボルグネス 記念品:神酒』
なにそれ!? もう字面から恐ろしいんだけど!? どんなお酒?
『竜王:マグナウェル・バスクス・ラルド・カールバルド 記念品:竜王の牙、竜王の爪』
ちょっと待って!! マグナウェルさんの牙と爪? いやいや、それ一本でもビル位のサイズあるじゃん!? それをどうしろって言うんだよ!!
『幻王:ノーフェイス 記念品:神剣レヴァティーン、魔剣カラミティ』
その伝説の剣みたいなのを俺に渡してなんの意味があるんだあの馬鹿!! 世界でも救えってか!? もうノインさんが救ってるよ!!
『冥王:クロムエイナ 記念品:最新鋭自動操縦機能付き魔導船一隻』
船ぇ!? もう記念品とかのレベルじゃないだろ!? どこの世界で記念品で一隻なんて単位が使われるんだよ!? ……この世界か……なにそれ、怖い。
も、もう、とんでもないとかそういうレベルじゃない……ど、どうしてこうなった……
拝啓、母さん、父さん――魔界において初めて六王が共同で開催する祭り、六王祭の招待状を受け取ったんだけど、そこに書かれていたのは――目を疑いたくなるような記念品の数々だった。
豆知識:キャラウェイ=前にクロに叱られた魔族