双極神ティアナ⑱
ティアナから感じる圧倒的上位者オーラに緊張はしているし、胃も痛いのだが……それでもまだ、マシなレベルであるとリリアは感じていた。
それはやはり、イレクトローネもそうではあるが、ティアナも穏やかで優しい雰囲気であり、常識的な思考の持ち主であること……そして、両者ともに軽く挨拶に来ただけと明言していたので、この応対はそう長い時間にならないであろうことなどが、ある程度の心の余裕をもたらしていた。
あとそれとは別に、いままで数多の胃痛をその身に受けてきたリリアにとって、キリキリと胃が痛む程度であればむしろ全然軽い方であり、頭痛や吐き気や異常な動悸が伴ってもいないので、この程度であればまったく問題なく表面上は穏やかな笑顔で接することが出来る。
決して本人が望んだことではないが、潜り抜けてきた胃痛案件の数が違う。予想の斜め上から隕石を落とされたりしないだけ、快人案件にしては全然マシなレベルである。
「今回は本当に簡単な挨拶だけに来たんで、あんまり長居せずに快人くんたちのところに戻ることにするよ」
「そうですか、あまり大したおもてなしもできずに申し訳ありません」
「ううん。急に来たのは私たちだし、こうして会ってくれただけでも嬉しいよ」
やはりというべきか、軽く顔合わせの挨拶も終わったので快人の家の方に戻るという話の流れになってきた。
『然り、今後も快人様の元を訪れる際に、隣人であるリリア・アルベルトが在宅であれば一言挨拶は行うかもしれないが、当機たちに対して畏まる必要は無いので、気楽に対応していただいて問題ない』
「それは、イレクトローネ様だけでなく、ティアナ様も今後この世界に度々いらっしゃるということでしょうか?」
「うん。私もシャローヴァナルに自由来訪の許可をもらったから、またちょくちょく来るとは思うし、リリアちゃんが居るなら軽い挨拶には来ると思うけど、別に私たちを変に優先する必要は無いからね。他の予定があるときはそっちを優先してくれて大丈夫だからね」
「畏まりました」
実に穏やかな流れで話は纏まっていきリリアも内心安堵していたが……もちろんそんな平穏に終わるわけがない。
「今回は急な来訪になっちゃったから、お詫びとこれからよろしくって意味も込めて、イレクトローネとそれぞれ手土産を持ってきたんだ」
「……手土産……ですか?」
流れが変わったと、リリアはそう感じていた……主に悪い方向に……。これが一般人であれば問題はない、手土産も単純にそのままの意味で受け取れる。
だが、相手はどちらも全知全能級の世界創造の神である。そんな相手が持ってきた手土産と聞けば、不安な気持ちになるのも必然と言えた。
『快人様にも助言をいただいた。所感を出力……《快人様の助言もあるから間違いないと思うし、リリアちゃんも前に会った時に気に入ってくれてるって言ってたから》……当機たちが持ってきた手土産は、模型である』
「……も、模型……ですか?」
『肯定する。まずは当機の物から出そう。リリア・アルベルトが好意的な感想を語ってくれた機獣の一体を模型として再現した。卓上などに飾って貰えると光栄だ』
「……こ、これはまた、素晴らしく精巧な模型で……」
イレクトローネがテーブルの上に置いた模型を見て、リリアは背筋が凍るような思いだった。
(……オリハルコン、ミスリル、アダマンタイト、ヒヒイロカネ……それを、異様なほど細かで精密な加工……国宝として王城の宝物庫の一番目立つ場所に飾られていてもおかしくない品……)
希少金属をふんだんに使い、超硬度の金属を異様なほど細かな細工をしており、一目見るだけで芸術品と言えるほどに凄まじい一品であった。
「私は、マテリアルドラゴンっていって、私の管理している世界のひとつに存在するドラゴンの模型を用意したよ。結構綺麗な出来だから、飾って楽しんでもらえたら嬉しいな」
「こ、ここ、これはまた素晴らしい模型で……この、炎などまるで本物のようで……というかその……本物にしか見えないのですが……」
「ああ、それは本物の炎や水を物質化してるんだよ。ああでも安心して、ちゃんと物質化の時に性質を変えてあるから、周囲のものが燃えたり濡れたりってことは無いし、触っても熱さとかは感じないよ。あくまで見た目だけ、本物の炎みたいな感じになってるだけって思ってもらえて大丈夫だよ」
ティアナが用意した模型は、炎、水、風、土の混ざり合ったような体を持つドラゴンであり、それぞれ本物の炎や水を物質化させた品で作られており……この世界の技術体系には存在しない逸品である。
(……お、お腹……痛い……どっちも、個人が所有していいようなものじゃないんですが!?)
今回の模型における快人のアドバイスや、イレクトローネたちの決定の後押しとなったのは、以前マキナがリリアに対して原寸大のドラゴンの模型を贈って喜ばれているという実績だが……実際のところあの時とはまったく状況が違う。
あの時は曲がりなりにも、リリアはマキナのお願いを聞くという形でありそのお礼として渡されたものを受け取りやすかったのと、お礼は極めてプライベートな用途のもので、贈る側のマキナもそれを想定していたため、あくまでリリアと親しい相手といった少人数で楽しむものではあった。
だが、今回はお礼ではない。イレクトローネとティアナは手土産のつもりではあるが、相手が世界創造の神となると、これはもはや下賜と言っていいものであり、単純に恐れ多い上に、この世界の技術では再現不可能であろうと確信できる模型という点にまず胃が痛い。
だがそれ以上に問題があり、本人たちに悪気は一切ないのだが、先ほど会話の流れで両社とも「飾って楽しんでほしい」という旨を口にしており……そうなるとこの品は、いわば圧倒的上位者から友好の証として下賜された品ということになる。
その上飾って欲しいとまで言われてしまうと、マキナから貰ったプライベートな世界に置いておくというわけにはいかず、最低でも宝物庫……理想としては、ある程度人目につく場所に飾る必要がある。
価値の想像すらできない品を飾るのも恐ろしいが、単純にリリアの家に他の貴族などが来訪した際にそれを目にして尋ねられた場合『この世界に存在しない技術』で作られた『この世界に存在しない生物の模型』について説明せねばならず、そうなるとリリアが異世界の神々と友好的な関係を築いているという認識は免れない。
ただでさえビックネームになりすぎて胃の痛い場面も多いのに、ここでさらに異世界の神とまで交流があるとなるとどんな騒ぎになるのか……想像するだけで、胃が捩じり上げられるような痛みだった。
胃痛の悪魔「どうだ? 美しいだろう? 胃痛とはその場でのみ与えればいいというわけではない。瞬間火力も大事だが、持続ダメージも有効……つまり、今後あの模型を飾っておくだけで、リリアの胃には定期的な胃痛ダメージが蓄積していく! 継続胃痛発生装置と言える芸術品だ!!」
シリアス先輩「……じ、持続ダメージ……だと……」
胃痛の悪魔「ふはははは!」
〜次回、胃痛の悪魔の天敵登場〜
胃痛の悪魔「へあぁっ!?」




