双極神ティアナ㉑
ヤギ肉というのは初めて食べたが、ラム肉っぽい感じでやっぱり牛肉とかとは結構違う。赤身肉だが想像より柔らかく、臭みはほぼ無いと言っていた通り思ったほど癖ははなくて普通に美味しい。
後味が結構スッキリした感じなので、バーベキューソースの濃い味わいでも重さが無く食べやすい。そういえば沖縄にはヤギ肉料理があるんだっけ? 俺は沖縄に行ったことが無いので食べたことはないが……。
「思ってた以上に柔らかくて美味しいですね」
「さすが、快人様お目が高い。こちら、ゴッド特性のヤギ肉でございまして、なんと……とても美味しい! それ以外の効果は一切ございません!」
「あはは、でも食べ物なので美味しいのが一番ですよね。むしろ、特殊な効果があったほうが気軽に食べ辛い気もします」
そりゃカナーリスさんの力なら、世界樹の果実みたいな効果を持ったヤギ肉だって作れるのだろうが、普通に食べて楽しむ分にそんな効果はいらない。普通に美味しければ、それでいいのである。
他の方に視線を動かしてみると、ティアナさんは串ではなく小皿に取り分けて上品に食べており、イレクトローネさんは串を持って……直後に肉が光の粒子のようになってイレクトローネさんに吸い込まれていった。
『感想を出力……《確かにいい味だね。臭みも全然ないし、いい育て方をしたんだね~》……食感も良い感じである』
「……イレクトローネさんのそれは、食べてるってことでいいんですよね?」
『肯定を出力……《はい! 美味しくいただいてます。私は電子体なので物体を電子情報化して取り込むことで味わっています》……経口摂取する方とは、違って見えるのも必然です』
「な、なるほど……」
文字通り情報を食べてるってことだろうか? 味とか食感が分かるみたいなので、相当高度な情報に変換して取り込んでいるんだろうが……。
不思議なものだとそう思いつつティアナさんの方を見ると、小皿の上に見覚えのない野菜があった。なんというか、パッと見た感じは超ミニサイズのキャベツって感じだが……。
「ティアナさんその野菜はなんですか? いや、というか野菜であってるんですかね?」
「ああ、これは私の世界の食材で、この世界で言えば……う~ん、食べてみるのが早いかな。はい、あ~ん」
「え? あ、ありがとうございます」
あまりにも自然な感じで差し出してきたので、つい反射的にパクッと食べてしまった。一口サイズで食べやすかったというのも要因だが、そして味は……サツマイモみたいな味がする。見た目完全にキャベツだったのに、食感も味も甘目の芋、やっぱりティアナさんの世界の食材は不思議な感じである。
『猛烈な抗議を出力……《はぁぁぁ!? あ~んは、ライン越えだぞテメェ!! なにサラッと、うらやまけしからんことしてんの!!》……これは禁足事項の抜け駆けに該当するものではないかと抗議する』
「いやいや……あくまで、手間を省いた結果だよ。新しいのを出して焼くよりも、そのまま私の皿にあるのをあげたほうが手っ取り早いからね」
「普通に小皿に載せて差し出せばよかったのでは? これはちょっと自分も黙ってはいられない事態ですよ。過去に嫉妬で自分たちを散々ボコってきた本人が、なにをやってやがるんだって感じですね」
な、なんか変な感じになってきたような? ティアナさんに対してイレクトローネさんが抗議して、カナーリスさんもそこに乗っかった感じである。
そういえば、冗談みたいな話で目を背けていたが……俺のファンクラブがあるとか、イレクトローネさんもたびたび推し活だとかいってたりとか、カナーリスさん曰く俺はいろんな世界創造主の方に好かれているとか、そんな話を聞いたけど……ガチのやつなのだろうか?
「え、え~と……」
「主様、気にする必要は無いですよ。節度は守って喧嘩するでしょうから、放っておけばそのうち落ち着きます」
「そ、そうなんだ」
「それより主様、こちらはいかがですか?」
「うん? それは、ベーコン?」
「はい。妾の世界樹のウッドチップを使って燻製したベーコンで、イルネスさんやカナーリスさんと試行錯誤して作った自信作です!」
「それは美味しそうだね。ネピュラさえよければ、是非食べたいな」
「はい!」
若干心配ではあるが、ネピュラが問題ないというなら大丈夫だろう。そんなわけで睨み合う三人は放っておいて、ネピュラが作った燻製ベーコンをいただくことにした。
ほのかな甘みと燻製の深い味わい。噛めば噛むほど染み出てくる旨味……これはまたとんでもないベーコンだ。ネピュラが作ったんだから当然ではあるけど、今まで食べたベーコンで一番美味しいかもしれない。
「……凄いね、さすがネピュラの自信作。いままで食べたベーコンの中で一番美味しいよ」
「妾ひとりの功績ではありませんが、主様に気に入ってもらえたのならよかったです!」
俺の感想に可愛らしい笑顔を浮かべるネピュラを見て和みつつ、睨み合っていた三人の方に視線を向けると、いつの間にか遠方に移動しており、ティアナさん対イレクトローネさん&カナーリスさんといった一対二の構図が出来上がっていた。
ただまぁ、ティアナさん滅茶滅茶に強いらしいので、果たしてふたりがかりでも勝てるかどうか……というか、なんとなく全く相手にならなそうな気がした。
~胃痛列伝・番外編~
【胃痛すら制する絶対者】ネピュラ
暴虐の限りを尽くす胃痛の悪魔の唯一の天敵にして、胃痛フラグを容易く撤去する絶対者。それだけ聞くとリリアたち胃痛戦士にとっての救世主のように思えるが、一概にそうとも言えない。
というのも、基本的にネピュラの自認は『快人の家の住人』であり、リリア宅への訪問者などは基本的にスルーする。
前回の件も、イレクトローネとティアナがリリア宅を訪問すること自体は特に気にしておらず、手土産という言葉を聞いて初めて反応したため、なんでも胃痛をキャンセルしてくれるというわけではない。
当人も現在は全知ではなく、行動範囲も快人の家の敷地内のみと狭いため、基本的に異世界の創造主絡みの胃痛しかキャンセルしてくれない。
ただ本当にいっぱいいっぱいにならないと助けてくれないアリスとは違って、助けてくれる時はかなり早い段階で根本的な対処をしてくれるので、動いてくれた時の効果は絶大である。
ただし、本人の中の最優先が快人であるため、快人の行動に対しては割と甘々判定で胃痛フラグをスルーすることもある。




